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先のことはわからない。だから人生はおもしろい。

私たちが住む世界は本質的に予測不能である。
先のことは誰にもわからないし、自分がいつ死ぬのかさえもわからない。
もしかしたら明日どこかの国が核ミサイルのボタンを押すかもしれないし、戦争が起きて第三次世界大戦にまで発展するかもしれない。
核戦争が起こって人類が滅亡する可能性もゼロではない。

私たち人類が作り上げた社会はとても複雑で、小さな影響が波及して大きな出来事につながったりする。
よく言われる「バタフライ効果」というやつだ。
ブラジルで羽ばたいた蝶がアメリカで竜巻を起こすという、小さな変化が大きな変化につながるカオス理論の代名詞である。

このバタフライ効果は私たちが住む世界のいたるところに潜んでいる。
とくに現代社会のように複雑化し、世界中にグローバルなつながりを構築している社会の中では、何が大きな出来事につながるかは誰にもわからない。
だから先のことはわからないし、予測なんてものは何の役にも立たない。

でもそれは、人間や人生、自然や環境、社会や文化といった文脈での話で、物事のすべてが予測できないわけではない。
手に石を持って離せば、石はニュートンが発見した重力と運動の法則に従って床に落ちることは誰もが予測できる。
つまり、物理学などの厳密な科学の世界であれば、数学的な計算によってある程度の予測はできるのだ。

先のことはわからないのが人生。

忘れちゃいけないのは、私たちが生きている現実の世界では、厳密な科学が当てはまる世界のほうが圧倒的に少なく、世の中は科学では答えが出せない現象ばかりが溢れかえっているということだ。

もちろん、ここでいう科学とは「科学的に正しいダイエット理論」だの「科学から導き出された最新筋トレ法」などといった似非科学ではない。
現代に溢れかえっている「科学」という言葉はほとんどが似非科学であり、本物の科学は物理学のように厳密なもののことを指す。

現代の世界は不確実な出来事で満ちている。
自分の人生を振り返ってみるとわかるように、今までの人生の中で思い通りにいったときと思い通りにいかなかったときでは、どちらのほうが多かっただろうか。
おそらくほとんどの人は、人生は思い通りにいかないもので、期待していた出来事が起こらなかったり、予想外のことばかり起こったり、先のことはわからないという結論になるだろう。

人生の大きな変化が起こる時はいつだって突然である。
あらかじめ明日人生が変わる出来事が起こると予測することは誰にもできない。
先のことがわからないと不安になる人もいるが、そもそも人生の本質が先のことはわからないものなのだ。

同じように見えても同じではない

毎日同じことの繰り返しだと思っている人は、自分の一日には何も特別なことは起こらないと思っている人もいるだろう。

たしかに、朝起きた段階で一日の流れは大体予測できるかもしれない。
朝いつも通りのアラームで目を覚まし、電車に乗って出勤する。
ときどきメタボ腹の頭が薄い上司に叱られながら仕事をし、定時にタイムカードを切って会社を出る。
たまに残業をしたり、同僚と飲みに行ったりすることもあるかもしれないが、それすらもある程度予測は可能だ。
家に帰ってからは夕食を食べ、ソファでダラダラしながらスマホをいじり、ゴロゴロと寝落ちを繰り返し、お風呂に入って明日のためにベッドに入る。

こうした生活を毎日繰り返している人は多いだろう。
でも、同じような毎日を送っていても、一日の中で起こる出来事はまったく違っているはずだ。
お昼に食べるお弁当をこぼすかもしれないし、気になる異性から話かけられるかもしれない(それだけでハッピーな気分になるだろう)。
久しぶりの友人と再会するかもしれないし、飲みに行ったお店で知らない人から話しかけられて仲良くなるかもしれない。

昨日とまったく同じ今日は存在せず、今日とまったく同じ明日も存在しない。
つまり、同じように見えたとしても、同じではないのだ。

世界は複雑かつ不確実で、先のことはわからないのであれば、今の自分の状況がずっと続くものだと思ってはいけない。
もちろん命も。

先のことはわからないから人生はおもしろい

ギリシャ神話の中には「ダモクレスの剣」というお話がある。

ある日、シラクサの僭主であるディオニュシオスの廷臣ダモクレスが、王の名誉と地位と幸福を称えた。
王はダモクレスの態度を受けて喜ぶわけでもなく、無言で宴席へと導ち、見るからにヨダレが滴り落ちそうな豪華な食事の席へと座らせた。
ダモクレスは自分の忠誠心が王に伝わったのだと喜びながら食事を味わう。
でも、実はその食事の席の頭上には馬の毛1本で吊るされた剣があり、毛が切れれば剣は容赦なくダモクレスの体を貫くことになる。

このギリシャ神話の教訓は、「先のことはわからない」「地位や権力には常に危険が潜んでいる」ということである。
そしてこのお話は、私たちの人生にそのまま当てはめることができる。
つまり、先のことはわからず、明日すべてを失う可能性もあるということだ。

ダモクレスの剣は、私たちの人生が予測不能で、先のことはわからず、常に人生を揺るがす出来事が側に潜んでいることを教えてくれる。
私たちの人生と生活は、毎日リスクの上で成り立っているのである。

世界は複雑でわからないことで溢れている。
人生も不確実性に満ちていて、先のことはわからない。
でも、私たちは先のことはわからないからこそ、今日も明日もそれなりに幸せを感じながら生きていけるのだ。
なにもかもわかっている人生なんて、おもしろくもなんともない。
先のことはわからないという不確実性こそが、人生を刺激に満ちたおもしろいものへと変えてくれるのだ。

先のことはわからないことを受け入れる勇気と、常にすべて失う覚悟を持ちながら、安定という幻想を捨て、ただ今を一生懸命に生きよう。

おしまい。

【参考書籍】


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