龍戦記ドラグーンソール 第12話
ドラグーンソール第12話 沈みゆく太陽龍
茶色の短髪の男性が、激を飛ばす。西洋風の鎧を身にまとい。整備を急がせる。この男性こそが司令官であり、侵略者であるクラウスだ。彼が指揮し。ロベルガーの投入の最終調整に入る。
「急げ。この世界を我が手にするために。そして、別世界の移住を急ぐのだ。すべては、奴を倒すために……!」
神秘的な羽衣を纏ったエッダの巫女が、クラウスに進言する。
「失礼します。クラウス様」
クラウスは、エッダの巫女の方に体を向けて、頷く。
「どうした? エッダ―いや、ミレディよ」
クラウスは愛する人の名前で呼んだ。
「はい。イレギュラーが少々紛れ込んでいたので、こちらの方でも。別世界で失敗した生体兵器ルインの抜け殻を持ってきました。彼らの抗いは、無駄に終わります」
ミレディは、愛する殿方を見るような目で、そっと彼の顏の輪郭をなぞった。
ミレディは知っていた。この戦いは二度目であることを。そして、一度目は、忌々しき命の審判者である太陽龍ドラグーンソールの最期の戦いによって、計画を破壊されたのだ。
そして、愛するクラウスを時空の彼方に放り出されて、別れてしまったのだ。
彼女は、嘆いた。自分自身を助ける為に、自分の命を顧みず。龍介達の世界に生き伸ばそうとしたたった一人の愛する男が、笑って消えていくのを。クラウス以外の人間はいらないとさえ、彼女は思った。だから、この世界を、他の世界も壊してでも、禁断の手段に出る。
狂おしく、愛に溺れたミレディ。彼女は、愛する男を助ける為に禁忌を犯した。それは、十二ノ月の乙女が管理する封印された邪竜エングルフェスの力を使うこと。その代償として、己の魂とこの世界と異世界の侵略によって、差し出した。
「その先の戦いを察知しているのは、この時代にはいないでしょう」
この戦いが終わったら、自分は地獄に落ちることになるだろう。ミレディは覚悟していた。
たった一人の男を助ける為ならば、自身の存在は安い対価だ。そして、彼のいない世界など、意味はないのだから。
「ミレディ」
「なっ!? く、くらうすさま!?」
ミレディは強引に抱きしめられたことに、驚き。頬を朱色に染めてしまう。
「どう、したのですか?」
「君が、私の前から消えてしまいそうな気がしたのだ。君のような能力は私にはない。ただの政治をできるだけの男だ。だが……私は、君を失いたくないのだ」
ミレディは、声を詰まらせた。確かに、彼には、予知などの能力はない。ここで気のせいだと言ってしまえば、それで済むのかもしれない。それでも、愛する人からの抱擁をほどくことができなかった。
「大丈夫ですよ。クラウス。わたくしは、あなたの心の隣にいますので」
彼女は、護りぬく決意を示すかのように彼の背中に両手を回して抱きしめた。
「ですが、わたくしの。小さな我儘をお許しください」
彼女は、潤んだ瞳で彼の双眸を見つめ。桜の様な唇を彼に捧げた。愛おしくも、甘く。
(彼には知らないでほしい。私だけの、我儘すぎる浅はかな願いを)
この時が永遠に続けばいいと思う。だが、それは誰にもできはしない。
だから、情愛を。あなただけに捧げる真っ赤な愛という名のスカーフを巻きつけたい。
それが、ミレディという名の女性の物語である。
吸血鬼の女王フェリスがデータを解析する。
「ふむ? どうやら、各自の試練が終わったようだな。二日間と早いが」
「そうなんですか?」
桂優香が、雑用を終えてお茶を彼女の机に置いて、休憩を促す。
「うむ。そうだ。ん? ルティアからのメールだ。ふむ……? リーシ嬢ちゃん達がいる泉に優香とシュティールンクを連れて行きたいか。となると。未来で何か変化が起きるということがあるということか」
