【子育て】ゴラムになったひげ息子
ひげ息子がどや顔で何か言ってくるとき、それは本当にどうでもいいことだ。
その内容もけしてどや顔するほどの内容ではないのに、とにかく憎たらしいほどに偉そうな顔をする。
今日もそうであった。
今週から久々に中学校に行っている彼だが、昨日早速体育の授業があったそうだ。
ところが腕立てを張り切ってやったせいで、今日は朝からひげ息子の様子がおかしかった。
朝から脇と胸に冷えピタを貼り、ロードオブザリングのゴラムみたいに背中をまるめている。上目遣いなところもゴラムみたいだ。
腕が痛くて上がらないのだと怒っている。
イライラしているところまでゴラムだ。
しかし、しかしだ。
あれしてほしい、これしてほしいと命令してくるのはすっかり怪我人で、いい加減私も腹が立った。
こちとら、熱が出たって食事の準備をするんじゃ。
こちとら、あんたらを生むときにおまたが避けたんじゃ。
と言ったところで、そんな経験をしたことのないひげ息子には響くはずもない。
そうはわかっていたが、筋肉痛ごときでわがままを許すわけにはいかない。
「あのね、痛いのはわかるけど冷蔵庫ぐらい開けられるでしょう。」
そう、私は冷蔵庫を開けるためだけに台所に呼ばれたのだ。
私がモノ申すと、いつものひげ息子の反論が始まった。
「知ってる?俺のやることの8割は無駄なことだから。俺が靴下を脱ぎっぱなしにするのも無駄なことだからやらないの。」
いやいやいや。
意味が解らない。
今、これを書きながらも考えているがやっぱりさっぱり解らない。
今、なぜ「無駄なこと」が話題に出ているのか、そしてそれがどう靴下のくだりと結びついていくのか、まったく解せずにいた。
もう何を話していたかもすべて吹っ飛んだ。完敗だ。
ひげ息子に全部持って行かれた気分で、しかし私はぷりぷりと台所を後にした。
ひげ息子はどや顔で、ゴラムのように背を丸めてよちよちと歩いて自分の部屋に戻っていった。
しばらくして、ふろ上がりに洋服が着れないから手伝えと、妹のわかめちゃんがひげ息子に召集された。
そこは思春期で私に頼めなかったらしい。
脱衣所に行ってみるとおじいちゃんがいた。
いや、正しくはおじいちゃんのようなゴラムだ。
ゴラムも年齢不詳ではあるが、まあとにかくすっかりよぼよぼになったひげ息子が情けなくパンツ一丁で立っていて、わかめちゃんに介抱されている。
私はリベンジにでた。
でかい口を叩くからいけないのだ。
親切なふりをして、赤ちゃん扱いしてズボンを履かせてやると、これがたまらなく恥ずかしかったらしい。
恥ずかしすぎて、
「10年前に戻ったみたいだなぁ~。母ちゃん、バブー。」
とふざけるひげ息子。さすがに気持ち悪い。
いやしかし。
確かにそうだ。昔はこうやって全部やってあげていた。
それが今は大きくなったもんだ。
8割も無駄なことをしてきたひげ息子ゆえに、振り回されてきた私。
振り回されたのに8割無駄だったのかと思うと残念でならない。
それでもしかし、昔を思い出させてくれたひげ息子になんとなくありがとうと思った夜であった。