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のりくら 移住者インタビュー#01

佐々木達人(ささきたつひと)さん 名古屋市出身

植物の成長が著しくなってくる夏の始まりに、「外来種除去作業中」と記されたユニフォームを着て作業する人の姿を高原内のあちこちで見かけます。その活動の中心にいるのが、佐々木達人さんです。佐々木さんは、外来種駆除や雷鳥保護など、様々な自然保護活動をしながら、のりくら高原で一日一組限定 貸切の宿「佐の屋」を営んでいます。17年前に家族3人で乗鞍高原に移住した佐々木さんの「のりくら暮らし」について、お聞きしました。


家族で一緒に のりくらへ

△まいめの池にて

佐々木さん「のりくら高原に移り住んだのは、2008年3月末。もともと山が好きで、名古屋にいた時も休日は山に出かける生活をしていました。移住のきっかけは、子どもを自然にあふれたところ所で育てたかったから。娘が小学5年生の時です。」

佐々木さんは、名古屋で小学校の教員として約22年間(内2年は海外派遣)勤めました。移住を決断したのは、「(子どもの教育の観点で)5年生というのはギリギリかな」という思いがあったからだそう。最初は山村留学を考えましたが、妻の公美子さんともよく話し合い、「子どもだけ山村へ行かせるのではなく、家族で一緒に」と移住を決めました。

のりくらでの仕事と暮らし その魅力

名古屋時代から時々、のりくら高原に足を運ぶ機会があった佐々木さんは、移住のタイミングで民宿の営業を始め、ガイド業も始めました。移住に際し、どんな考えでお仕事を始めたのでしょうか。

佐々木さん「こちらに来て、どこかへ勤めに出るのも一つの選択肢でしたが、自然と密着した暮らしを求めていたので、やっぱり民宿をしたりガイドしたりしながら生活を営むことで、ここに住む意味が出てくるのかなと思った。自分で畑を耕してつくったものを食べてもらったり、山菜やきのこを食べてもらったり。そういうことに(ここで暮らす)意味があるのかなと。」

環境の変化や仕事の変化など、移り住んでからは挑戦の連続だったのではないかと思いきや、ご本人は「ガイドは教員の延長。宿の仕事や畑仕事も生活の延長。挑戦しているという意識はない」ときっぱりと言います。

△佐々木さんの妻、公美子さん。畑で採れる新鮮野菜と愛猫と共に

これまでの人生経験で身につけた仕事や生活(力)を糧にして、のりくらで暮らしを営む佐々木さん。「凝ったことはしていないので」という佐々木さんが当たり前に振る舞うもてなしには、都会に暮らす人たちが求める特別なものがあるようです。

佐々木さん「ありがたいことに、うちはリピーターのお客様がほとんどで、季節を変えて何回も来てくださる。この仕事をしていて嬉しいのは、季節を変えて自然の美しさを感じてもらえること。ここ(まいめの池)にもよく来るのですが、冬に来るのと今頃来るのと秋に来るのと、同じ場所でも全然違う。そういう違いを感じて頂けるのが嬉しいですね。」

△乗鞍岳をバックに。雪形の変化からも季節の進みを感じるという

季節ごと、日毎に変化する自然の美しさや違いをお客様に感じてもらえることが喜びだと語る佐々木さんが思う、のりくらの最大の魅力とは?

佐々木さん「やっぱり自然と密着型っていうこと。山菜が出れば山菜を。きのこが出ればきのこを。雪が降れば雪山へ。イワナの季節がくればがイワナを釣る。その季節によって暮らしが変わる。日々景色が刻々と変わり、自然が変わっていく。それが一番の魅力かなと。どの季節が一番かと言うと……どれもいい。まあ『今』が一番いいですね。」

のりくらでの子育ての時間

その時々の『今』が一番だという佐々木さん。娘さんが小さい頃も、よく一緒に山菜採りに出かけるなど、その時々の「今」を親子で一緒に味わってきました。その娘さんは現在社会人となり、九州で暮らしています。改めて、のりくらでの子育ての時間を振り返って感じることをお聞きしてみました。

佐々木さん「子どもは実のところ(移住に関し)どう思っていたのか分かりません(笑)。名古屋では、1校で1000人規模の学校でした。そこから30数人という規模のこちらの学校へ移ったので、子どもは(環境の変化に順応するのに)大変だったと思う。幸い同級生に恵まれて、楽しく生活していたとは思います。中学の時は学校が忙しかったので、もうちょっと時間があればよかったなとは思う。」

△佐々木さん親子
(提供:佐々木さん 2015年5月 いがやレクリエーションランドにて )

その後、娘さんは中学を卒業して高校入学と同時に松本へ下宿することに。高校のある市街地まで車で1時間という通学の壁は高いと感じ、下宿を決めました。自立が早まりいいところもある反面、佐々木さんとしては、あと数年間は娘さんと一緒にのりくらで過ごせたら良かったかもしれないという思いを持っています。

しかし、のりくらで過ごした時間がポジティブな記憶として刻まれている様子を娘さんから感じてもいます。

佐々木さん「よく『のりくらに帰りたい』とか、『将来的には田舎に住みたい』と言っているのを聞くと、まあ、ここでの暮らしも気に入っていたのかなとは思う。本当のところは分からないけどね。誰か聞いてくれないかな(笑)」

自然を第一に考えた暮らしを

△外来種駆除作業の様子。 インタビュー後、作業に直行した

娘さんが自立された今、宿やガイドの仕事に加えて、佐々木さんは以前から取り組む自然保護活動を更に精力的に取り組んでいます。

佐々木さん「自然保護については、ここで暮らしている人間の義務だと思うんですよね。それにガイドをしたり、来てくださるお客様をもてなしたりする我々の仕事は、自然があってこそ。末永く後世に伝えていかなくては。」

乗鞍岳でライチョウが安心して住めて、高原内では在来の植物の生態系が守られ、色んな動植物が調和した形で昔ながらの自然として存在できることを目指したいのだと語る佐々木さん。外来種駆除など佐々木さんが行う自然保護活動には賛同者が少しずつ集まり、最近は行政とも協力しながら、活動の輪が広がってきています。

△宮の原 水芭蕉群生地での外来種(オオハンゴンソウ)駆除作業をする佐々木さん

佐々木さん「ここは人の手が入って残されてきた自然なので、ある程度の人がいなければ維持できないと思う。私としては、自然が第一で人間が第二という姿勢の方がここに来てくれると嬉しいです。そういう方と一緒に自然を守り、自然第一のコミュニティを作っていけたらなと思います。」


「自身の暮らしは自然あってこそ」という考えの元、できる時に・できることを・できる範囲を少しずつ広げながら続ける佐々木さんの「のりくら暮らし」は、気持ちのいいほど明快です。

暮らし方や自然との関わり方について、唯一の正しさを求めるというよりも、自然と近いからこその「今」を味わう暮らしのあり方を足元から見つめ直してコツコツと行動に移していく。そんな地に足の着いた力強さを佐々木さんの暮らし方に感じずにはいられません。


佐々木さんがのりくら高原で笑顔になる瞬間は?

△乗鞍岳で撮影した雷鳥親子(提供:佐々木さん)

「高山帯で雷鳥に会って元気そうだと、にこっとする。特にこれからの時期、ひなが生まれるが、梅雨時に寒さで死んでしまうこともある。雛の数が年によって結構違うが、雛が5.6羽いることが確認できた時ににっこり笑顔になります。」

■ 一日一組限定 貸切の宿「佐の屋」

■ のりくら外来種駆除
https://www.facebook.com/norikura.gairaisyu/


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