金髪の腰まである長い髪を揺らして、お茶を飲む。
「そして、優香。君はいつになったら、龍介と結婚するのかね?」
優香は自分の分の飲み物を飲もうとしたときに盛大に噴き出した。
「けほ、けほ・・・! きゅ、きゅうに、なにいうんですかあ!?」
優香は、涙目になりながら、フェリスの方をじろりとにらむ。
彼女は悪戯をした子供の様に微笑む。
「ふふ、すまんな。私にしてみたら娘みたいな子が未来から来たのだ。母心を持つ年頃の私としては、優香の結婚を聞いてもいいだろうに?」
「そ、それは、その。結婚して家庭を作りたいとは思っていますが、その……」
かぁーと顔を赤面させて、言葉を詰まらせる。
「年齢的にも色々と課題も、資金もいりますし」
もにょもにょと小声で優香は現実的な問題をこぼす。
「そうか。だが、形だけでも挙げてもいいだろうに?」
ぎしっと背もたれに体重をかけて、フェリスは優しく語りかける。
「これは、私の考えだが……結婚というのは、互いの誓いのようなものだ。死が2人を分かつときまで愛する。時には衝突したりもするだろう。不安や不満もあるだろう。しかし、思い出すのは、世界中で、多くの人の中から自分が選び。選んでくれた相手に対する誓いを立てた時の想いだ。それを忘れなければ、大丈夫だろう」
「そう、なのでしょうか?」
「こればかりは、周囲の人と当人たちの不断の努力が要るさ」
ゲートから、犬飼豪、荒川美奈子 水野彩香。そして、破壊龍ドラグーンシュティールンクが出てきた。
「ほう? 君が未来のルティアというわけか?」
フェリスが目を細めて、彼女の目を射る。
「ええ。久しぶり。と言った方がいいのか…。フェリス。私は優香を泉に連れていく。構わんな?」
シュテ―ルンクが問う。
「ええ。あのハイエルフが住まう泉ね? 目的は・・・あー。そう。エッダの巫女がいじったのが原因か。うん、あっちに話を通しておくから……はぁ~~あなた達は動けそう?」
死屍累々の状態で疲労が見える豪達四人。優香が水分を補給の用意をしている。
「優香、ありがと・・・」
「じょ、ジョグレスエヴォルドって・・コンナニ体力使うのね。わーい、川の向うでおじいちゃんが手を振ってるのが見える。ふへへへ」
「ししょう・・・。進化するのはいいですけども、全力でジープをよけるのは、ウルトラマンレオだけにしてください。それと、さすがにスピンにはスピンとか・・・あああ」
「犬飼君だけ、すごいことになっていますけども…大丈夫でしょうか?」
優香は心配そうに見やるが、シュテ―ルンクはこう答えた。
「大丈夫だ。死にはしてないからな。……優香。すまないが、龍介とルティアと合流するために少し付き合ってもらうぞ」
豪の扱いだけは、ひどい。何度も言うが、ひどい。と優香は思った。
「え?え? あの、何故私が? それよりも、死なないからって」
「ふふ、少し冗談を言っただけだ。簡潔に言えば、この先の未来に備えるためだ。では、飛ぶぞ。離すなよ?」
優香の手を握ると、2人は消えて行った。
ハイエルフが守護する泉に龍介とルティアの姿見えた。
「るーちゃん? ここに来てどうするの?」
「うん。先にお兄ちゃんにソールバードの使い方と龍魂剣の使い方を教えようと思ってるの。ソールバードは、ドラグーンソールが作った魂の欠片。つまり、根源でもあるの」
ルティアはゆっくりと語りかけるように説明する。
「ドラグーンソールの進化の系譜は、変身者の魂の強さ。言い換えれば「想い」の強さに比例する。焚く想いが燃えるほど、強くなり、その力は無限大になる。そして―――それは、星1つを生み出したり、破壊したりもする。
