こどもの自殺リスクが高まる「9月」に大人ができること
近年、増加傾向にある「こどもの自殺」は、2024年も依然として厳しい状況が続いています。
今年1月から6月までに自殺で亡くなったこども(小中高校生)は229人(暫定値)。2023年の同時期までと比べると5人多く、減少の歯止めがかかっておらず、むしろ増えていることから、今年、過去最多を更新しかねないと懸念されています。
1年間で自殺で亡くなったこどもの数がこれまでで最も多かったのは、2022年の514人です。2023年も同水準の513人と、直近2年で1000人を超えるこどもが自ら命を絶っています。
9月は、とくに自殺で亡くなるこどもが多くなる傾向があります。2022年と2023年の9月の自殺者数はいずれも50人を超え、また少し古いデータではありますが、以下のグラフからも9月1日が突出して多いことがわかります。
こうしたデータからもわかるとおり、多くの地域で夏休み明けとなる9月は、とりわけこどもの自殺リスクが高まりやすい時期として注意が必要です。
こどもの自殺の予兆は見えづらい
なぜ、こどもは自殺で亡くなるのか。
一般的に、自殺で亡くなるケースの多くは、背景として、複合的な悩みや課題が連鎖して起こります。こどもの場合、同様のケースもあれば、一つの特定の悩みの深刻さが増し、自身ではどうしようもなくなってしまうケースも少なからずあります。
いずれにしても、多くは「もう生きられない」「死ぬしかない」という気持ちを抱え、追い込まれた末に、自ら命を絶っています。そのため、追い込まれていくプロセスの中で、こどもからいかにSOSを発してもらえるか、大人が異変に気づくことができるかが重要とされています。
しかし、実態として、そもそもこどもの自殺の予兆は見えづらいこともわかっています。
2024年5月、いのち支える自殺対策推進センターが「こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究報告書」を公表しました。
これは、令和5年度こども家庭庁委託事業として、各都道府県の教育委員会が保有する報告書をもとに、過去5年間で自殺で亡くなった小中高生272人の置かれていた状況等を分析したものです。
同報告書によれば、学校の出席状況に関して、「以前と変わりなく出席」が44%と最多、「不登校または不登校傾向」(10%)や「2週間以上前から欠席が目立った」(8%)を上回っていました。
また、保護者や学校、友人ほかに「自殺の危機を気付かれていた」は18%、「何らかの変化は気付かれていた」が15%であった一方、「自殺の危機も変化も気付かれていなかった」は21%と、回答があったケースのうちでは最多でした。
このように、こどもの自殺の予兆は見えづらく、その背景には、こどもが自らSOSを発することが難しい現状があります。
大人や周囲の人にできること
そうしたなか、大人や周囲の人にはどんなことができるのでしょうか。
ふだんからこどもと関わりのある大人なら、こどもがしんどい気持ちになったときにSOSを出せる関係性の構築や平時からの声かけがあります。同時に、こどもがSOSを発した際、どう反応するといいかという具体的な対応を知ることが重要です。
たとえば、こどもから「死にたい」と言われたとき、その気持ちを否定してしまったり、「そんなこと言わないで」といった反応をしてしまうと、こどもは「これ以上は本音で相談できない」と感じてしまうと考えられます。「死にたい」という気持ちを大人に相談することは、こどもにとって勇気がいることです。だからこそ、大人はその気持ちを怖がらずに受け止めることが重要です。
受け止め方としても、「死にたい」という気持ちになっている理由を聞くなど「大人が聞きたいこと」ではなく、あくまで「こどもが話したいこと」を聞くスタンスが求められます。そうすることで、少しずつ「死にたい」と感じる悩みの吐露にもつながるかもしれません。
また、話を聞くなかで自身だけでは対応が難しいと感じる場合には、必要に応じて専門機関や専門家に相談することを勧めてみるのも、選択肢の一つになります。
「死にたい」という気持ちには波があります。波というのは、「死にたい」という気持ちの揺れ動きであり、その上下幅は人によって異なります。仮に、「死にたい」と言ったこどもが、その翌日に元気な様子に見えても、「なんだ大丈夫じゃないか」と捉えるのではなく、「そういうものだ」と受け止める必要があります。
