BLは北米の英語圏でどう受け入れられたのか

先日、ツイッターのSpaceを聞いていたときちょうど話題が日本のBLが海外でどう受けいられられているのかという話になりました。いちBLを楽しんでいるファンとして体験したことや見てきたことをオタクとして話したら面白がっていただいたようなので私の記録も兼ねてここにまとめておきます。


※あくまでN =1です。むしろみなさんの見聞きされたことぜひ教えて下さい

■YAOI BLは用語として定着

日本の漫画がMANGAとして海外市場に受けいられれているというときどうしても集英社の週刊少年ジャンプに代表される少年漫画の話が中心になります。もちろん彼らの進出の勢いは甚だしく、元気です。最近は怪獣八合のフランスでの初版部数が25万部になったというのも話題になりました。

では日本語圏以外の人たちが、少年漫画以外を読まないのかといえばそんなことはありません。私達と同じように少年漫画以外も楽しんでいます。

そのひとつがBLです。
「いつから」というのはまだつきとめられていないのですが、少なくとも北米の英語圏では書店に単行本がならび、イベントが開催されています。


これに対応するように主にデジタルを中心にBL作品の配信も盛んです。日本で商業出版されているものの翻訳はもちろん、最近は同人誌作家にも声をかけて翻訳版を出されています。

■誰が読んでいるのか?


そもそもBLを誰が読んでいるのか。私は今の段階で3つのカテゴリーを実言い出しています、

ひとつは研究者。しかも日本研究というよりは、ジェンダー研究の方々が日本のBLというカルチャーに興味を持たれ、そこからファン。読者になっていくというイメージです。最初に興味を持ったきっかけはいろいろですが、ファンとなり日本語と英語で作品を読んでいるイメージです。
彼らの中には日本語ができる人も多い。そのためまだ英語版が出ていない作品を愛読している人も少なくありません。

ほもうひとつのグループは漫画のファン。ここは昔からの日本のBLファンと近く、んぜBLをよみはじめたのはどこで出会ったのかは千差万別。ライトBL好きからハードな生表現があるものまで好みもいろいろです。

最後のカテゴリーはLGBTQ+コミュニティの人々。彼らは上記2つnグループと傘あるところもありしますが、特徴的なのは同性同士の恋愛を描くBLを自分の物語としていること。日本のBLを読む人たちにとBLの距離感はひとそれぞれですが、LGBTQ+コミュニティの人たちの中には、BLはじめ同性同士の恋愛を中心とした関係を描かれる作品を自分たちが書かれた作品だとして受け止めているのです。(この点で、百合作品を読むレズビアンの方にもお愛しました)
女性が市少女が主人公の少女漫画を読み、男性が少年が主人公の少年漫画を読むように、LGBTQ+コミュニティの人々は、既存の男女の恋愛物語からは得られない物語をBLに見言い出しています。
これは「自分の属性と違いキャラクターの物語を読みたい」という考えからではないでしょうか。

もちろん「日本のMANGA」を読む人の中での規模はわかりません。しかしそもそもの母数が大きいことを考えると、この3つのカテロギーはそれなりの規模になるとみられます。

その証左のひとつが、BL専門のイベントです。新型コロナウイルス蔓延後はFUTEKIYAとうBL関連の出版社が中心になり、オンラインイベント「Fujocon」が開催されました。(めちゃくちゃ楽しかった)

実は米国では過去にYAOICONというその名の通りYAOI専門のコミコンが開催されていたことがあります。私が参加したのは2014年だったのですが、参加資格は18歳以上であること。そのうえで、イベントそのものはコスプレ、二次創作、商業出版が入り乱れていまた。

そして目玉はBISHONEN AUCTION。女性がBLを読む理由のひとつに、少女漫画で性表現が制限されているいう代わりとしての性的欲求の充足というのがあるのですが、YAOICONはその側面が非常に強く、閉ざされた空間で女子絵の欲望が最大限オープンになっている印象を受けました。