「命の審判者」ドラグーンソールの真の姿。
「神龍帝」は、皇帝の証であり、どんな敵とも戦える強さと慈悲を併せ持つ。
だから、破壊龍とお兄ちゃんが持っているソールバードの二つを合わせることで神龍帝―ドラグーンソールカイゼルが誕生する。バーニングバーストは、その過程で生まれた副産物。だけど、これは一時的に人間の持つ制御システムを意図的に解除するもの。
だから、一回使ったら、数時間ううん、三時間は変身できない。でも、例外として、ソールバードは想いの形。だから、お兄ちゃんの想いが強ければ、応えてくれる。そのための切り札だから」
ルティアがそのことを伝えると1つの短剣を差し出した。
「お兄ちゃん、この短剣にドラグーンソールのカードを載せてみて?」
「これは、ルティアの短剣だよね? 大切なものなのにいいの?」
「うん、大切だから…お兄ちゃんの為にも使いたいの。これが、私たちの切り札だから」
ドラグーンソールの変身カードをルティアに渡すと、ルティアはカードを剣に乗せて、詠唱する。それは、竜の使命を持ったものが使える古代の詠唱。
そして、これから先に起こることの災厄から愛する人を守るために、助ける為に。
何よりも、理不尽な運命に抗い、勝ち残るために、彼女は戦う。
(お兄ちゃんに守られるのを待っているだけの、女の子じゃないからね?)
秘めたる想いを、未来の自分が同じ種族になった桂優香が愛する人の隣にいる。
それだけで、ルティアは幸せだった。
「うん。これでよし。ありがとう。お兄ちゃん」
「どういたしまして。だけど、1つ聞いていい?」
「ん??」
「るーちゃんって呼んでいい? シュティールンクがルティアだってことはドラグーンソールから聞いているから、その、ね? 混乱するから」
ルティアはポニーテールの黒い髪を揺らして、あちゃー…と頭を抱える。
「もう、お兄ちゃんにもばれちゃったのかー……。うん、そうだね。るーちゃんって呼んでね? それと、シュティールンクと優香さんはもうすぐ来るから」
「へ?!」
龍介が驚いた声を上げたと同時に、漆黒の龍戦士シュティールンクと桂優香が2人の目の前に現れた。
「着いたな」
「龍介くん!」
優香は、駆け寄って龍介を抱きしめた。
「ちょっ、ゆかさ」
いきなり抱きしめられて、言葉が出ない龍介。
「無事で、良かった……!」
どれだけの言葉を口から紡いでも足りない思いを、優香は彼に伝える。
龍介は、その言葉を聞いて静かに頷いて、「ありがとう」と彼女の背中を撫でる。
「初めまして、かな? シュティールンク」
「ああ。この時代の私よ。「月光龍」の準備は?」
「うん。あとは私達の髪の毛とお兄ちゃんに対する想いだけで完成するよ? だから、シュティールンク。髪の毛を頂戴」
シュティールンクは、自分の髪の毛を短刀ですぐに切って、彼女に渡した。
「これでいいか?」
「ありがとう。それじゃ、こほん。桂優香さん。お兄ちゃん。イチャラブタイムは後にしてください。優香さんには、私のお手伝いをしてもらいますので」
「あ、ご、ごめんなさい! ルティアちゃん」
ささっと優香は龍介を開放する。
「初めまして、桂優香さん。私は、生まれ変わる前のあなたです。お兄ちゃんを末永く愛してくださいね? 約束ですよ」
「わ、わかりました。末永く愛して、子づくりを」
「ゆかさーん! かむばーく!」
優香は瞬間沸騰して、目をくるくる回して、とんでもない発言をする。だが、当の本人は気づいていない。
「ふむ? 子づくりしても何ら問題もあるまいに? なぜ、そこでおに…龍介が慌てるのだ? 年頃だろうから私は気にしないが」
シュティールンクは「はて?」と左右に頭を揺らして疑問符を頭にいくつも思い浮かべている。
