日記 2020/08/13

昨日、WOWOWで1999年に赤坂BLITZで行われたDragon Ashのツアー「Let yourself go」が放送された。
もしかするとこれまでも何度か再放送が行われたのかもしれないが、僕が気づいた再放送は今回が初めてだった。

このライブは1999年4月11日に行われたもので、時期としてはシングル『Let yourself go, Let myself go(1999年3月3日リリース)』と『Grateful Days(1999年5月1日リリース)』がリリースされるちょうど間に行われたものである。『Let yourself go, Let myself go』もかなり話題にはなっていたが、俺は東京生まれHIP HOP育ち〜の『Grateful Days』で一気にブレイクし、その後アルバム『Viva La Revolution』を経てDragon Ashは世代を代表するカリスマになった。このライブの時点でもDragon Ashはかなり話題になっていたが、まだカリスマになる前のDragon Ash、髭を蓄えていないあどけない降谷建志が映し出されている。ライブでの曲も『Buzz Songs』中心で、それ以前のアルバムの曲もあったりして、どちらかといえばロック寄りだ。

僕がこのライブ放送を初めて観たのは確か『Viva La Revolution』がリリースされた直後のことだった。僕が頼んだのかは覚えていないが、父が録画してくれていた。『Viva La Revolution』にはリリース直後からその虜になって何度も聴いていたが、このライブには『Viva La Revolution』からの曲があまりなかったこともあり、一度観たっきりほとんど観ていなかった。

1999年のお盆明けの時期、僕はショートステイで台湾の台中に行った。そこで同じグループになった高校生のお兄さんとDragon Ashの話題で盛り上がった。今はどうかはわからないが、当時の台中では、独自の選曲でベスト版みたいなアルバムが激安で売られていて(おそらく人気曲を選択してCDーRで焼いてパッケージ化したもの)、僕はそのときDragon Ashと椎名林檎のCDを購入した。

そのDragon AshのCDには『Viva La Revolution』以前の曲もバランスよく入ってた。何度も重ねて聴くうちに、その多くが「Let yourself go」で演っていた曲であることに気づき、それから当時VHSに録画してもらっていたこの「Let yourself go」のライブ放送を文字通りテープが擦り切れるほど観た。

誰もが降谷建志に憧れていた。少なくとも僕がいた中学や住んでいた寮ではそうだった。
僕もこのライブでの降谷建志の髪型を真似た。「Let yourself go」のライブでの降谷建志は短髪の無造作な髪型で、ジェルでカッコよく髪の毛を立てていた。
刈り上げでなければいけない、ツーブロックにしてはいけない、髪が耳にかかってはいけないなど、今考えると馬鹿みたいに髪型に厳しい中学だったが、降谷建志の髪型であれば校則に反則しなさそうなところも良かった。
降谷建志と同じようにリストバンドをつけたり、頭がでかいのにバンダナを巻くことを試してみたりした(似合う似合わない以前に頭が大きすぎてバンダナをうまく巻くことができなかった)。中学生の僕からすると、降谷建志のカリスマっぷりはえげつなかった。

「Let yourself go」のライブは何曲かYouTubeにアップされていて、懐かしくなったときにたまに観てはいたが、ライブ全部を通して観たのはおそらく20年近くぶりのことである。登場曲は坂本龍一の『戦場のメリークリスマス』。その後『The Day dragged on』からライブ開始。そうそうこんな感じだった。

観ている間は、ずっと懐かしい気分になった。懐かしい気持ちになりたくて観ているのもあるからそりゃそうだ。でも、観ているうちに当時の気分のようなものが蘇ってきて、ただ懐かしいというだけでもなかった。

例えば上で書いた髪型。僕は美容室の人に中学の頭髪検査がいかに厳しいかを力説した上で、それでも降谷建志のような髪型にしたいのだと美容師さんに伝えた。
中2の夏休みが明ける前に初めて行った美容室である。それは緊張して美容室の扉を開けたものだ。入るといい匂いがして、綺麗なお姉さんが出迎えてくれた。

まるで映画フィススエレメントを思い起こさせるようなスペイシーなおしゃれな美容室だった。無機質で、無駄なものが一切ない空間。田舎なのに最先端の設備が整っていて、シャンプーは頭にパカっとはめて、機械が自動的にしてくれる。別に気持ち良くはない。ken ishiiのようなテクノ音楽がずっと流れていた。スペイシーを極めている美容室だった。

席に着いたらsmart、メンズノンノなどの雑誌を置いてくれた。何が面白いのかさっぱりわからないまま、美容師さんとの沈黙に耐えられなくて雑誌をめくった。担当の美容師さんは長髪の髭を蓄えた少しイカつい感じの人だった。それまで一度も接したことがないタイプだ。何を話したらいいのかわからないし、美容師さんも特に話ししかけてくれるわけではない。香水の匂いがぷんぷんしていた。わざと大きめに調整しているらしいポールスミスの時計をはめていて、ハサミを動かすときにその時計をいちいちカチャッカチャッと音を立てさせていたのだが、smartを読みながら、あぁこれがおしゃれということなのかぁと思った。その後、誕生日に全く同じ時計を買ってもらった。もちろん大きめに調整してもらった。中学の教室で、教科書を読んでいるときなんかに意味もなくカチャッカチャッと音を立てさせた。

そんな美容室で、おしゃれな美容師さんは、鏡を見る限りでは降谷建志のようにいい感じに髪が立つように仕上げてくれた。大満足だった。髪を切り終わったら父が車で迎えにきてくれて、僕が車に乗り込むや後部座席に座っていた弟が「なん、そん髪型?そがんしてよかと?でも、かっこよかねぇ」と嬉しい言葉をかけてくれた。

なのにだ。なのに、頭髪検査では見事に落とされた。ワイ、なんやその髪型、調子に乗んなよ、みたいな感じでガツンと怒られた。

そんなことを思い出して、20年振りに心から腹が立った。「Let yourself go」のライブを観ながら感情は見事に蘇る。初めての美容室は最高だったけれど、結果としては最悪に終わった。腹立たしい。結局、近くの床屋できれいに刈り上げてもらわなければいけなくなって、髪型は台無しになった。腹立たしい。だが、その後もその美容室には定期的に通うことになる。

そんな感じで当時の記憶がごちゃ混ぜでいくつも蘇ってきたりもしたけれど、改めて観ると、降谷建志よりも馬場育三さんのベースの素晴らしさが目についた。シューゲーザーではないはずなのにずっと屈伸のように体を折り曲げた状態で弾いたりして、変な弾き方ではあるが、音はめちゃくちゃかっこ良い。
『陽はまたのぼりくりかえす』で感極まって泣く降谷建志の顔を覗きに追いかけ回して、最後にもらい泣きして自分も泣いていた。調べてみると当時既に34歳とかだったのね。今の僕とほぼ同じ年齢だ。

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