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令和6年行政書士本試験分析と 今後の対策❷民法
1令和6行政書士試験分析(民法)
YOUTUBE動画と同じ内容です。
【行政書士試験】2024本試験分析 民法
https://youtu.be/TEnYLxVSH-E
民法の記述式の解説については、こちらの動画をご視聴ください。
【行政書士試験】2024年問45記述式解説
https://youtu.be/HkkU8YOlWT8
【行政書士試験】2024年問46記述式解説
https://youtu.be/xB7RMtLnJVg
【令和6年民法択一式のテーマと正答率】
問27 失踪宣告 正答率 76.9%(伊藤塾分析会)
問28 無効及び取消 正答率 72.7%
問29 遺産分割と登記等 正答率 80.2%
問30 抵当権者と賃借権者の関係 正答率65.6%
問31 保証債務 正答率 42.7%
問32 動産の他人物売買・無権代理等 正答率39.6%
問33 組合 正答率 25.1%
問34 不法行為(センター公表:受験者全員の解答を正解として採点)
問35 遺産分割 正答率 31.7%
問27 失踪宣告 正答率 76.9%
正答率がかなり高くなっていますが、その理由としては、肢1と2が令和3年に出題された知識だったため、肢1が正解とわかった受験生が多かったのだと思われます。この問題を落とすと他の受験生と差がついてしまうため、過去問学習の重要性を再認識させる問題でした。肢345は、過去問未出題ではあるものの、いずれも失踪宣告というテーマの中では他の法律系国家試験ではよく出題されていますので、ようやく行政書士試験でも出題されるようになったという印象です。
問28 無効及び取消 正答率 72.7%
新民法で新しく設けられた条文を適用すると、肢1が誤りの肢として正解になりますが、債権法改正前の旧民法の記憶が残ってしまっている方は、 肢2を誤りで正解になると考えた方もいるのではないでしょうか。
返還の範囲については、全体構造を整理できていないと間違えやすいので、まだ自信のない方は、YOUTUBE動画(4:08~)をご視聴ください。
新民法の規定により、無償契約である贈与契約に基づいて履行された給付物について、受け取った側が贈与契約が無効であることを知らなかった肢1の事例(無償契約で善意の場合)については、返還すればよい範囲は現存利益になりますので、肢1が誤りとして正解になります。
問29 遺産分割と登記、相続放棄と登記等 正答率 80.2%
極めて高い正解率です。この問題は5肢全て基本知識ですが、肢4が誤りとして正解になる作りになっていて、肢4は最初の7文字を読めば「相続放棄」の場面であることがすぐにわかり、「相続放棄は絶対効」で、相続放棄の効果を誰も争えないことさえわかっていれば、肢4を10秒位でピンポイントで正解にできますので、全部の肢を検討しなくてよいサービス問題です。
問30 抵当権者と抵当権に劣後する賃借権者との関係 正答率65.6%
正解肢の3は抵当権者が債務者に帰属している債権に対して物上代位を行使できる要件として、その債権についてお金が払い渡される前に差し押さえる必要があるという基礎知識です。この条文は昨年の記述式に引き続き2年連続問われてますので、これも落とすと他の受験生と差がつく問題です。
5つの肢全てが基礎知識なので、他の肢で悩む可能性は低そうですが、初学者の段階だと間違える可能性がありそうな肢としては、肢2かもしれません。肢2はざっくりとした方向性としては、抵当権者の建物の競売が優先して、抵当権者に劣後する建物賃借権者は建物から出ていくことになる内容ですから、確かに方向性はそのとおりなのですが、肢2は明け渡し時期について「直ちに」と極端な表現が入り込んでますので、妥当でない肢となります。抵当権に劣後する建物賃借権であっても、6か月建物明け渡しを猶予してもらえる制度がありますからね。建物明渡猶予制度まで記憶できていない方は、基礎知識のインプットの範囲がまだ不足しています。
問31 保証債務 正答率42.7%
誤っているものを選べという問題ですが、肢3は保証債務の付従性で〇肢とわかり、肢4は基本的な条文の447条1項で〇肢とわかり、肢5は平成7‐30の過去問学習で〇肢と判断できた受験生が少なくないと思いますので、
あとは最後の2択で肢1と2のどっちが誤っているかを判断する力が試される問題でした。肢1と2は普通の行政書士受験生は勉強していないマイナーな条文で、最後の2択は現場思考で決断する必要があったため、正答率が50%を割り込んだのだと推測しています。