「いや、それは、色々とあるから、ね? それと「子づくり」は・・・・ごにょごにょ」
龍介も男の子なので、赤面して俯いてしまう。
「では、優香さんと私で新たなカードを作りますので、お兄ちゃん…お兄様は、日本の鶴の恩返しの如く、覗かないでくださいね? 禊をしますので」
「えーと禊って……? あ……」
かぁーと優香は全身が熱くなり、髪の毛の先までふわっと浮いてしまうかのような錯覚に陥ってしまう。
「りゅ、りゅうすけくんは、その、こないでくださいね? それでは、いきましょー」
少々、パニック気味になった優香が強引にルティアを連れて行って、古さびたロボットのような歩行でぎこちなく動いていく。そして、取り残される龍介とシュティールンク。
「そ、それじゃー俺はその間にシュテ―ルンクと話をしたいからいいかな?」
「おに、じゃなくて。龍介、いいのか?」
「うん。話しておきたいし。それに、俺を強くしてほしい。二つのソールバードを使いこなすことが、ドラグーンソールカイゼルに進化する一つの手段だと教えられたんだ」
龍介は、シュティールンクに頭を下げて頼み込む。
「お願いします。俺は、あなたの事情を勝手に知りました。無礼かもしれません。あなたにとっては、知られたくない過去かもしれません。だけど、俺はわがままです。
この時代のるーちゃんもあなたも桂優香さんも守りたいんです。
傍から見れば、傲慢で驕り昂っていると罵られても仕方がないでしょう。
それでも俺は望んでいるんです」
穏やかな風が2人を包む。
「わかった。その代わり、1つ私の我儘を受け入れてほしい」
シュティールンクは変身を解くと長身で流れるような黒髪の乙女になり、豊満な胸に均等な姿態を魅せた。
「あなたの記憶の中に溺れたい」といえば、どれだけ楽になるだろう。だが、シュティールンクは消えていく。桂優香と巽川龍介の2人が紡ぐ物語だ。だから、これからの物語にシュティールンクの話は、交わることはない。横からかっさらうような真似はしたくはない。
今想う。ルティアとの日々を過ごした時間に、シュテ―ルンクは思う。
―ふたりの愛を守る。一刀の龍となりたい―
例え、歪んだ破壊の力を持った龍であろうとしても、自分が愛し、愛を育んでいる別の魂が、自分が愛した男に想いを抱くこと。この未来がわかっているだけで、彼女は満足だった。
「このカードを持っていてほしい」
シュティールンクは、自身の力を込めたカードを龍介に渡した。
「これは、君の?」
「ああ。もし、変身できなくなった時に使うといい。それが、私からの我儘だ。さて、ここに封印された邪竜エングルフェスについて、話そう。今から数千年前のことだ。ソールを含む四人の龍戦士が神龍帝となり、12ノ戦乙女と供に戦った。そして、この地に封印したのだ。彼の竜の側近に「白翼と黒翼」と呼ばれる2人の戦乙女がいた。2人の名は、シロとクロだ。シロは、天使系の頂点に匹敵する力を持ち。クロは、悪魔系の頂点に匹敵する力を持つ。そして、彼らは、次元を超える力を有している。」
龍介は、はっとなって。ピニクニックに行った時に拾った白と黒の羽の存在を思い出した。
そう、あの時から既に、龍介達の存在を彼らは知っていたのだ。そして、戦っていた相手が目の前にいるシュティールンクであること。
「シュティールンク。君が、俺たちがピクニックに行った時に、時のはざまでたたかっていたのか? そして、俺達に会うために」
シュティールンクは頷いて答えた。
「そうだ。話を打ち切るが、少し甘えていいか?」
コロンとシュティールンクが龍介の頭に自分の顎を乗せた。
「うん。この髪の感触がいい」ごろごろと猫の様に甘えるシュテ―ルンクに龍介は、優しく微笑んだ。
