令和4年 記述式民法 問46について
こんにちは。とよたです。
前回に引き続き、民法問46も、予備校で解答例が割れているため、
その原因と試験センターの解答予想について、私の意見を述べます。
私の意見を述べますが、試験センターの解答例や採点基準はまた別となりますし、私の意見と異なる可能性があることはご了承ください。また、受験生の方は、自分が書いた答えと違う可能性が出てきますので、心の準備ができている方だけ、この記事をお読みください。
現時点で、予備校は、「所有権に基づく物権的請求権」という法律構成で一致している反面、「物権的請求権のうちどれを選択するか」という点と、
それと連動して、「請求内容として何を書くか」という点では一致していません。そこで、民法記述46問についても、受験生の間で混乱が起きているのではと思い、以下、私見を述べることにします。
予備校間で解答例が割れている理由は、
問題文の事例を読んでも、勝手に甲土地に塀を設置した無権利者Cが、甲土地を占有していると言えるかどうかがわからないためです。占有の有無をどちらかに認定できない以上、解答はどうしても2パターン出てきてしまいます。
令和4年民法記述問46は、条文丸暗記で正解できる問題ではなく、民法の総合的な思考力を試せるとても良い問題なのに、事実関係の作りが1か所だけ雑になっているので、答えが2つに割れてしまう非常に残念な問題です。
問題文は、簡単に言うと、無権利者Cが甲土地に勝手に塀を設置したため、甲土地の賃借人Aが無権利者Cに、どのような請求をすることができるか。
以下、出題意図がいろいろと見える問題(誘導の多い問題)ではありましたので、誘導の乗り方を受験生に知っていただくため、誘導のあった部分を全て指摘し、その部分についてどのような法的思考をとるべきだったのかを、丁寧に解説していきます。
まず、問題文に、土地(更地)について賃借権の登記はないこと(=対抗要件なし)が明記されているため、この点は誘導に乗り、民法605条の4の賃借権に基づく妨害停止請求(返還請求)はできないと判断します。
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次に、賃借人Aに甲土地を引き渡す前に、無権利者Cが塀を設置し、賃借人Aが立ち入れなくなっていることが問題文に示されているため、この点の誘導にのり、賃借人Aは占有を取得していないと判断して、占有訴権は認められないと判断します。
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では、甲土地賃借人は、甲土地賃貸人に、所有権に基づく物権的請求権を行使して塀をどかしてくれと、賃貸借契約に基づいて請求することが考えられますが、問題文に甲土地賃借人は、甲土地賃貸人に対応を求めたが、何らの対応をしないとあるので、この点の誘導に乗り、甲土地賃貸人が所有権に基づく物権的請求権を行使することを賃貸借契約に基づいて甲土地賃借人が賃貸人に請求する構成はとれないと判断すると同時に、
権利者が権利行使しない時に使える法律構成を検討するよう誘導していることに気づく必要があります。
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以上から、作問者が誘導してきた法律構成は、甲土地賃借人が、甲土地賃貸人の所有権に基づく物権的請求権を代位行使するという法律構成です。
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ここまで、問題文の4つの誘導に乗れた人は、単純暗記型ではなく、民法の法的思考ができる人なので、実力を試せるとても良い問題です。
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しかし、最後のつめ段階で、物権的請求権の中身を、返還請求権にするか、妨害排除請求権にするか、この点は、問題文に誘導がなく決められない状況です。
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どうして決められないのか❓
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問46の問題文の事実を読んでも、無権利者Cが、甲土地を占有しているか、
自信をもって確定できません。
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下の図をご覧ください。想像が外れるかもしれないのですが、
解説の都合上、作問者のイメージを2パターン想像してみました。
平成29年司法試験論文民法で土地に柵を囲むように設置した事例(左図)があり、塀と物理的に似た構造のため、参考までに紹介します。私が行政書士試験令和4年問46を読んで最初に想像したイメージは右図ですが、当然ながら確信は持てません。
仮に、左図を想像して、無権利者Cが甲土地を占有していると無理やり認定すれば、所有権に基づく返還請求権と解答することになり、
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逆に、右図を想像して、無権利者Cが甲土地を占有していないと無理やり
認定すれば、所有権に基づく妨害排除請求権と解答することになります。
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つまり、塀を設置した無権利者Cが、甲土地を占有しているかどうかについて、作問者がどちらかに誘導する情報を問題文に入れておかなかったため、最後の2択が絞り切れないのです。ここだけが残念な問題です。
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そこで、民法上は、解答例は2つになります。
物権的返還請求の要件として「相手の占有」が必要なため、占有を認定すれば返還請求となり、占有を認定できなければ妨害排除請求となります。
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私の考える解答例を示します。
【解答例❶】無権利者Cが甲土地を占有していないと認定した場合
AはCに対して、「BのCに対する所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使し、塀の撤去を請求できる。」(39字)
【解答例❷】無権利者Cが甲土地を占有していると認定した場合
AはCに対して、「BのCに対する所有権に基づく返還請求権を代位行使し、塀の撤去及び土地の明渡しを請求できる。」(45字)
👆👨「甲土地」と書きたかったが、46字になるため、「甲」を削除
私が受験生だったら、とても悩みますが、【解答例❶】を書きます。
どちらの解答を書いたとしても、本問の4つの誘導には全てのっていますし問題文の事実関係からは2つの解答例が導けてしまうのは、試験委員の問題の作りに起因するのですから、試験センターはどちらも正解にすべきで、
どちらかを正解にし、どちらかを不正解0点とすべきではないでしょう。
さて、試験センターは、来年1月に、どのような解答例を発表し、
どのような採点をするのでしょうか。