ループライン#25
【異風堂々 伍】
冬の日差しは弱い。けれどもあるだけマシだ。特に俺は色が黒いから熱の吸収効率がいいし、風さえなければそれなりにのんびり過ごすことは可能なのである。
新年を迎えて浮き足立っていた街も、いつもの落ち着きを取り戻してしばらく経った頃、俺は中央公園駅の駅員室にいた。そう。風さえなければ外でのんびり過ごすことは可能だが、ストーブで温められた室内で過ごせるならそれに越したことはないのである。極楽極楽なのである。
俺があまりにも頻繁にモノレールに乗っているので、自然と駅員さんや運転士さんに顔馴染みが増えた。状況が許せばこうして駅員室にお邪魔させてくれたりもする。ごくごくこぢんまりとした地域の路線であり会社であるからこそ、許されることだろう。ありがたい話だ。
「もうすぐバレンタインだなあ」
今日の駅員は三十代前半の童顔社員だ。イケメンと称するには語尾に疑問符が二つくらい必要だが、屈託ない笑顔と人懐こさで割と乗客にファンが多いらしい。
「キミ、人気あるだろ? ここにちょくちょく遊びに来てるの知ってる人もいるから、今年はキミ宛てのプレゼントが駅に届くかもしれないね」
のんびりと、そんなことを口にする。
自分のことはどうなんだと思わなくはないが、まあこの男のことだ。それなりに貰ってそれなりにイベントを満喫するのだろう。何より自他共に認める愛妻家だしな。
「相変わらずクールだなあ。それでいて一匹狼気取ってないところが人気の理由なんだろうけど。人好きだもんな。よく人間観察してるし」
これについてもまあ否定はしない。
「うちの奥さんにも会わせてみたいな。ただ最近ちょっと体調崩しちゃってるから、彼女が元気になったら是非うちに遊びにおいで」
『ね?』と小首を傾げる駅員に曖昧なリアクションをして、俺は机に突っ伏した。睡魔が眉間の上の方でゆらゆら踊っているような感覚。あー、今目を瞑ったら確実に三秒で寝る。いーち、にー……さん、を数える途中で俺の意識は眠りの沼に引きずり込まれていった。
夢に落ちる寸前、電話の音を聞いた気がした。
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■2021.03.16 初出