「今は、やすんでね。そして、作ろう。みんながみんな。お腹いっぱい笑いあえる未来を」
優香は、泉で身を清め。ルティアと一緒に最後の儀式を行う。
「いい? 優香お姉ちゃん。あとは、私達の髪と気を完全同調させることで「月光の龍戦士ドラグーンノルン」が誕生するの。この存在は、切り札だから、私の代わりに、お兄ちゃんを助けて」
ルティアは切なる願いを優香に託す。生まれた時代は違う。しかし、愛した人は同じだ。なら、愛する人を守るのが、女としてのプライドだ。
「ええ。わかりました。ルティアさん。あなたの意志を私が受け取ります」
過去と現在の存在が、時を超えて意志を受け継ぐ。
それは、永遠の光のヒーローである。ウルトラ作品の平成三部作の第一作目「ウルトラマンティガ」のようだった。太古の光の戦士ウルトラマンティガが現代社会に蘇り、光となった伝説と同じように、少女たちに受け継がれていく。
「ただ、思い浮かべてください。白銀の龍がお兄ちゃんを守る姿を」
優香は頷いて答えた。瞳を閉じて、祈るように想像する。
暗闇の雲を突き抜けて、白銀の龍が巽川龍介を守る姿を。そして、それは「飛竜の姫巫女」という名を持つ「月光の龍戦士 ドラグーンノルン」である。
さらに、ノルンは進化する。月と太陽が1つになる時。戦いに終止符を打つ龍騎士になる姿が、思い浮かんだ。白いマントに。皇帝のような赤を主体とした鎧。銀のラインが入った淵。
それは、慈愛と強さを併せ持った。超越した存在だった。
「うん。成功!」
ルティアが、髪を触媒とした短剣「龍魂剣」が完成した。白を基調とした柄。オカリナのような笛と穴。刃は青く月のように輝いている。
「これが、龍魂剣」
優香が龍魂剣を手にすると。剣は青い宝石の指輪になり、彼女の左薬指に嵌った。
「使い方は、出ろと念じるだけで、飛んでいくから大丈夫。それじゃお兄ちゃん達の処に戻りましょうか?」
「はい」
2人が戻ると、美奈子と彩香がそれぞれの龍戦士の力を使って、どちらが多く魚を取れるかを競っていた。それを放って置いて、豪が龍介とともに魚を焼く為のかまどを作っていた。
「なにがなんだかわからない?!」と2人は硬直していた。
「雷光真電! これなら、雷を操っているあたしだから、できる技よ? 才女さん」
ふふんと美奈子が身体能力を向上した反応速度を超人以上の体裁きで、魚を30匹以上捕獲していた。
「あら? 無駄に脳筋のやり方ね。でも、ただ体を早めるだけじゃなく。追い詰めて自滅させる方法も必要よ? こんなふうに」
手をパンパンと叩いて、水柱をいくつも作り上げて水の壁を作って、魚を50匹は閉じ込めた。
「どう? 水柱の檻。先代が残したことを実践するのもいいわね。」
「ぐぬぬぬ?! や、やるじゃん。さすが私のパートナー」
「ええ。あなたこそ」
美奈子と彩香は、互いに尊敬していた。だからこそ、ニヤリと微笑む。
「あ、おかえり。今豪と一緒に魚を焼く為の竈を作っているから」
「それと、こっちのリーシ達にも軽く挨拶して、事情話して置いたぞー」
「龍介君、これは一体?」
「お祭りだよ。何か、予感がするんだ」
龍介は立ち上がって、優香たちに近づいて答える。
「もうすぐ、戦いが始まるんじゃないかって。そんな予感がさ」
自分の掌を見つめて、彼は思う。運命の歯車がフルスピードで回っている。
その未来を勝ち取るには、自分たちの双肩にかかっていること。
チラリと、ルティアとシュティールンクを見て龍介は思う。
「少しでも、守る価値のある思い出をるーちゃんたちと作りたいんだ」
「お兄ちゃん」
「そういうこった。俺達がいるから、バッドエンドになんかさせはしないさ。絶対にな」