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■ブロマンス、BL、ゲイコミック


男性同士の関係を描くコンテンツを分類するとき、私はすべてをBLに分類するのではなく、もう少し解像度をあげないといけないなと考えています。
私はいまのところ「ブロマンス」「BL」「ゲイもの」としています。

ブロマンスは数年前にメディアでも取り上げられたのでご存じの方も多いと思います。もともとは英語圏で生まれた「Brother」と「Romance」を掛け合わせた造語で、ハリウッド映画などで「男性同士のアツい友情」を描いた作品に使われます。

最近は日本のドラマや小説でも使われ、過去に遡ると「あれもブロマンスでは」といえるものもあります。

※ブロマンスの参考記事は「ブロマンスが来る? BL(ボーイズラブ)とも違う「男の関係」とは」など。こちらは2020年3月なので「来る?」と疑問形ですが、完全に浸透しました。

これがもっと距離が近くなり、恋愛感情が乗ってくるとBLやゲイものになります。この2つの違いは、対象となるコンテンツが誰の欲望や感情を反映しているのかによります。

女性が「緊密な男性同士の関係はこうあってほしい」というのを描くのがBL、対して女性の視線から離れて男性同士を描くのがゲイもの。(昔の薔薇族などもゲイものに私は分類しています)漫画作品でいえば羅川真里茂さんの「ニューヨーク・ニューヨーク、よしながふみさんの「きのう何食べた?」、田亀 源五郎さんの「弟の夫」などです。

ただ、いまそれぞれの作品が海外に出ていくときにこの3種類が全部一気に「BL」として紹介されています。そして前述の3カテゴリーのそれぞれの読者が読み込むため、好意的に受け入れられるものもあれば誤解されるものもでてきているように思えます。

※ちなみに、先日百合漫画の日本における歴史のレクチャーを聞きました。BLに比べて、百合作品のほうが読者も書き手も男女両方の性が入り交じり、男性向け・女性向けそれぞれへの作品が相次ぎ登場しているように感じました。すでに「女性による女性のための百合漫画」も多いため、これらはレズビアンらに「自分たちを描いた作品」として受け入れられ始めています。

■BLはゲイ文化・LGBTQ+文化の「簒奪」か?


日本のJUNEからやおい、BLに至るまで何度か議論になっていたのが「JUNE、やおい、BLとゲイを含むLGBTQ+コミュニティとはどのような関係なのか」という問いです。もちろん一様ではないのですが、一部では「BLややおいは、男性同士の恋愛をゲイの人々から奪っている」という主張もありました。

実は同じことを海外のコミコンのファンによるパネル発表で聞きました。彼らの分析対象は男性キャラクターの多い日本のアニメが対象で、「男性キャラクターを多く出して男性同士の親密な関係を視聴者を引き付ける材料にしている」という批判的なものでした。英語圏では「queer baiting」というそうです。

彼らが分析対象としているアニメはもともと少年漫画が原作となっているもので、けして作者にはqueer baitingの意図はないと思います。しかし、あくまでファンレベルですがそう受け取ってしまっている人はいるのです。

■これから日本の男性同士の物語をちがう言語圏に発信するにはどうすればいいのか?


とはいえ、日本のBLを含む男性同士の物語はこれからどんどん海外に出ていくことになると思います。英語圏では前述のFutekiyaだけでなく複数のBL専門の配信サイトが立ち上がっているうえ、BOOK WALKER Global Store やRenta!でもBLを配信しています。海外のファンも読みたいし、日本の出版社も積極的に出していきたいでしょう。

上記のようなファン層の違いと、急速なLGBTQ+コミュニティの広がりを踏まえると、早急に各言語での日本のJUNE、YAOI、そしてBLの歴史とクリエイターの考えを発信しかつ、それぞれのカテゴリーにあう作品の紹介が急務になっていると思います。読者の誤解が無用な反発や敬遠につながらないよう、可能であれば作り手の意図や狙いも明らかになっていくと助けになるでしょう。

(といっていたら、日本マンガ学会が「BLとメディア」というタイトルでシンポジウムを計画されていることがわかりました。実際のクリエイター側からの発信は貴重です)

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