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【Netflix】『ボーイフレンド』に学ぶコミュニケーション論【ネタバレあり】

Netflixで配信されている番組『ボーイフレンド』をなんとなく見始めたら、夜中の3時まで一気見してしまった

参加者は全員男性、つまり男性が恋愛対象の男性同士の恋愛リアリティーショーということで、LGBTQの理解という文脈で語られることも多いこの番組。
ストレートの女性である私としては、鑑賞前は「彼らの恋愛を消費することにならないかな」と思うところもあった。

結果として、その心配は杞憂であり、烏滸がましかった。
LGBTQ、さらには恋愛という枠組みをも超えて、人間同士のコミュニケーションについて学ばせてもらえたからだ。
この記事の『I. 出演者同士のコミュニケーション』で、いくつか例を挙げて紹介したい。

またこの番組は、LGBTQの話題に対して関心が薄い人や、恋愛リアリティーショーが苦手な人にとっても(むしろそういう人こそ)、楽しみやすい作りとなっている。
制作サイドが確実に意図していると思われる点について、『II. 番組から観客へのコミュニケーション』にまとめた。

目次以降は、以下の内容をすべて鑑賞した上で全体的にネタバレしているので、未視聴の方はご注意を。

  • Netflix配信中の本編全10話

  • YouTube公開中の本編未公開映像

  • YouTube公開中の『ボーイフレンドナイト』および『ウォッチパーティー』


Ⅰ.  出演者同士のコミュニケーション

Ⅰ.-1  カズトが無双する理由

爽やかイケメン・人当たりが良い・料理上手と、女から見ても納得のモテ男、カズト。
ゲイの世界特有の魅力は分からないが、人を嫌な気持ちにさせないコミュニケーションは、彼の天性かつ飲食・接客業で培われた賜物なのだろう。
印象に残った例をいくつか。

  • 「リョウタお待たせ〜」ちょっとした一言に相手の名前をくっつけるだけで、グッと親近感が増す。「◯◯さん、おはようございます!」のように、明日からでも真似できる。

  • ウォッチパーティー(YouTube)で、ゲンセイがリョウタに手紙をもらったと勘違いしていた件で一同爆笑。その後カズトが「ダイは俺のこと好きだと思ってた!」と話していたのだが、海外の視聴者から「勘違いしてたのは自分だけじゃないと、ゲンセイの気持ちを軽くしようとしているんだね」というコメントが付いていた。真偽はどうあれ、カズトなら自然とそういう気遣いをしていそうだな、と思える人柄。

  • 気の毒なほど恋の矢印を向けられたカズトだったが、9人の中で一番会話中に質問をして相手を知ろうとしていたのは彼だった気がする。最初にみんながGreen Roomに来た理由を聞いたり、自然と全員に話を振ったり。逆に、カズトの好みのタイプや料理人になった泣ける理由などは、スタッフによるインタビューで明かされていた。映っていないだけで、みんなもカズトに質問していたのかな?

I.-2  ダイの伸び代

ダイは、全編を通して最も印象が変わった人物だ。最初から人懐っこいとは思っていたが、2周目を観始めた時に「こんなに可愛い感じだったっけ!?」と驚いた。
それぐらい、あの若さで時に父のような包容力を魅せてくれた人だった。
精神的に余裕がある男は、もちろん女にもモテる。ダイのちょっとした物の言い方にも、包み込むような優しさと揺らがない芯のようなものを感じた。
例えば、8話でシュンの「説明してもいい?」に対する「いいよ」の言い方など、ストレート男性におかれましても是非参考にされたい。

また、3話でのテホンとの議論で「(LGBTQである自身を含む)マイノリティー側が、マジョリティー側に配慮を求めすぎるのは良くないと思う」という主旨の発言をダイがしたのは、番組に良いバランスをもたらしたと個人的には感じる。
さらに、その後のシュンとの会話の中で「恵まれた環境だから(そういうことが言えるんだ)という前提で来られることが多い」と話していたのも、客観的に自分を捉えていて感心した。

メタ的な視点を踏まえて、自分の意見を持つ。名実ともにコミュニケーション強者だ。

I.-3  全人類が胸に刻むべきテホンの名言

8話のテホンとシュンの会話は、全編通して最も心に残ったシーンだ。なぜなら私の心に刺さり過ぎたから。

「相手を傷付けたと分かっているなら、正論は後でもいいから、謝る。」

頭で分かっていてもこれができない人、世の7割ぐらいでは?