豪が秘めたる覚悟を持った目で再度誓う。男が戦うのは、護るものの為に戦い。安心して未来への種を咲かせるための時間を作ること。それが、修行の中で得た答えだ。
「そーそー。そこのバカは、あたしらより強くなったんだから、安心しなさい」
「私達も事情を知っているわ。クラウスが狙うことも。時間が少ない事も、だから、最後まで私達ドラグナーという希望を信じていなさい。ルティアちゃん、シュテ―ルンク」
乱獲した二人の少女が強きに言う。
「お姉ちゃんたちも。あり、がと、う」
ルティアはこんなに大勢の人が時を超えてまで、自分を守ろうとすることに。涙が勝手に零れる。この人たちを、人間を、信じたいとルティアはそう心から思った。
「んじゃ、パーティーだ!」
繁みの中から、白いワンピース姿の金髪ハイエルフ。リーシが現れた。
「おお。ちょうどよかったか。お待たせ。飲み物も持ってきたぞ」
「よっしゃ! 宴ジャー! 酒のもーぜー」
「お酒は二十歳からでしょうが! 子供の教育によくないでしょうが!」
悪ふざけで酒飲み発言した豪を美奈子が全力でぶん殴る。
「ぶ、ぶろくんまぐなむ。世界を狙えるぜ」
豪は、親指を立てて、サムシングアップした。しかし、気絶した。
「ぷ。ははははっ! 変なのー! あはははっ」
ルティアは、2人の漫才に心から笑った。これから起こる出来事でさえも。
彼らなら、軽く乗り越えていくだろう。そう、信じられる未来が彼女には見えた。
彼らは、戦い前の宴を楽しんだ。
将来の事。受験の事。強くなることは何か? それは弱さもまた強さだと議論したり。
豪と美奈子のガチバトル―は、豪が最後に負けるというお約束で終わる。
「みんなに、聴いてほしいんだ。私の曲「月の微笑み」を」
ルティアが龍魂剣を手にして、演奏する。
それは、月が戦い疲れた人たちに優しく微笑むような曲だった。
森の木々も、虫も、風も、空も、大地も、獣も、彼女の音色の虜となった。
ほんの数分の演奏は、終わった。
彼女に、万雷の拍手の嵐が巻き起こった。
ルティアは、恥ずかしそうに照れて、俯いた。
「すげーぞ。るーちゃん!」
「うん!すごい。私達の世界のプロにも匹敵する。ううんそれ以上の曲だったわ!」
「はー。音楽とか疎いけど、これはすごいことはわかるわぁ……これがあれになるのは」
美奈子は一度言葉を切って、チラリとシュティールンクを見る。
「こちらを見るな」
呆れたように溜息をついた。
「だが、こういった出来事は私の時にはなかった。未来が変わりつつある」
龍介と優香は互いに頷いて答えた。リーシは指先をくるくると回して、顔色を直に変えた。
「まずっ! すぐに戻らないと! 私達の住んでいる所が、ロベルガー達に襲われている! 数は、うそ。三千の兵隊……?」
リーシは顔面蒼白になり、飲みかけの盃を落とした。
その異変を聞いて、真っ先にシュティールンクが飛び立った。
「チッ! 甘かった! 私が動いているのなら、相手も「時を超えている可能性もある」と視野に入れるべきだった! 甘くなりすぎたか」
シュティールンクは、自分を責めた。紅い炎に舐められている住居が見える。
逃げ惑う人たち、心なき機械兵が蹂躙する。
「やめんかっ!」
シュティールンクは黒い風となって、百体もの敵を薙ぎ払う。
「ウォートルネード!」
手甲に伸びた三つの爪を重ね合わせて、自身の体を螺旋状に回転させて、突っ切る。
「大丈夫か?」
逃げ遅れた親子をシュティールンクが守る。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「ドラグーンだ! ドラグーンが来てくれたんだ!」
