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αM2018「絵と、 」vol.2 藤城嘘-作品ノートその7

昨年、浅草橋(馬喰町)にあるギャラリー、gallery αMにて、藤城嘘の個展が開催されていました。本展は2013年からの5年間の展示で作られた大作5点と、2018年に制作された新作4点によって構成されておりました。
さて、このnoteでは、会期終了までのあいだに出展作を1点ずつ紹介させていただく、というコンセプトでしたが、結局中途半端なところで止まってしまっていました…。改めまして、出展作を振り返りながら解説させていただきたいと思います。作品理解の補助になる部分があるなら嬉しく思います。

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《電波少女のための水と空気》 2012-2013
キャンバスにアクリル、色鉛筆
(撮影:木奥恵三)

2011年の震災後に《とある人類の超風景~DAY~》《とある人類の超風景~NIGHT~》という対になる作品を制作した。本作は同時期に描きはじめられ、それらよりずっと感覚的につくられた。

私は「思春期のあいだに"嵐"を迎え、それを乗り越えていく」作品がなぜか好きだ。"嵐"は気象現象としての嵐のことでも、心の中の嵐のことでもある。たとえば、相米慎二監督の映画『台風クラブ』。大きな台風の中、校舎で一晩を明かし、暴風雨の中で狂乱の終わりを迎えるシーン。桜庭一樹の小説『砂糖菓子の弾丸は打ち抜けない』。ミネラルウォーターをがぶがぶと飲む海野藻屑と逃避行を企てる主人公。偶然にも震災前後を跨いで放映されたアニメ『魔法少女まどかマギカ』も、「ワルプルギスの夜」という巨大な嵐に立ち向かう作品といえる。成長するということは、振り返ってみれば漠然とした何かと格闘して、もがいて、いつのまにか嵐が過ぎていた、そんなことの繰り返しだったのかもしれない。

本作のモチーフは2011年4月にアニメ化された入間人間作のライトノベル『電波女と青春男』の藤和エリオである。むろん、二次創作として描いているわけではないので"似ていない"といえば"似ていない"し、初音ミクともよく間違えられるのだが。

本作と同時期に描かれたドローイング 2012
紙に色鉛筆

主人公がエリオに現実を見せるため、自転車ごと海に飛び込んでいくラストが印象的な作品で、やはりこの作品もある側面で水をモチーフとした作品ともいえる。(OPテーマは神聖かまってちゃんの作曲、EDテーマはやくしまるえつこが歌っている。00年代後半のカルチャーのひとつのピークのようだ。)

Os-宇宙人

思春期のもっとも豊かな想像力は"厨二病"というやつだ。2011年の秋にサービスが始まったゲーム『アイドルマスターシンデレラガールズ』では専ら14才のアイドルばかりコレクションしていた。個人的に、「14才組」は強烈な個性を持つアイドルばかりなのだ。(めっちゃ脱線するが、ファンタジー系厨二病キャラモデルの元祖の一人が神崎蘭子であることは重要に思う。)

幼い子供や10代の少年少女の命が奪われるような事件や災害を耳にすると、失われた可能性や未来のことを思い、大変つらくなる(きっとだれでもそうだが)。これは私が5才の頃に大病の長期入院から回復したという実存的経験も影響しているかもしれないが、もっとも大切なものの一つは"未来"であって、とくに高齢社会の日本に生まれ来るわずかな子供達に、どのように希望を与えられるのか、ポップカルチャーやユースカルチャーについての作品を作る私は、たびたび考えてしまうのである。

「カオス*ラウンジvol.4」のためのイメージ 2012
紙に色鉛筆、油性インク

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『絵と、 』vol.2 藤城嘘
キュレーター:蔵屋美香(東京国立近代美術館 企画課長)
会場:http://gallery-alpham.com/
2018年6月16日(土)~8月10日(土)11:00~19:00
日月祝休 入場無料



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