「社会保障費は減らせない」はウソっぱち
増税容認論者の問題意識は少子高齢化で社会保障費は減らせないという部分にあるかと思います。「増税しなければ、あなたは医療を受けられなくなります」と脅すわけです。
しかしそれは医療従事者からみればてんでおかしな話です。なぜならば医療制度で支出削減可能な部分は数多くあるのに、政府はそれら具体案ほとんど実行してこなかったことを知っているからです。
政治家はあなたが「医療制度の無駄」について詳しくないという、情報の非対称を突いて増税を容認させようとしているのです。
それではみなさんが気になっている具体案を下記に列挙しますが、これらが実行されなかった理由はひとえに医師会の圧力に政治家が勝てなかったからです。(下図における『その他の影響』)
医療費の際限なき膨張は政治家の頑張り不足の結果であるのに、それを反省するどころか国民に増税を認めるよう説得にまわる。これがどれだけおかしなことか、多くの国民にご理解いただけると思います。
1,社会保障の地方行政への一元化(道州制)
医師会は医師だけでなく、看護師やコメディカルを巻き込んだ一大勢力です。それが保険医政を考える中央社会保険医療協議会(中医協) の場で「請求側」として大きな影響力を持つ一方、「支払い側」である保険者は我々の税金と保険料を原資としているのにその利益を守ることへのインセンティブは薄弱です。
なぜならば皆保険制度の保険者は元社会保険庁職員の半公務員であり、民間保険会社のように自分の仕事や生活をかけて「支払い側」の権益を守る必要がないからです。
社会保障を国の関与を最小限にして、財源ごと地方自治体へと一元化していくのは、「支払い側」と「請求側」の関係が明確になり均衡を取りやすくなるとされています。また地域によって公助が必要な課題が違う点も、地域ごとに異なった社会保障サービスを展開するほうが合理的な理由になります。
2,混合診療の解禁
公共選択論という考え方に基づくと、単に医師会に対して報酬を減らせといっても反発を招くだけで政治的な実現は困難。そうであれば医師会側にも旨味がある改革案を提案すべきです。それが混合診療の解禁、分かりやすくいうと保険適応外項目の増加です。
たとえば一錠300万円を超える分子標的抗癌薬など保険適応とし国民全員で費用を分担していくことが、果たして国民の納得を得られるでしょうか。
残念ながら統計学的に効果がある治療法のほとんどは保険適応となり、「推奨されるスタンダードな治療」と位置付けられる「標準治療」に含まれています。こういったものは私の感覚では、経済的合理性で考えてアディショナルな治療であると感じます。
手前味噌ではありますが混合診療の先駆者は歯科医療分野と言われております。ご存知のとおりセラミックを使用した治療法などは保険適応外ですが、保険適応ながら日本独自のガラパゴス材料である銀歯よりもエビデンスは豊富です。念のため、銀歯が悪い材料だというつもりは全くありませんので誤解なきようお願いします。
病院経営上も保険外診療による収益増は、よりよい医療器具の使用や設備投資という観点で国民に提供する医療の質を高めます。
3,資格による独占業務の規制緩和
こちらも医師・コメディカル・患者・保険者全員がWin-Winとなる政策です。医師には多くの法的定められた独占業務があるのはご存知の通りです。
医師の人件費は極めて高額であるため、できる仕事は看護士や検査技師などのコメディカルが担当することで医師の業務の効率化を図るとともに経済的合理性も得られます。
事実必ずしも医師でなくても実行可能な医療行為でありながら規制によりコメディカルに任せることができない業務というのは様々にあり、医師もそれらの非合理的な業務に忙殺されています。規制緩和は医師が医師にしかできない業務に集中できるようになり、さらなる医療技術の研鑽に資することができます。
また開業権や初期医療に関する規制緩和も、医師の偏在に悩む僻地医療の解決策の一つになりうると考えられています。
ここまで3つの改革案をご紹介しましたが、現時点で政府内でもある程度議論が進んでいる論点の中で説明しやすいものをピックアップして紹介しました。
このほかにも医療費削減案は無数にあり、どれも政治家の決断力が足りないために先延ばしになっています。
皆さんにはこれらの社会保障の削減案がありそれが弱者切り捨てとは全く関係のないものだということを認識し、現役世代負担の軽減のために政治家に決断し実行せよと強く求めてほしいと考えています。
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