シュテ―ルンクは、自分が名もなき「龍戦士の一人として、戦っている」と理解した。
(そうか。これが、「守るということなのか」)
「お礼は、後で良い。私は黒い太陽龍ドラグーンノワール。ソールの弟子だ。ここは私が守る。ここから先の泉に行け。そこには、頼りになる戦士達がいる。いいな? 振り返らずに真っすぐに、走っていけ!」
シュティールンクは、いや。黒い太陽龍ドラグーンノワールは、破壊の力を守るための力に変えて、たった一人で戦う。逃げていく人を1人でも多くするために、戦い抜く。
「さあ、お前たちの相手は私がしよう。ここから先は、行かせはしない!」
紫色の目をギラリと輝かせ。最後の戦いをする。
彼女は、独りで戦ってきた。この世界の住民から畏れられ。見送られた言葉は、微笑んでいた。しかし、心は彼女に対して怯えていた。
強大な力は、災害にしかならない。
その災害を力で抑えつけるのがすべてだというのだろうか?
だが、幾度も絶望と失望の中でも。彼女は信じられたものがあった。
太陽の龍戦士ドラグーンソールを初めとする龍戦士達の存在。
そして、時空を超えていつだって、信じられる人間がいることを知った。
「俺もいる!シュティールンク」
空の上に、ドラグーンソールが太陽の鳥―ソールバードの背中に乗って現れた。
「お兄ちゃん! ルティアは?!」
「大丈夫。親友に任せてきた。一気に終わらせるぞ! 『ノワール』!」
シュティールンクは、目を大きく開いた。だが、この小さな勇者の背中に自分の命を預けて、自分がこの勇者の一刀になりたいと思った。
「わかった安心して、全力を出していい!」
2人の龍戦士が共闘する。太陽の龍戦士がさらに進化する!
「ドラグーンソールバーニングバーストモード!」
ソールバードと一体化し。太陽の翼が背中から生える。胸に黄色の嘴と目が形成される。
火の粉が、羽ばたくたびに巻き散らかされる。
「アトミックナックル!」
右こぶしを捻らせて、突き抜けると。200体のロベルガーを貫通させた。
「スピニングシュート」
空に舞い上がり、そのまま体を回転させて一気にロベルガーを蹴散らす。
まさに、一騎当千の強さ! だが、遠くから光線が放たれて周囲にいたロベルガーを巻き込まれ、村が壊されていく。
「これは……まさかっ! 破滅の竜ルインの力か!」
ノワールは炎の海の向こうから現れた。戦艦を見た。その先頭にミレディが立っていた。
「その通り。できそこないの力だけになった。破壊龍シュティールンク。そして、侵略先の龍戦士ドラグーンソール」
「あなたが、ミレディですか? 何故、相手の心を傷つけることをすることができるのですか?」
ドラグーンソールバーニングバーストは、問いかける。
「それは、私がお答えしよう。ミレディ、君は下がってくれ」
「クラウス様? わかりました。危険があると判断しましたら、介入します」
マントを羽織り、王者の風貌を現した。クラウスが彼らの前に姿を見せる。
「君は、この時代の存在ではない。遥か別の次元の存在らしいね? 私の名はクラウスだ」
「私は、巽川龍介です。何故、るーちゃんたちの世界を壊そうとするようなことを?」
「ふむ。たつみがわりゅうすけ。か。龍介よ。君は、どうしようもない腐った世界を治したいと思ったことはないか? 暴力が暴力を呼び。それを失くすためには、絶対的な力を持った存在がいる。恐怖による統治、それが」
彼が指をパチンと鳴らすと空中に十字架に張り付けられた。豪、美奈子、彩香、ルティア、優香の姿があった。
「このようになる。こちらの条件はただ一つ。太陽の龍戦士である君が、我が兵器の核となり、破滅の竜ルインを完成させる。他のモノは全て開放しよう」
「みんな!」
