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現在はスタグフレーションなのか?
2023年12月、私は「日本型スタグフレーション」(上記の記事です)の足音が近づいていると警告しました。戦争や資源高、日米金利差による円安(当時USD/JPY 147円)が経済に暗い影を投げかけ、物価上昇と景気停滞が同時に進行するリスクを指摘しました。それから約14ヶ月後の2025年2月、2023年当時の予測ではプラス成長が見込まれていましたが現実は期待を下回っています。日本経済は果たしてスタグフレーションに陥っているのでしょうか? 歴史的な事例と最新の動向を照らし合わせ、現代日本の状況を検証し、その先に潜む可能性を探ります。
スタグフレーションとは何か
スタグフレーションとは、物価が上昇する一方で経済成長が停滞し、不況が続く状態を指します。代表例として、1973年の第一次オイルショック時の日本を挙げましょう。第4次中東戦争を機にOPECが原油価格を急騰させ(1バレル3.01ドル→11.65ドル)、消費者物価指数は1974年に+23%を記録。同時期の経済成長率は-1.2%と戦後初のマイナスに転じ、高度経済成長期が終焉を迎えました。この供給ショックによるコストプッシュインフレが、景気低迷と結びついた典型的なスタグフレーションです。
2025年の日本経済:スタグフレーションの兆候
2025年2月26日現在、為替レートは1ドル149.5円に達し、円安傾向が続いています。消費者物価指数は前年比4%と上昇を続けていますが、実質GDP成長率は+0.1%と非常に弱く、好景気とは言えません。2023年当時の予測ではプラス成長が見込まれていましたが、果たしてこれはスタグフレーションなのでしょうか?
1973年との相違点
・当時は高度成長によるインフレ基盤があったが、現在は長年のデフレから脱却したばかりで経済が脆弱。
・エネルギー依存は石油から多様化が進んだものの、資源輸入コストの上昇は依然として家計を圧迫。
・平均年齢は1973年の32歳から2024年では47.6歳へと高齢化が進み、若年層の消費力が低下。
共通点
・地政学的リスク(ウクライナ侵攻や紅海付近での散発的な戦闘)によるエネルギー価格高騰とコストプッシュインフレ。
・実質実効為替レートはBISによると2020年を100とすると2024年には50台に低迷。
・日銀への利上げ圧力はあるものの、政府債務の膨張と日銀の財務状況により金融政策の自由度を制限。
日本型スタグフレーションの特徴
私が考える「日本型スタグフレーション」とは、少子高齢化による労働力不足、円安による輸入コスト増、社会保障負担の増大が絡み合い、供給力の低下と需要の停滞が同時に進行する状態です。現代では内需の停滞が顕著で若年層の可処分所得が少ないことが特徴的です。2023年以降、日銀の異次元緩和縮小や利上げが試みられたものの、円高にはあまり振れず、経済の停滞感は拭えません。
家計への影響と対策
影響
・可処分所得の低下:社会保険料や税負担増で手取りが減少し(例:月20万円→18万円)。
・物価上昇:日常品の価格が上昇(例:100円→115円)、購買力が低下。
対策
・金:インフレや不況時の資産防衛として有効。2022年のウクライナ侵攻時の高騰(7100円→8100円/g)が参考に。
・物価連動国債:物価上昇に連動し、家計への影響を軽減。ただし、デフレリスクが薄れた今、より魅力的。
・デジタル資産:ビットコインなど、現代的な選択肢も検討の余地あり。
ソ連経済との共通点
スタグフレーションの議論を深める上で、ソ連のブレジネフ時代(1964-1982年、「停滞期」)との比較が示唆的です。この時期、ソ連は経済成長が鈍化(年率2-3%程度に低下)、重工業偏重による非効率な生産体制、労働力の硬直化が進行し、生活必需品の価格は上昇する一方で供給不足が慢性化しました。経済は停滞しつつも、軍事費や社会保障への支出が膨張し、改革が進まない硬直性が特徴で特にソ連型計画経済の特徴として挙げられるのは、生産性を上げるためにはリソースを増やして規模を拡大する外延的な発展に頼りきりだという点です。また、マルクス・レーニン主義という国家イデオロギーの影響で、労働者の解雇のハードルが高く、企業が赤字でも国に救済される仕組みがありました。
そして日本も労働者の解雇のハードルが高く、所謂ゾンビ企業は超低金利で資金調達が可能で補助金も豊富という資本主義でありながら社会主義的な構造があります。上場企業にしてもオーナー社長というよりサラリーマン社長という官僚主義的な風潮です。
そして複数の兆候が見られます。少子高齢化による労働力不足は供給力を弱め、資源輸入依存はコスト増を招き、政府債務の増大が財政・金融政策の柔軟性を奪っています。1973年のような急激なインフレはないものの、成長率の低迷(実質GDP前年比+0.1%)と物価上昇(前年比4%)が並走し、内需が縮小する中で社会保障負担が若年層を圧迫。ソ連ほど極端ではないにせよ、経済の硬直性と停滞感は「日本型スタグフレーション」をソ連の停滞期に近いものとして位置づけられるのです。
結論:ソ連経済に近づく日本経済
2025年2月時点で、日本経済は厳密な意味でのスタグフレーション(マイナス成長+高インフレ)には至っていませんが、成長の低迷と物価上昇が共存する「スタグフレーション的状況」にあると言えます。この状態は、1973年の供給ショック型とは異なり、構造的な供給力低下と需要停滞が絡む現代特有の危機です。そして、その姿はソ連の停滞期に近い——経済が硬直し、改革が進まず、緩やかな衰退が進行する状況です。政府と日銀が現行政策を続ける限り、この「日本型スタグフレーション」はさらに深まりかねません。歴史から学び、家計を守る行動を今こそ始めましょう。