テホンの話の進め方も素晴らしかった。
一言目に「どうしたん?」「悲しそうな顔してる。」と、100%シュンに寄り添う。言い方も優しく、心が解ける。
シュンの「僕が謝る理由がよく分からない。付き合ってもないのだから、手を挙げるかどうかは自由では?」という言葉に、テホンは「それはそう。たとえ付き合っていても、自由だよ。」と、シュンの意見を尊重する。
だからこそ、「正論は後でもいいから」までテホンが言った後、実はシュン自身が「傷付けてごめんねって謝る(べきだよね)」と続けたのだ。それこそ正論を押し付けるのではなく、まずは相手を尊重することで、本人から自然に答えを引き出す。コミュニケーションのお手本のような会話だった。

後日談として、ボーイフレンドナイト(YouTube)でテホンはこの会話を振り返り、「若い頃は自分もシュンのような姫属性だった。当時の自分に声を掛けるつもりで言葉を掛けた。」と話していたのも驚き。
スタジオMCが「伊達に34年生きてないわぁ!!」と感銘を受けていたのに、深く同意。私も、伊達に◯◯年生きてないぜ!と思えるような人生経験を積んでいきたい。

I.-4  恋愛における同意

前述のテホンの名シーンで、「たとえ付き合っていたとしても、挙手するのは自由」という言葉は、シュンの意見だけでなく人間関係における自由意志を尊重していると感じた。

こと恋愛においては、コンセント(同意)という考えがここ数年で普及してきたとは言え、まだまだ「ちょっと強引なぐらいの方がモテる」という意識も根強い。

8話の“人類史上に残るキスシーン”(©︎チュート徳井)を見てみよう。
あの“じりじりと焦げ付くようなエネルギーの交換”(©︎ホラン千秋)の中で、ダイからいくことはいくらでもできた。しかし、ダイは耐えた。なぜか?3話でシュンが「キスしたくなったら僕からするから」と言っていたからだ。
シュンの言葉を、自由意志を尊重したのだ。

SNSで“性欲に支配された男の顔”がバズっていたが、あのシーンでは右に限りなく近いテンションを、映像に乗せられるギリギリの範囲で感じた。その状態で、理性を本能に勝利させたダイへのご褒美が、シュンから与えられたのだと思う。

I.-5  シュンという男

シュンの気質に対する反応は、視聴者を二分していたように思う。

私の反応はと言うと、「画面にめんどくさい時の私映っとるやん。」だった(ただし若さと美しい顔面を除く)。
シュンの言動が我慢ならないといったレビューを聞いていると、だんだん自分が怒られているような気持ちになる。笑

一方で、誰しも程度の差こそあれ、人間関係において許し許されてきた経験があるんじゃなかろうか。
あまりにも厳しくシュンを批判する人は、普段から自分の感情を抑圧し過ぎていないか振り返ってみても良いかも知れない。

シュンはその複雑な出自から、過去を恨んで自分に呪いをかけることも可能だった。もちろん容姿に恵まれたことは大きかっただろうけど、彼は自己を肯定して生きることを選んだ。

だからこそ、シュンがいつもフルネームで自己紹介するのが好きだ。

II.  番組から観客へのコミュニケーション

II.-1  演出

『テラスハウス』出演者に痛ましい出来事が起こった時、カナダの友人の第一声が「心理カウンセラーはついていなかったの!?」だったことが印象に残っている。

対して『ボーイフレンド』では、出演者に対するメンタルケア(※)を継続的に行い、エンタメとして過度な演出や編集をしない。
スタジオMCのコメントにも愛があり、上手いこと出演者をイジりつつ、彼らに批判が向かないような雰囲気を醸成していた。

