ループライン#17
【異風堂々 肆】
その日、夕方に姿を見せた男はご機嫌だった。
乗降者数の割合少ない駅から乗り込んできた男の片手にはコンビニ袋。もう片方の掌の上には、可愛らしくラッピングが施された小さな包みを乗せている。見た感じお菓子だろうか?
……羨ましい。少し分けてくれないだろうか。
いやいや、俺は硬派な男。おねだりなど、そんなまさか。じゅるり。
気を取り直して男を眺めると、今にも鼻歌でも歌い出しそうな表情で、流れ行く外の景色を見つめている。よっぽどいいことがあったのだろう。
西の空は柿色に染まっていた。なんとも美味しそうな色合いだ。取り直したはずの気が、再び男の持つお菓子(多分)に引き寄せられていく。
寝たふりをして薄目で見ていた男の方へと、さりげなさを装ってゆっくり首をもたげてみた。ちょうどモノレールが駅に滑り込もうというタイミング。不自然には思うまい。
心の中でドヤ顔をキメた俺の方を、しかし男は全く見ていなかった。ガッカリだ。
よく見れば先程までとは雰囲気が変わっている。いったい何に気を取られているんだろう。男の視線の先を追うと、ホームのベンチにポツンと座る、小さな女の子の姿に気が付いた。一人だろうか。もう日も暮れかけているのに……。
――声をかけてみようか。
俺がそう思い腰を上げようとするより早く、男が立ち上がった。抜群のタイミングでドアが開く。
モノレールを降りた男は一寸の躊躇いもなく、改札とは逆方向であるベンチに向かって歩いて行った。
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■2021.01.05 初出
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