ドラグーンソールバーニングバーストが駆け寄ろうとしたときに、シロとクロの眷属が立ちふさがる。これは、交渉ではない。一方的な征服だった。
倒すだけなら、2人でもできる。だが、いつでも殺す準備ができている相手がいる状況では、まだ若すぎる龍介には、無理があった。
両手を強く握りしめて、ワナワナと震えた。
「ッ! わかった。その代わり、ルティアを含めた皆を開放するのが先だ。あなたの指示1つで、倒されるのがわかっている。その証拠として変身は解除する」
龍介は変身を解き。人間に戻った。
「いい判断だ。ミレディ。彼らの後ろに十字架を戻せ」
「はい。仰せのままに」
ミレディは、5人を十字架に張り付けたままノワールの背後に下ろした。
「では、来てもらおうか?」
ドラグーンソールは両手両足を十字架で拘束され。戦艦に連行された。
「お兄ちゃん!」
シュティールンクの声が背中から聞こえる。
「大丈夫。みんなを、頼んだよ?」
龍介は、振り返って精一杯の笑顔を彼女に見せた。
シロとクロの眷属が龍介をクリスタル状の十字架に封じ込めて、連行する。
「動くな。欠陥品! おまえもわかるだろう? 愛した人が命を懸けて守ろうしていることを。その行為を無駄にするのなら、この世界とお前の背中にいる者たちも一緒に破壊することは容易いぞ?」
ミレディは、思う。自分の命か愛する人の命かを選択を迫られた時に、龍介と同じようなことをすることを。そして、敵として最大の敬意を持って、哀しい決断をした彼を侮辱するようなことは、彼女のプライドとしては許さなかった。
「クラウス様。彼の少年の決断に、報いるために今しばらくの猶予を3日ほど与えてくれませんか? そうすることで、絶望が広がると思います」
ミレディは、膝を折り。クラウスに申し出る。
クラウスは頷いて答えた。
「わかった。聞くがよい! ドラグーンノワール! お前たちの世界を破壊するための猶予として、3日の時間を与える! その時が太陽龍の最後だ! お前たちの希望であるドラグーンソールはいなくなる! 3日間は、私の名に誓い。進撃を停める。以上だ」
戦艦は、ゆっくりと動き出し、時計回りに向きを変える。巽川龍介を捕らえたクラウスは、勝利の笑みを浮かべる。
シュティールンクの守りたいものを護れなかったという悲しき咆哮が、炎に彩られた村の中で虚しく響き渡った。
あとがき。
毎度毎度思うのだが、どうして、こうなるの?! 最初の予定は、優香さん連れ去らわれる。
豪達の敗北。の予定だったのに。
なんで、主人公が拉致られるん?! Σ(゚д゚lll)ガーン
その理由としては、最近の事件の影響もあり。ウルトラマンXのEDの一部である。
「何のための力なの? 平和を乱す敵 追い払う為。 でも、何故襲ってくるの?
理解しないまま。ねえ? 倒していいの?」というのがあります。
確かにウルトラマンXは賛否がありますが、「怪獣との共存」そして、「ただ怪獣を倒すだけでいいのか?」というモノが問われてきます。
龍介が、クラウス達にコンタクトを取ったのも、「ただ、倒すだけでは解決しない」と感じ取っているのもあります。人が誰かを攻撃するのも、その背後には動機があります。
動機を「わかる」ことができても、完全にわかることは難しいでしょう。
好きな特撮作品の曲や世相もじゃんじゃん取り入れております。
さて、作っていて、次が最後の戦いの前?となります。
たぶん、Wordの用紙で言えば。あとがきを含めて20枚前後の予定です。
最後までの拝読。ありがとうございました。
レミーより
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