何よりも、まずはこどもがSOSを出しやすい関係づくりや声かけを日頃から行い、いざSOSが発せられたら、こどもの気持ちを受け止めて話にしっかりと耳を傾けること。それが、こどもの身近にいる大人ができる大きな役割です。
また、しんどい気持ちを抱えていそうなこどもに提示できる選択肢を知り、伝えることも大事です。匿名・無料で利用できるSNS相談・電話相談窓口も多くあり、とくに電話に抵抗感のあるこどもには、LINEやオンラインチャットで相談可能な窓口もあります。
相談以外の選択肢としては、『かくれてしまえばいいのです』などの居場所もあります。
『かくれてしまえばいいのです』は、匿名・無料で24時間いつでも利用可能なWeb空間であり、「死にたい」気持ちを抱えながら、それでも安心して過ごせる場です。こうした場を知り、こどもに伝えることも大人や周囲の人ができることの一つです。
ライフリンクが取り組むこと
NPO法人ライフリンクも、こどもの自殺リスクが高まる9月に向けて、以下の取り組みを予定しています。
■相談窓口の拡充
ライフリンクが運営するSNS相談・電話相談ともに以下の期間に相談員を増員し、SNSについては相談時間を拡大します。
◆生きづらびっと(SNS相談)
8/24(土)8時~8/26(月)22時30分まで(受付は22時まで)連続対応
8/31(土)8時~9/2(月)22時30分まで(受付は22時まで)連続対応
※通常 毎日8時~22時30分(受付は22時まで)
◆#いのちSOS(電話相談)
通常通り毎日24時間受付、以下の期間に相談員を増員
8/24(土)~8/26(月)
8/31(土)~9/2(月)
■『かくれてしまえばいいのです』発の企画
『かくれてしまえばいいのです』は3月の公開以降、現在までに1000万回を超えるアクセスがあり、1日あたりのアクセス数も5万回となっています。
多くのこどもにとって夏休み最終日となる9月1日(日)の20:00からは、初めての試みとして、YouTubeライブ「しんどくなったら、みんなでかくれナイト――ヨシタケさんとよるのかくれがさんぽ――」を配信します。
ゲストとしてお招きするヨシタケシンスケさんは、『かくれてしまえばいいのです』のコンセプト策定や世界観・コンテンツ制作に全面協力いただいている絵本作家です。
今回の配信では、ヨシタケさんご自身がこども時代の夏休み明けに感じていたことやしんどいときのやり過ごし方、『かくれてしまえばいいのです』の開発秘話もお話いただきます。YouTubeライブを通じて、みんなで一緒に「死にたい」気持ちをやり過ごす時間にできたらと考えています。
なお、ヨシタケさんは、8月31日(土) 22:00より放送されるハートネットTV+「#8月31日の夜に。」(NHK)にも出演され、『かくれてしまえばいいのです』についてもお話される予定です。
また、夏休み明けに向けて、メディアからの取材も増えています。それらの報道を通して、さまざまな人に『かくれてしまえばいいのです』を知ってもらい、必要とする人に届けられたらと考えています。
・朝日小学生新聞/朝日中高生新聞
・日テレNEWS
・朝日新聞デジタル
2024年9月、こどもの命を守るために
2022年 57人、2023年 54人――。
これは、それぞれの年の9月に自殺で亡くなったこどもの数です。
たった1カ月の間に50人以上のこどもが自ら死を選ばざるを得ない状況に追い込まれている現実、そして可視化されていないもう一つの現実として、これらの数字の背後には、この何倍、いえ何十倍、もしかしたら何百倍ものさらに多くの「死にたい」という気持ちを抱えたこどもたちがいるということです。
こどもは社会の未来であり、これほどの数のこどもが自殺で亡くなっているということは、日本社会の未来が失われているとも言えます。
2024年も9月を迎え、例年と同様のことが起きかねない状況です。そうならないよう、私たち大人ができ得るあらゆる手を尽くしていかなければなりません。
こどもが、自殺ではなく生きる道を選べるように支援する、そうした社会をつくるために、私たち一人ひとりにできることを一緒にやっていけたらと思います。