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なぜ幸せなのに死にたいのか?

私の出身国「あちらの国」で
手足の切られた人間が、ひたすら頭を下げていた。

小学生の頃ながら、変だと感じた彼らを
興味深く見ていると、大人から「見るな」と言われ
「彼らは何?」と聞くと
「お金をせびっている」と答えた。
「なんで手足がないの?」と聞くと
「事故か何かで失った」と答えた。
「手足がないのにここまでどうやって来たの?」
「いつもどうやって生活してるの?」
「本当にこれしか仕事はないの?なんとかならないの?」
そこまで聞く頃には、彼らは若干イライラしだし、
案の定
「考えすぎだ、知るかそんなの」
「自分のことだけ考えてればいいんだよ」
そんなことが返ってきて、私は会話を諦めた。

「ごみ収集」ときくと思い浮かぶのは

でも、あちらの国では

「ちゃんと勉強して良い子にしないと、みんなこうなる」
そう聞かされていた私は、一生懸命勉強した。
人の顔色をうかがって、ずっと、良い子であろうとしていた。
つらかったけれど、ゴミを拾って人生を終えるなんて。

小学生時代から20年後、あちらの国へ先日行った。

私はすでに、
・手足がない人間に「だるま人間」と名がついていること
・事故ではなく、見世物として拉致された人間の手足を切断されたこと
を知っている。
こどものころから、ずっと怯えていたと思う。
だるま人間は、もうあの公園にいなかった。

ごみ収集は、別に早稲田大学などいかなくとも
よっぽどなことがないと可能性がないことも
ようやく理解できるようになった。
小さい頃に植え込まれた教えの根深さを知る。

昔だるま人間がよくいた公園では、
いつのときもお年寄りが駄弁り
歌を歌ったり楽器を弾いたり
絵を描いたり水で道に書道をしたりする。

Youtubeにあがっているものよりも上手。
それを無視して踏んで歩いていく。
タレンテッドが
たまたまここで生まれたことにより
「ただのなんでもない人」になる。

親戚たちと
あまりに価値観が合わなくなったため
無言でいたけれど、
耐えかねて質問をすると
「文ちゃんはいつも考えすぎてる」
「普通悩みの8割はお金でしょ、あなたは恵まれている」
「保証されているのだから、他に何を悩む必要があるの?」
そういわれて、その背景に色々なものがみえて
「ごめん」と微笑むしかなかった。

警察も、病院すらも、ろくに機能しない。
気に入られなければ、簡単に淘汰される。

★★★

飛行機から日本に降り立つと、
いつも生ぬるくうす甘い空気を吸うことになる。

ここには、人を攫ってだるま人間にするような人はいない。
ごみ収集にもスケジュールがあり
才能はきちんと評価される。
警察や病院は少なくとも仕事をまっとうしてくれる。

のどから手が出るほど欲しかった文明。
安全で、快適で、豊かな暮らし。

「なのに、なぜ??」

想像では、もっと幸せに生きられるはず。
しかし、朝の通勤電車の空気は?
自分で道を選べる、才能を活かせる
なのになぜ、みずから囚われようとするの?

その下に、何千、何億の人間がいて
必死に築いた文明の結果なのに…。

あちらの国へ降り立つと、
スパイシーな香りただよう
厳しさ、いつ死んでもおかしくない匂い
それは赤っぽく、壁に描かれた汚い言葉
我先にと目立とうとするネオン、埃
そのひとつひとつが、
むしろ希望となっていたことを知る。

希望、なんて言葉に、簡単には出来ないような。

そしてその光を忘れないように
自分から、恐怖の淵へと立ちたがるのかもしれない。

トンネルから見える光は強いけれど
いざトンネルを出ると目が慣れてしまう。

連日、ずっと欲しかった真実が
急に湧いてくる。

なぜ精神疾患が淘汰されないのか?
なぜ人々が自己中心的(に見える)のか?
なぜあちらの国の人は誰も話を聴いてくれないのか?

少しずつ解明できる、兆しがみえている。

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