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【試し読み記事】「人生の宝物を、受け継いでいこう 『智代アフター』について」(Life is like a Melody ―麻枝准トリビュート)

 人生の宝物を、受け継いでいこう 『智代アフター』について
(ジャンル:評論)
多賀宮

※記事内にネタバレを含みます。ご注意ください。

 『智代アフター~It`s a Wonderful Life~』(以下『智代アフター』)は二〇〇五年にKeyから発売された美少女ゲームであり、二〇〇四年に発売された『CLANNAD』のヒロインの一人である坂上智代と結ばれたのちの後日談を描く物語である。しかし、発売後の評価がおおむね好評であった『CLANNAD』とは対照的に、本作はメインライターの麻枝准が一~二ヶ月の休職に追い込まれるほどの強いユーザーからの批判を浴びた1。『智代アフター』は麻枝が『CLANNAD』発売後に空いた時間を使って自らのエゴでつくった作品であると随所で公言しており、Keyというメーカーをシナリオ、音楽の両方で支え、クリエイターとしての地位を不動のものにしていた彼が本当に作りたかったものは、実はユーザーの意にそぐわないものであったというのは皮肉なものである。
 他方、本作のコンシューマー移植版(以下CS版)はPC版に比べ高い評価を得ている。CS版は、当時Keyの新人ライターであり、後に発売される『リトルバスターズ!』や『Rewrite』で本格的にKey専属ライターとして活躍することにすることになる都乃河勇人が大幅な加筆修正を行っており、またその修正は単に十八禁シーンの修正や新規の日常描写にとどまらず、作品の結末部まで及んでいる。本論考は、『智代アフター』のPC版を主に取り扱い、その分析とユーザーの反応を通じ、プレイヤーが美少女ゲームに向ける欲望の所在を明らかにするとともに、PC版により顕著にあらわれる『智代アフター』のきわめて強い批評性を顕在化させることが目的である。
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 まずは簡単に『智代アフター』の物語を確認しておきたい。本作は一つの独立した美少女ゲームであるとはいえ前作『CLANNAD』でのAFTER STORY編とパラレルな構造になっており、AFTER STORY編が渚と結ばれた後のルートを一本道で描いたように、本作も基本的には智代との仲を深めていくだけの一本道のゲームである。本作の序盤は特定のヒロインのファンディスクとしての役割に実に自覚的な作りとなっており、智代との蜜月の日々が淡々と描かれる。しかしその二人きりの生活も長くは続かない。そこから、智代の弟の鷹文、鷹文の元カノの河南子、そして智代の義理の妹であるともが二人のアパートに転がり込んできて、その五人である種の「疑似家族」を形成してゆく。このゲームを大きく分けると、この五人での疑似家族的な生活が第一部、そして、朋也が記憶障害を抱えてからの智代との二人の生活を描くのが第二部ということになるだろう。以降、本稿は全編を通じ、この区分を用いて議論を展開してゆく。『智代アフター』に寄せられる批判の多くは、この第一部から第二部への強引さ、そして第二部の描写の粗さ、結末の悲惨さといった所に集中している。だからこそ、CS版では第一部への加筆はほとんど行わず、第二部への導入と、その内容の修正に徹する必要があった。次章以降、PC版にこそ麻枝が書きたかったコアの部分がありのままで現れていたという主張を展開し、また、『AIR』のアップデートとして本作が機能しているという観点から、本作を既存の美少女ゲーム批評の議論の俎上に乗せ、話を進めていこうと思う。
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 美少女ゲームユーザーのPC版への批判の骨子は、…

(続く)

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