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ループライン#12

【異風堂々 参】

 太陽はようやく天辺を通り過ぎたくらいだ。
 ジリジリ照りつけるこの日差しの強さときたら、最早暴力の域。とりわけ色の黒い俺にとってこの時期、如何に暑さをしのぐかは死活問題と言っていい。いつもクールで通っている俺でも、さすがにグッタリしてしまう。
 モノレールの中には扇風機しかない。ならばどこかの駅の日陰で過ごす方が風が通って快適だろうと、俺は見知ったホームに降り立った。

 この駅は比較的新しいマンション群のど真ん中にあり、小さいながらも駅前広場が造られている。ささやかな噴水の傍で涼を取ってようやくひと心地。ダルダルになっていた思考能力が少しずつ戻ってくる。
 水場の近くで暑さはマシだけど、ここには直射日光を遮るものがない。オシャレな煉瓦敷きの地面は炎天下で熱されたフライパンのようだし。
 キョロキョロと辺りを見回して、少しでも過ごしやすい場所を探す。休日だというのに人が少ないのは、きっと皆涼しい屋内に避難しているからだろう。賢明な判断だ。
 キミもそうすればいい――と言われるかもしれないが、俺は冷房が苦手なのだから仕方ない。

「あづ~い……おかーさん、アイス食べたい」
「お昼に大きいサイズのジュース飲んだばかりでしょ。またお腹壊すわよ」
「いい。もうお腹壊してもいーよ……」

 親子連れの会話にも覇気がない。お嬢さん、気持ちは分かるが投げやりになっちゃあいけねえぜ。君はまだ本当の腹下しの恐ろしさを知らないのだよ。
 まあその話は置いておくとして。
 最近、モノレールに見覚えのない乗客が増えた気がする。スーツ姿の男達で、一人の時もあれば複数人の時もある。一度嫌な事があってから、彼らと乗り合わせそうな時は俺がわざわざ一本乗車を遅らせている。一体何だというのか。ちょっと不気味だ。

 我関せずというかのように、モノレールは今日も人々の日常を走る。



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■2020.11.24 初出

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