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朝倉海と平良達郎:UFCフライ級

・いきなりの王座挑戦

 10/12(日本時間)の夜、朝倉海のUFC初戦が、フライ級王者パントーハとのタイトル戦になることが、発表されました。以前から噂にはなっていましたが、個人的にはいきなりの王座戦は非現実的という感覚もあり、話半分程度に聞いていました。それが公式発表が来たので、本当だったのか、という驚きがありました。

 この日に発表があったのは、特別なタイミングでもありました。それは、無敗の日本人UFCファイター平良達郎が、フライ級1位のブランドン・ロイバルと対戦する前日だったからです。この試合に勝った方が次期挑戦者になる、と目されていた試合でした。

 私は、以前RIZINについて書いた記事でも触れたように、バブル人気としか思えない朝倉兄弟には懐疑的でした。増して地味にUFCを見続けて来た私のような人間からすれば、コツコツUFCでの勝利を積み上げて来た平良がタイトル挑戦して王座に就いた方が、気分的な収まりは良かったのは確かです。
 ただ、私がRIZINを見始めた当初はともかく、その後実力を証明し続けて来た朝倉海のことは、もちろん強い選手だと思っています。層が薄いフライ級であれば、話題性や日本での知名度を考慮してのいきなりの王座戦もそこまでおかしなことではないと思い、拒絶感はあまりありませんでした。


・ロイバル対平良

 そして迎えた、ロイバルと平良の試合。試合前のオッズは無敗の経歴のためか平良の圧倒的有利。日本人解説者の予想も、平良勝利が多数派。ただしこれは、応援の意味合いが強かった可能性もあります。
 私自身は、スタンドでの打ち合いでかなり押されてしまうかも、という懸念を抱いていました。実際の試合ではその懸念が的中してしまいましたが、これはもちろん私の慧眼なんてものではなく、ほとんどの人が内心抱いていた懸念のはずです。

 具体的に試合を振り返ると、
1R:ロイバルがサウスポー、平良がオーソドックスのケンカ四つでの差し合い。若干ロイバル有利。
2R:テイクダウンした平良がバックを取り、ほぼ全時間帯で完全にコントロール。執拗に向き直りや落としを仕掛けられても全て的確に対応。お見事。
3R:ロイバルが完全に距離感を掴み、そのパンチに全く対応出来なくなった平良が、ボコボコにされる
4R:平良は前Rからの流れでパンチを当てられるも、テイクダウンしてバックを取る。2Rと同様にコントロールしつつ時間を使い、ダメージ抜きを図ったか。素晴らしい巻き返し。
5R:打撃は、時折平良も当てるものの、明らかにロイバルのヒットが多数。平良がテイクダウンを仕掛けるも、クリーンなテイクダウンは出来ず。何度かガブる場面を作るも、ロイバルに立たれる。最後は逆にバックを取られて終了

 と言った感じでした。正直、3Rで「終わった」と思ったところ、4Rにバックを取って巻き返した時は感動しましたし、5Rの攻防は久し振りにテレビの前で
「頑張れ!頑張れ!」
 と大騒ぎしながらの観戦となりました。

 結果、1,3,5Rを取ったロイバルが、スプリットながら判定勝利(ジャッジ1人は、1Rを平良がとったと判定)。フライ級上位ランカーの牙城は崩れぬままとなりました。


・平良の現在地

 この試合で、平良の現在の能力について、ネガティブな面とポジティブな面が一つずつ、判明したと思います。
 ネガティブ面は、スタンドでの打撃はまだ上位ランカーにはかなり劣ること。もちろん相手がパントーハであっても、似たような結果となったことでしょう。
 ポジティブ面は、グラウンドでのコントロール能力は突出しており、上位ランカーをも制圧出来ること。こちらも相手がパントーハであっても、互角以上にやり合えたと思われます。
 ただこれは、事前にある程度分かっていたことでもあります。グラウンドに持ち込んでしまえば、極めも含めて階級トップクラス。しかしスタンドでの打撃の能力はそこまででもない。今回も勝負を分けたのは、上述の通りスタンドでの打撃でした。

 結局、こうした一長一短と、スタンドで試合(ラウンド)が始まるというMMAの特性を考えると、平良のランキング五位という評価は妥当だったということでしょう。
 とは言え平良にとってこの試合は、素晴らしい粘りを見せ、ギリギリの試合で大きな経験を得て、自身の現在地を確認したという意味では、決して悪い試合ではなかったと思います。もちろん、勝ってタイトル挑戦することが目的だったのですから、そんな言葉が慰めにならないのは十分承知ですが…


・パントーハ対朝倉海の予想

 続いて、この試合を踏まえた上で、パントーハと朝倉海の力関係を考えてみましょう(朝倉海のフライ級でのコンディション作りは、問題ないという前提とします)。
 と言っても、図式的には簡単で、スタンドでは朝倉海、組みとグラウンドではパントーハが有利。これは分かり切っています。ロイバルが朝倉海、平良がパントーハに相当すると言えます。

 しかし、共通なのは図式だけで、具体的な力関係は当然同一ではありません。朝倉海は打撃こそ強力ですが、組みはテイクダウンされないこと、グラウンドは立つことに特化しています。
 そしてパントーハは、モレノやロイバルと渡り合って来た実績が示す通り、打撃を一方的に当てられまくるような展開(3Rの平良のような)は考え難いです。

 そう考えると、
 朝倉海は、ロイバルが平良を圧倒したほど、パントーハを打撃で圧倒出来るか?
 組まれた時、寝かされた時に、ロイバルほどの対応力(結果完封されたとは言え)が、朝倉海にあるか?
 答えはどちらも否だと、私には思われます。

 唯一の希望は、朝倉海の打撃には一発で相手を倒す力がある、ということ。しかし、それが唯一の希望だと言うのでは、あまりに苦しい…と言うより、勝つ見込みはほぼゼロです。
 結論としては、組みも含めた5Rの総力戦の末に朝倉海の判定負け。その可能性が一番高いと私は予想します。
 本人のYouTubeでの言によれば、ランカーのほとんどが既にパントーハに負けているので、新勢力としてフライ級を盛り上げて欲しい、と言われたとのこと。UFCの紛れもない本音ではあるでしょうが…


・最後に

 パントーハ対朝倉海が発表された時、日本のUFCファンの脳裏に浮かんだのは、
朝倉海が王座を奪取し、
ロイバルを倒した平良が挑戦者となり、
この二人のフライ級王座戦をメインとしたUFC日本大会の開催、
 というストーリーです。
 既にその希望は半分潰えて、もう半分もかなり苦しいと言えそうです。ただもちろん、試合は蓋を開けねば分かりませんので、12月の試合はしっかり見届けます。


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