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[法案調査] オーストリアとの年金協定で二重払い解消、経済交流活性化へ
要旨 - Summery
2024年参議院 第213回国会にて議論される「社会保障に関する日本国とオーストリア共和国との間の協(1,2)」について浜田聡参議院議員の依頼で調査を行ので、その結果を依頼に基づき公表する。
(1) 日・オーストリア社会保障協定の署名が行われました ー 厚生労働省
(2) 日・オーストリア社会保障協定の署名 ー 外務省
背景 - Background
オーストリアは460.60ユーロ(68,600円 調査時点)以上の収入がある場合年齢・国籍を問わず強制加入となる法定社会保険が基礎的な社会保障制度となっている(3,4)。
ここには傷害保険・健康保険・年金保険・失業保険が含まれており、配偶者・登録パートナー・子ども・介護レベル3以上の親族が被保険対象者に含まれる。
本テーマから少し脱線するが、法定健康保険を利用する場合、公的病院および一部の認定診療所における医療費は無料となる。ただしそれらの医療機関は大変混雑し、低水準な対応となる場合が多い。
それ以外の病院・診療所は全額自己負担あるいは一部自己負担の医療機関がある。これらの医療費に充てるためオーストリアでは法定社会保険に加え、様々なカバー範囲および保険料差別化された民間保険に加入する場合がある。民間保険加入率は、およそ3人に1人だとされている(5)。
話をオーストリアの法定年金保険に戻すと、年金受給資格を得るためには180カ月(15年)以上の保険料払いが必要で、受給額は勤労期間中の平均所得から計算される。
男性の平均月間受給額は2232ユーロ(36万円 調査時点)、女性は1133ユーロ(18万円 調査時点)とされている。この差は女性労働者のほとんどがパートタイマーであることが理由とされている。全体平均は1635ユーロ(26万円 調査時点)である。
公的年金保険は保険料支払い者本人のみが受給することとなり、専業主婦(夫)の受給権はない。必要に応じ、任意年金保険などに別途加入することとなる(6,7)。
さて、オーストリアの在留邦人は3,247人(令和5年10月1日現在、外務省・海外在留邦人数調査統計)であり(1)、現行制度下ではオーストリア国内で就労する場合公的社会保険に強制加入することとなる。
このとき日本における厚生年金を継続する場合は、公的年金保険料を2重で支払うこととなり、なおかつオーストリアでの保険料払いが180カ月未満である場合、年金受給資格を得られず払い損となる。
あるいはオーストリア滞留期間中において日本の厚生年金を離脱する場合、180カ月未満の期間であるならばオーストリアの年金受給権は得られず、さらに日本の厚生年金受給額も目減りすることとなる。
この社会保障協定は日本とオーストリアにおける年金制度同士の整合性をとることで、2国間を往来する労働者や駐在員等の負担を軽減し人的・経済的交流を促進することを目的とする。
(3) Willkommen am Portal der österreichischen Sozialversicherung
(4) Pension - oesterreich.gv.at
(5) オーストリアの社会(健康)保険制度をカンタンに解説 - せかいじゅうライフ
(6) オーストリアの年金制度・国民年金はないが日本人ももらえる年金がある - せかいじゅうライフ
(7) 「社会保障協定」のメリットと知られざるデメリットとは - みんなのねんきん
法案の概要 - Method
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1,年金制度の二重加入義務の解消
オーストリア滞在期間が5年以内となる「一時派遣被用者」等は、原則として派遣元国の年金制度にのみ加入することとなる。
2,保険期間の通算化
両国での保険期間を通算して年金の受給権を確立できることとする。
3,協定の締結と発効
協定を締結するためには、日本では国会の承認を要する。外務省による手続きの後、”発効”となってから本協定は適応されることとなる。
事前評価 - Assessment
1,年金制度の二重加入義務の解消
同様の社会保障協定は2000年2月にドイツとの間で取り交わしたのち、22か国との間で締結されてきた。対象国は西欧主要国家、北米、中国・韓国・フィリピン・インド・ブラジル・オーストラリアとなっている。
社会保障協定では「保険料の二重負担防止」「年金加入期間の通算」という2つの仕組みを盛り込むのが一般的とされている。ただし、英国・韓国・中国との間では「年金加入期間の通算」は定められていない。
協定締結国によっては年金以外の健康保険・雇用保険・労災保険に関して取り決めることもある。今回のオーストリアとの協定は、”平均的な協定内容”であると評価できる。
2,保険期間の通算化
おもに5年以上オーストリアに滞在する場合に適応され、派遣先の国の年金制度に加入して日本における厚生年金からは外れることとなるが、保険料支払い期間は合算され厚生年金受給額が目減りすることがなくなる。
一方で厚生年金加入を前提とした確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(企業型DC)は利用できなくなるため、海外派遣被雇用者は資産形成手段に制約が残ることとなる。
想定質問 - Discussion
1,出稼ぎ就労者や国民年金加入者への適応について
本協定の発表資料では対象者を「相手国に一時的に派遣される企業駐在員等」と定義しているが(1)、近年は若者を中心として海外に出稼ぎ就労する労働者が増加している(8)。このような就労の場合オーストリアでは公的社会保険に加入することとなると想定されるが、多くの場合年金受給条件である180カ月を待たずして帰国することが考えられる。
この場合日本人労働者の社会保険料はオーストリア政府に対し「払い損」で終わることとなり、労働者自身も日本国内における年金加入実績がカウントされないため、二重のディスアドバンテージを負うことが予想される。
オーストリアに出稼ぎ就労するケースは稀と考えられるが社会保障協定全体として、今後増加する出稼ぎ就労者、あるいは国民年金に加入する自営業者の海外長期滞在下での経済活動に関する年金保険制度について、どのように整合性をとっていくよう考えているか問う。
2,厚生年金加入を前提とした諸制度について
本協定案において5年以上海外に滞在する場合、日本の厚生年金から離脱することが想定されていると理解するが、この場合確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(企業型DC)は制度上利用ができなくなる。
資産形成手段の継続性を考慮し、これら企業年金制度間との整合性という点についてどのような対応を考慮しているか問う。
(8) 日本人の若者が海外に出稼ぎへ 増加の裏側にある労働問題 - NHK
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![自由人と社会保障 -Libertarianism and Social security-](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76227279/profile_0f6338aa6cec4d292d9d1102d50b04d2.jpg?width=600&crop=1:1,smart)