では、肢1と肢2の最後の2択でどのように現場思考を働かせればよかったのか検討していきます。肢1は債務者Aが保証人を立てる義務を負っていて、本来は債務者Aが誰か保証人になってくれる人を探さなければならない場面なのに、債権者Bが口を出してきて自ら保証人をCにすることを指名したら、その後債権者Bの期待が外れて保証人Cの資力が失われてしまったわけです。簡単に言うと、債権者Bが積極的に口を出して保証人選びに失敗したのに、今さら債務者Aにやっぱり新しい保証人を立ててくれと要求できるとすると、保証人は自分の失敗を他人である債務者に押し付ける結果になりますから、肢1のように、債権者は債務者に保証人を立てるように請求できないという結論は、妥当な文章なのではないかと考えられれば筋がよいです。
他方で、保証人を立てるのは、債権者Bの債権回収の可能性を高めるためですので、保証人の人選においては債権者Bの希望が一番重要であり、債権者B自身が制限行為能力者を保証人にたてたいというのなら、それを否定する理由はありません。制限行為能力者でも資産のある人はいるので、債権者が希望する場合もありえます。肢2は債権者Bが保証人を指名するときは、行為能力者でなければらないという文章になっていますから、受験生としては肢2が誤っている可能性が高いと考えて肢2を解答したいところです。
問32 動産の他人物売買・無権代理等 正答率39.6%
このレベルの正答率が正解できると、記述抜き160点台に1歩近づけます。
今後は過去問のリストにのりますし、肢1~5の全てが他の国家試験では見かける問題ですので、正誤判断できなかった肢がある場合は来年以降の受験対策の観点からは克服しておいた方がよいでしょう。
本問に関しては、受験生がどこで間違えているのかが特定できないため、
以下で全肢についてポイントを簡潔に解説します。
肢1所有者に譲渡意思がなくても、他人物売買は有効(最判昭25・10・26)
肢2他人物売主が死亡し所有者が相続しても、所有権は当然に移転しない
最判昭49年9月4日
「権利者は、相続によつて売主の義務ないし地位を承継しても、相続前と同様その権 利の移転につき諾否の自由を保有し、信義則に反すると認められるような特別の事 情のないかぎり、右売買契約上の売主としての履行義務を拒否することができる。
肢3 取引が無権代理の場合、有効な取引ではないので、即時取得不成立
肢4 新民法117条1項及び2項2号
無権代理の相手方が善意・無過失なら無権代理人の責任を追及できるという原則の例外として、無権代理人が自分に代理権がないことを知っていた場合は、無権代理の相手方は代理権を有しないことを過失によって知らなかったときでも無権代理人の責任を追及できるため、肢4は誤り。
肢5 最判昭60年11月29日の判例に照らし正解となる肢
肢5の理論構成を具体的に解説すると以下のようになると考えられる。
法人Aの定款に甲の売却に関しては理事会の承認が必要である旨の定めがあり、理事Bが理事会の承認を得ないままにAを売主、Cを買主とする売買契約を締結したときは、買主Cが甲の売却には理事会の承認が必要であるという定款の定めを知っていたとしても、理事会の承認を得ていると過失なく信じていたときは、民法110条の類推適用 によって、法人Aを売主とする売買契約は有効となる(文末は問32肢5の表記に合わせた)。
問33 組合 正答率 25.1%
正答率がかなり低く、本年度についてはできなくても合否に影響しない問題ですが、今後の学習にいかしていただくため、
学習順位の優先順位の高い肢3・4・5について解説します。
肢3「各組合員は組合財産の分割をいつでも請求できる」は誤りです。
例えば、焼き芋のキッチンカーを始めるため、ABCが組合契約を結び、キッチンカ―・業務用焼き芋器・食器類一式を共同購入して組合に出資し、それらが組合財産になっていたところ、組合員Bの気が変わって3分の1の持分について組合財産の分割請求を求めてきたら、組合としては事業の継続ができなくなり困りますよね。そこで、676条3項で「組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることができない。」と規定されています。もっとも清算段階に入れば、組合の事業活動をやめる段階に入っているので、組合としては分割請求に応じられます。よって、組合員はいつでも分割請求できるわけではありません。
肢4 脱退できる時期は2つに場合分けして覚えます。
