【北米エンタメニュースまとめ番外編】広がるCrunchyroll world
北米エンタメ市場のニュースなどのまとめです。今回は番外編として、北米を中心にアニメなどの配信を手掛けるCrunchyrollについてその戦略をまとめ、分析したいと思います。最近のM&Aによって、IPを持つ企業の究極の姿のひとつに近づいていると思います。
以下Crunchyrollの取り組みをまとめました。理解しやすいように必ずしも時系列ではなく似た取り組みをまとめています。
違法ファンコミュニティから出発
Crunchyrollは2006年、違法に翻訳された日本のアニメを配信する総合サイトとしてスタートしました。当時、日本のアニメは一部の作品を除いてはほとんど日本以外で見ることができなかったからです。翻訳していたのは熱狂的な日本にアニメギークの人たち。濃いファンたちの集まりでした。ファンといえば聞こえはいいですが、あくまで「違法サイト」でした。
合法のアニメ配信サイトに変身
しかしCrunchyrollに集まる熱狂を見て、日本のアニメ制作会社は態度を変えます。徐々にライセンス料を受け取り、Crunchyrollで合法的に日本のアニメが配信されるようになります。18年にはワーナーメディアの完全傘下になり、21年にはソニーグループが買収します。今は世界の無料の登録会員数は21年8月時点で1億2000万人、月額定額課金型の有料会員は500万人となっています。
Crunchyrollはもともと、字幕付きのアニメ配信に強みを持っていましたが、同じくソニー傘下だったFunimation(=吹き替えの日本アニメの配信に強み)との合併によって、字幕作品も吹き替え作品両方のタイトルを多く抱えることになりました。
アニメ配信だけではない強み、地域の広がり
Crunchyroll が手掛けるのはアニメの配信だけではありません。
https://www.crunchyroll.com/ja/about/index.html
こちらの公式サイトにあるように、劇場版アニメの配給、アニメ関連グッズの販売、モバイルゲームの配信、マンガの配信も手掛けています。ちなみに配信事業でも、配信するのはいまは日本アニメだけではありません。自主制作のアニメに加え、日本の漫画原作のドラマの配信も手掛けています。
最近は北米でアニメグッズ販売のRight Stuffを買収しました。
アニメ関連グッズの販売を一段と広げていく狙いとみられます。
事業の提供地域も広がっています。日本で放送・配信されているアニメの海外配信を手掛けるため、Crunchyrollのサービスは日本では基本的に利用できません。しかしサービス提供地域は北米だけでなく、南米、欧州に広がっています。サービスの提供言語も英語だけでなく、スペイン語、ドイツ語、フランス語などに対応しています。
最近は欧州の事業を再編しました。ドイツとフランスの事業を統合するとのこと。欧州の日本アニメの人気の中心は、ドイツとフランスです。事業統合によって効率を高め一段と欧州圏で事業を広げるのではないでしょうか。
実際にドイツでは、マンガ出版を始める方針を明らかにしています。
「イベント主催者」としてのCrunchyroll
Crunchyrollのもうひとつの顔が「イベント主催者」です。Crunchyrollは北米を中心にコミコンに巨大なブースを出展していますが、それだけではありません。同時に「Crunchyroll Expo」という自主イベントを主催し、多くのファンを毎年集めています。新型コロナウイルスの感染が広がっていた時期はオンラインでやっていましたが、22年は無事リアルで開催することができました。
Crunchyrollにはなんと「Head of Events」という役職があり、イベントを仕切っています。以下はこのHead of Eventsのインビュー記事です。
Cruncyrollはどこにいくのか?
ドイツ在住でアニメビジネスなどに詳しいKatahoさんの投稿にもあったのですが、ここまでビジネスを広げてきたCrunchyrollはこれからどこへ行くのでしょうか?
ひとつはイベントの強化があると思います。現在リアルのイベントは米国の1都市で開催していますが、Katahoさんも指摘しているようにある程度の規模が見込めるとなればほかの地域での開催もありえます。市場としては次は南米、スペイン語圏もしくは欧州かなとみています。
実はCrunchyrollは、「クランチロール・アニメアワード 」という賞も主宰しています。これまで北米およびオンラインで授賞式をやっていましたが、来年の「クランチロール・アニメアワード 2023」はなんと東京で授賞式を開催します。
ぜひ、Crunchyroll Expoも日本でやってほしいです。
もうひとつは「アニメ配信→漫画単行本、グッズ販売」という道筋の強化でしょうか。今ファンはCrunchyrollでアニメを見て、ほかのチャネルでグッズを買ったりアニメの原作となった漫画を買ったりしています。この「アニメを見る」のあとの消費行動をCrunchyrollネットワークに取り込めれば一段と収益拡大につながります。通販サイトの充実や商品開発はもちろんですが、リアルの拠点の開設もありえるかもしれません。
さらには「原作を抑える」という方法もあります。もちろんCrunchyrollはいまでもアニメ制作に出資をしていますが、例えば日本の中小出版社もしくは韓国のWebtoon制作会社を買収するーーーそんなこともありえる。なおCrunchyrollの株主はソニーグループです。ソニーグループのゲームを原作とするアニメというのも出てくるかもしれません。
北米のアニメ・漫画市場をみるうえでもはやCrunchyrollの動きは見逃せません。引き続き注視してきたいと思います。
参考記事
「違法サイトからハリウッドの一角に 本社直撃で見えたクランチロールの次なる一手」
「クランチロールがソニー傘下でも主要企業10社以上 北米アニメ配信最新状況」