沢木耕太郎さんは、なぜいつまでも若々しいのか。
先日、執筆した沢木耕太郎さんのインタビュー記事がYahoo!ニュースで公開になった。コロナ禍について、また、東京オリンピックについて。ともすれば過激になりかねないテーマだが、世界中を旅した作家の目線はとても穏やかで、とかく相互監視に傾きがちな昨今の人々の感情を、「まあまあ、落ち着いて」と慰撫してくれるような内容だったと思う。
こんな時期だからこそ、ぜひ、多くの人に読んでいただきたいです。
さて今回は、沢木さんのインタビューという僥倖に恵まれたことから、少し考えたことがあったので、私見を書いてみようと思う。
バックパッカーブームが懐かしく…
『深夜特急』をバイブルに、バックパックを背負って若者たちが世界を旅した時代があった。もちろん、今でも多くの旅人たちがいるとは思うが、私が大学生だった頃は「猿岩石」の人気も手伝って、友人たちがこぞって「あまり日本人に出会わない場所」を求めて旅に出ていた。私も、バックパッカーではなかったけれど、何度も海外一人旅をしたものだ。安宿で、大学の知人の知人に出会うことなどザラにあって、「なかなかひとりにはなれないものだな」なんて考えたことを思い出す。
旅先で出会う日本人の若者たちは、もれなく『深夜特急』のファンで、主人公「私」のルートを辿りたいとか、「私」が行ったことのなさそうなところへ行くんだとか言い、酒の席ではそれをネタに口論したりしていた。
今振り返ってみればみんなが青々しく、かわいらしく思える。
あの頃、みんなが自由に旅をしていた。シリアに留学した友人もいた。今はとても足を踏み入れることのできない国も、平和だった時代があった。
沢木さんのインタビューをすることが決まって、久しぶりに著書をいくつか読み返していると、そんな若い頃のことをいろいろと思い出してしまった。
駆け出しの記者時代の描写に、背筋を伸ばす
沢木さんは緊急事態宣言期間中、初の国内旅エッセイを上梓した。東北・北陸への旅を軸にしながら、少年時代や、駆け出しの記者だった時代の回想、在りし日の作家との交流など、思い出が綴られた一冊だ。
特に、駆け出し時代の回顧録は、私のような物書きのハシクレにとって、とても興味深いものだった。沢木さんにも、大先輩の取材で緊張するという時代があったのだなあ、と思って読み進めているうちに、待てよ、とふいに、ドキドキしてきた。
私も取材者として、沢木さんに試されちゃうんじゃないのか?
沢木耕太郎に逆取材されてドギマギする
インタビュー当日。
私もこの仕事をして20年以上、よっぽどのことがない限り、インタビューで緊張するということはないのだけれど、この日はさすがに朝から緊張してしまった。
それでも、現場に現れた沢木さん本人は、たたずまいからして、緊張感をほぐしてくれるような雰囲気を纏っており、なんというか、飄々としていた。
いざ向かい合って、さあインタビューという段になると、彼は私の名刺を見ながら、「あなたは何年くらいこの仕事をしているの?」と尋ねた。
え?
名刺をろくに見ないでサッとしまってしまう人も多い中、インタビュイーから逆質問を受けたことなどほとんどないので、私はびっくりしてしまった。ドギマギしながら答えていると、「どうしてこの仕事を選んだの?」「仕事は楽しい?」などと、さらに質問が続く。
就職試験の面談を受けているような気持ちになりつつも、沢木さんがニコニコしながら聞いてくれるので、リラックスして話すことができたが、はて、私なんかのバックグラウンド、面白いところはあっただろうか?
それでも、目の前にいる私に、少年のような好奇心を瞳にたたえて質問を続ける沢木さんは、なんともキラキラしていた。
「なるほど、わかりました。ありがとう。では(質問を)どうぞ」
本来のインタビューを促され、ハッと我にかえる私。そこからの内容は、先のYahoo!ニュースをご覧いただきたいのだが、実際はもっとたくさんのことがらについて語っていただいて、掲載しきれなかったのが残念なくらいだ。
何歳になっても、好奇心の塊。それが沢木耕太郎
沢木さんは今年73歳になる。
以前から見ていた宣材写真に比べると、年齢を重ねられたなとは思ったが、実年齢を考えれば、その若々しさには目を見張るものがあった。
なぜ沢木さんはいつまでも若々しいのか。
それは、沢木さんがいつまでも好奇心を失わないからなのだろう。
大人になるほどに手だれになり、目の前にあることをサッと流してしまうテクニックを人は身につけていく。私にも心当たりがある。取材を長く続けていると、「ああ、大体こういうことね」と推測して、質問を端折ってしまうことも、なきにしもあらず…いやはや、お恥ずかしい。
沢木さんはその日、インタビュイーでありながら、全方向に取材の目をむけてそこにいた。どんな出来事も、ネタになり得る。そういう新鮮な視点を、常に持っている人なのだと思った。
それは、私のようにキャリアだけ長くて実績を伴わない中途半端なフリーライターにとって、目を開かされるような出来事だった。
私も、いつまでも好奇心を失わず、ときめきを持って世の中を見回していきたい。
何よりも、早く旅に出たいなあ。沢木さんの作品に触れるたび、旅心が疼いて仕方がない今日この頃なのであった。
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