息もできない
サーフィンを始めた夏が過ぎて、
冬の夜に眠る。
どうしようもなく高い波がきた時は、
底まで沈むと良いのだと、
誰に教わるでもなく夢の中で知った。
海底まで沈んで、月明かりが差し込む海面を見上げる。私だけが静かで、荒々しい海が全てを拐うのをただ見ていた。
あぁ、あれは後悔の波だ。
私だけが息をできる後悔の海の底。
気付けばどこかの部屋の中で私は後悔の海の球体に包まれてふよふよと浮いていた。
私を包んだ海が暖かかったからここままで良いのかも、と目を閉じかけて。
ふいに、なんだかダメな気がした。理由はわからないけれど、私を包むその海面に触れてみたくなった。
指先が触れるとパチン、と海が弾けて、空気がどんどん入ってくる。苦しい。何故。
そうか、きっといつのまにか後悔が私を生かしていたのだ。
いつのまにか苦しくなくなって、目を開ければ私は球体から見えた部屋で寝ていたみたいだ。ここはどこだろうかと起き上がると、ちょうど襖が開けられて懐かしい人の姿。
私は訳もわからぬまま、もうあなたなんか嫌いだと、そう口に出していた。
なんとも言えない顔をして去る後ろ姿がいつかと重なった。
またやってしまったと、私はやけに白い掛け布団を握りしめる。
また?前はいつだっただろうか?なにも思い出せない。
ここままじゃいけないということだけが唯一私にわかることだった。
シワがついた布団を蹴飛ばして、朝日に溶かされた後ろ姿が消えた廊下へ足を踏み出した。
足が勝手に進む先であなたは朝食をとっていた。なんだか少しも待てなくて、縁側に来てとだけ言って先に縁側に向かう。
知らない場所、知らない時間。
訝しげな眉は見慣れたものだった。
縁側に立ち、庭を眺めているとゆっくりとこちらに来たあなたは無言で腰掛けた。横に座ろうとするとなぜか私が近付いた分だけ、あなたは離れた。
ムキになって、距離を詰めようとしたら手が触れた。
あ、と視線を上げると目があう。
少し泣きそうな顔をしたあなたは仕方ないなと、強く手を繋いだ。
私は唐突に理解する。涙がこぼれた。
あなたのいない未来を生きているんだった。
この冬の終わりは、あなたの迎えられない春だった。
ひどいこと言ってごめんね。
私は未来で言えなかったことを言う。
じっと目を見て、気にしてないって優しく笑ってくれるから、私はごまかすように柔らかく晴れた空をみる。
縁側から見える苔の生えた石を縁取る陽光が眩しい。どうりでこの庭が少し見慣れた風景なのは未来であなたが眠ってるところだから。
「ここ、好き?」
「どうだろう。来たことあるの、小さい頃と今日だけのはずなのに、落ち着くんだ」
そう言ったあなたの笑顔は初めてみる穏やかさを湛えていた。
陰っていたはずの縁側に光が差し込む。波が浜辺の砂を攫うように、キラキラとした光がいつのまにかあなたを縁取って、白に溶かしていった。
待って、
目を開ければ、昨晩眠ったベッドの上だった。ぽろりとこぼれて消えるだけの一粒の涙だけがこの記憶の証明だった。
起き上がり、窓を開けると明けたばかりの夜が少しだけ香る。
勝手に後悔を抱えて生きた苦しささえも見透かされて許された気がした。
夢は夢だっただろう。
それでもあなたが会いにきてくれたのだと、私は思おう。
あなたが溶けた光が、静かに波を攫っていった。
本当に見た夢の話。忘れまいと急いで書いたから、意味わからんかも知れんけどどうしても残して置きたかった心の揺れやった
夢は夢かもしれなくても、夢で会えたことには変わりないし動くはずのない2人の時間がまた動く奇跡が起きたみたいでとてもとても幸せやった
奇跡みたいな穏やかな日曜日の朝の話
2020.04.12