ループライン#7
【異風堂々 弐】
いつも穏やかながら読めない顔をしている男だが、その日は比較的素直に表情を見せているような気がした。
外はどんよりと暗く、空気は湿った匂いがする。数日降り続いている雨がまた少し強くなったようだ。雨が好きなんだろうか? どこか嬉しそうにも見える。
――と思っていたら、急にハッとした顔になり、鞄をゴソゴソし始めた。何だどうした。
「傘を……忘れましたねえ」
残念な独り言だ。まあ、俺がいることに気が付いてないみたいだから、誰にも聞かれていないと思ってるんだろうけど。というかこんな天気の日に、どうしたら傘を持たずに出掛けられるんだ。出先でどこかに置き忘れたということだろうか。何れにせよ、どうするつもりだろう。
じいっと様子を窺っていると、男は浅い溜息を吐いて探っていた鞄から顔を上げた。
「しばらく、乗っていましょうか」
今日の雨は粘っても止まないと思うぞ。というか、モノレール何周するつもりなんだ。ツッコみたいが、胸の中だけに留めておくことにする。そんな俺の優しさも知らず、男はというと『もう決めた』とばかりに深くシートに座り直した。
外は薄闇に支配され始めた。降り続ける雨が幾筋も窓を伝っていく。男が眺めているのはその筋なのか、流れゆく外の景色なのか。
俺には知る由もない。
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■2020.10.20 初出
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