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ループライン#32
【異風堂々 陸】
花が咲いている。俺の好きな花だ。
遠くから見ると綿菓子やポップコーンのようだけれど、下から見上げれば降り注ぐ花びらが雪のように見える。俺は風流を解するたちだから、根元に陣取って見上げているのが好きだ。寒さの厳しい季節は通り過ぎたし、何時間でも眺めていられる。飽きることなく、ずっとずうっと。
――ああ、春だなあ。
そうなのだ。春なのだ。こんなに眠たくなるのは、春眠が暁を覚えないからなのだ。決して俺が怠け者だからではない。
くあ、と遠慮のないあくびを一つして、俺は古木に寄りかかった。木の肌はゴツゴツしつつもつるりと滑らか。そして触れているところからじんわり温もりが感じられる気がする。とても優しい木だ。昔から、この木は神様や精霊の寄り代などと言われているらしいが、神様達がつい降りてきたくなる気持ちもよく解る。
――春を謳歌するにはピッタリだもんなあ。
だから桜花(おうか)というのだろうか? いや、これはたまたま、偶然の一致か。
このままいつまでも柔らかい春の陽気に浸っていたいけれど、そうのんびりもしてはいられない。限られた時間を、めいっぱいのエネルギーで咲き誇る花達をしばし目に焼き付けて、俺はぐっと伸びをした。フルフル顔を振って頭に積もった花びらを落とす。
散歩ついでにお花見を楽しむ人達を横目に、俺は運動公園を出た。目の前の県道をひっきりなしに行き交う車の音と流れに、夢の中をたゆたっていたような気分が一気に現実に引き戻される。
――早まったかなあ。
そう胸の中で独りごちて、けれど足取りはしっかりと目的地へ向かっている。自分で決めたことなのだ。決めたからにはやるだけだ。俺はその辺りいい加減じゃないからな。
桜の古木に思いを馳せれば、これから会う相手の顔がオーバーラップするように瞼の裏に浮かんできた。
――結局、一年中茶色やベージュ系統の服を着てたなあ。
だから木と印象が似て思えたのだろうか。いやそれだけではないか。どうだろう。
一年と少し前、初めて彼に会った時のことを思い出す。怪しかったよなあ。実に怪しかった。そんな相手と一年後、こうして日常的に関わっていくことになるとは。縁とは全くもって分からないものである。
出会いと別れの季節、春。
変化の季節、春。
自分に訪れた、自分が選択した変化と真正面から向き合いながら、また移ろいゆく四季を過ごしていくのだろう。それは俺だけじゃなくて、誰もが。
何度だって巡ってくるけれど同じ春は二度とは訪れないのだと、生き物はきっと皆知っているから。焦がれ、尊び、愛でて惜しんで……短くも懸命な輝きに勇気付けられて、そうして次の春までの日々を駆け抜けていくんだ。
――さあ、俺も新たな一歩を。
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■2021.05.04 初出