過去の反省に向き合い、誠実な番組を作るという製作陣の覚悟が感じられた。

※参考:Business Insider Japan|Netflix「ボーイフレンド」が日本トップに、MCとプロデューサーに裏側を聞いてみた(前編)
https://www.businessinsider.jp/post-289980

II.-2  LGBTQ

『ボーイフレンド』がSNSで話題になっていた頃、同性愛者として生きてきて傷ついた出来事について、ボーイズたちが話す動画を偶然目にした。

それを見た率直な感想は、「なんか説教臭い番組なのかな?」だった。

本編視聴後のいま思えば、カミングアウトやセクシュアリティといった内容の多くは、YouTubeの未公開映像として配信されている。
Netflixの本編映像、特に序盤では、こうしたLGBTQの教育的側面を持つ内容はおそらく意図的に盛り込まれていない

入口は誰にでも入りやすく、興味を持った人に届けたい情報を届ける。繊細なテーマだからこそ、効果的なメディアミックスだ。

スタジオMCの一人、ドラァグクイーンのドリアンさんが、序盤数回は変身(?)前の男性姿で出演していたのも、そのメッセージの一つだと感じた。

II.-3  グローバル

関連動画や出演者のSNSを見ていて、海外ファンの多さに驚いた。
番組の主役とも言えるダイシュンカップルを中心に、そのファン層が彷彿とさせるものがある。BTSのファンダム、ARMYである。

狙って取れる訳ではないコミットメントの高いファンダムを得たことは、日本のエンタメにとって貴重な学びとなるはずだ。

現時点で未公開映像等には公式字幕が付いていないので、海外ファンから字幕を切望するコメントが殺到している。
この辺り、ファンによる字幕作成を戦略的に展開したK-POP界は慧眼だった。

提言:まとめに代えて

ほぼ非の打ち所がないと言える本作だからこそ、最後に一点だけ提言させてほしい。

『ボーイフレンド』のような番組が制作され、LGBTQ当事者以外の視聴者からも人気を集めるなど、世間の理解は進んできているのだと思う。
とは言え、身近にセクシュアルマイノリティー(であることを公言している人)がいないという層もまだまだ多いのではないだろうか。
同性婚も未だに認められていない日本で、同性カップルによる里親制度といった議論は、人によっては一足飛びに聞こえてしまいかねない。

TVドラマ『きのう何食べた?』第8話で、50〜60代と思しきテツさんが「パートナーのヨシくんに財産を残すことができるよう、彼と養子縁組を組みたい。縁を切った両親にはビタ一文渡したくない」と吐露したシーン。無知な私はその時初めて、同性カップルが抱える具体的で切実な問題の一つを知った。
コロナ禍で、法律上の“家族”以外は面会を制限されたり最期を看取ることができなかったりといった悲劇が報じられたからこそ、誰しもその不条理さを自分事として共感しやすいのではないだろうか。

遠回りで歯痒いようであっても、例えばパートナーシップ制度の拡大などから議論を始めることで、現存する問題をゆっくりと着実に潰していく。
そうしたアプローチも可能だと思った。

☕️ 🚚 🏄‍♂️

冒頭にも述べた通り、『ボーイフレンド』は他者と関わるすべての人に、コミュニケーションの大切さを教えてくれる。
コーヒーを片手に、あの夏のボーイズたちに会いに行こう。

ゲンセイ限定のカフェモカ…ではない☕️

おまけ:おすすめPodcast

鑑賞後、少なくとも日本語の『ボーイフレンド』レビューPodcastはすべて聞き漁ったと思われる。
中でもこちらの番組は、2時間半(!)に及び言いたかったこと全部言ってくれてるので、余韻を楽しみたい方は家事やお散歩がてら是非。

▼これはチェホン。

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