678条1項 組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。➡原則いつでも脱退可だが例外あり
2項 組合の存続期間を定めた場合であっても、
各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。
➡やむを得ない事由があるときだけ脱退可
肢5 (業務執行組合員の解任)
672条2項により、業務の決定及び執行を委任された組合員は、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の一致によって解任することができます。
よって、肢5が正しく正解になります。
問34 不法行為(センター公表:受験者全員の解答を正解として採点)
11月20日センター公表済み 選択肢3と選択肢5が妥当なものということで没問となりましたが、学習の優先順位が高い肢1・2について解説します。
肢1は、生命侵害の不法行為の場合に、被害者の相続人であれば、常に 近親者固有の慰謝料請求権が認められると説明しているが、常にそうというわけではなく、711条によって原則として被害者の父母・配偶者・子に慰謝料請求を認めているため、基本的には兄弟姉妹というだけではたとえ相続人であっても、近親者固有の慰謝料請求は認められず、被害者との間に711条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者と認定されれば、近親者固有の慰謝料請求が認められる余地が出てきます。よって、肢1は誤りです。
711条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
【771条に関する判例(最判昭49年12月17日)】
不法行為による生命侵害があつた場合、被害者の父母、配偶者及び子が 加害者に 対し直接に固有の慰藉料を請求しうることは、民法711条が明文をもつて認める ところであるが、右規定はこれを限定的に解すべきものでなく、文言上同条に該当 しない者であっても、被害者との間に711条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうるものと解するのが、相当である。
肢2は、 法人が名誉棄損を受けた場合、非財産的損害について賠償請求できる(判例)ので、誤りです。
この判例の解説については、YOUTUBE動画(21:00~)をご視聴ください。
問35 遺産分割 正答率 31.7%
正答率がかなり低く、本年度はできなくても合否に影響しない問題ですが、今後の学習にいかしていただくため、簡潔にポイント解説します。
肢1 遺産分割の債務不履行解除は認められない(判例)
肢2 相続分を超える遺産分割は対抗要件を具備しないと第三者に対抗不可
(899条の2第1項)
肢3 新民法906条の2
共同相続人の1人が遺産分割前に遺産を処分した場合には、遺産分割時に 存在しない財産についても、遺産分割の対象になる。
肢4 2023年4月1日に施行の民法:特別受益及び寄与分の期間制限と混同
遺産分割協議に関して、特別受益と寄与分の主張をすることができる期間を相続開始の時から10年とする期間期限が設けられたが、相続人間の遺産分割協議については従来通り期限制限はなし。
肢5 2019年7月1日施行の改正民法 預貯金の仮払い制度
改正前の判例の立場によると、遺産分割が終了するまでの間は、相続人単独では預貯金債権の払戻しができなかったが、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要がある場合にも、遺産分割が終了するまでの間は、被相続人の預金の払戻しができないとすのは不便なため、2019年7月1日施行の改正法で、遺産分割前でも、相続人が単独で一定額までは預貯金を引き出せる制度が導入されました。この新制度により払戻された預貯金は、払戻しを受けた相続人が「遺産分割によって取得した財産」とみなされます(909条の2後段)。
【民法の学習上注意すべきこと】
❶改正法の出題が多くなってきており、過去問学習では知識が抜け落ちるため、最新の教材を使って改正法の学習も網羅しておく。
❷どんな事例や場面で、条文判例が適用されるのかをイメージできているかが試される問題を増加傾向にあるため、単に条文や判例のキーワードだけを追いかける勉強ではなく、事例や場面とセットで学習することが重要。
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