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国立大学授業料、衝撃の3倍値上げ!庶民は大学教育から締め出しへ

1. はじめに——突如浮上した「授業料3倍案」

2025年2月、中央教育審議会(中教審)の特別部会において「国立大学の授業料を3倍にする」という衝撃的な提案がなされた。この提案の発案者は、慶應義塾大学の伊藤公平塾長である。彼は、「国立大学の財政危機」「グローバル競争力の確保」「大学の経営自立の促進」を理由に、現在の授業料(約50万円/年)を約150万円/年に引き上げる案を提示した。

この提案の背景には、以下のような要因がある。

  • 運営費交付金の削減:国立大学の財政基盤である運営費交付金が、2004年の法人化以降、年1%程度のペースで減少している。

  • 日本の高等教育の国際競争力低下:海外のトップ大学と比べ、日本の大学の財源が不足しており、研究・教育環境の強化が求められている。

  • 大学の経営努力の促進:法人化により経営の自由度を得た国立大学が、より自主的に財源を確保する方向へ進むべきだという考え。

しかし、この提案に対しては、「授業料の値上げが本当に必要なのか?」という疑問や、「大学の経営努力を検証せずに学生に負担を押し付けるのは問題ではないか?」という批判が噴出している。

本記事では、国立大学の財政状況や政府の支援実態を踏まえ、この提案の妥当性について検証していく。


2. 国立大学は本当に財政危機なのか?——運営費交付金削減の実態

授業料3倍案の根拠として、「国立大学の運営費交付金が削減され続けている」ことが挙げられる。しかし、大学側の言い分を聞くと、その実態はより複雑である。

(1) 運営費交付金の推移

国立大学の運営費交付金は、2004年の法人化以降、政府の方針により段階的に削減されてきた。

  • 2004年度:運営費交付金 約1兆2,400億円

  • 2023年度:運営費交付金 約1兆900億円

約20年で約3,000億円減少しているが、一方で政府は大学側に「財政の自立」を求め、外部資金の確保や経営努力を促している。

(2) 大学側の主張:「1%の削減でも影響は大きい」

国立大学側は、単なる「1%削減」でも経営に大きな影響を与えると主張している。なぜなら、大学の財政は多くの固定費(人件費、施設維持費、研究費など)によって成り立っているため、柔軟に削減できる部分が限られているからだ。

例えば、

  • 人件費の割合:国立大学の支出の約60%が教職員の人件費。削減を進めると、非常勤講師の増加や若手研究者の雇用減少につながる。

  • 施設維持費の負担:国立大学は、築数十年の建物を多く抱えており、維持管理費がかさむ。交付金の削減により、老朽化した施設の更新が進まず、安全性の問題も指摘されている。

  • 研究資金の不足:交付金が減ると、自由に使える研究資金が減少し、特に基礎研究の継続が難しくなる。企業との共同研究に頼ることが増えるが、それでは短期的な利益追求型の研究が優先され、長期的な学術研究が衰退するリスクがある。

(3) 地方国立大学ほど影響が大きい

運営費交付金の削減は、特に地方の国立大学にとって深刻な問題となっている。地方の国立大学は、

  • 企業との共同研究が都市部の大学ほど活発でない。

  • 大口の寄付を受ける機会が限られている。

  • 学生数の減少により授業料収入が減少しつつある。

という課題を抱えており、交付金削減の影響を直接受けやすい。特に、地方の医科系大学では「医師不足対策」として地域に根ざした教育を行っているが、財政難が続けば、その維持すら難しくなるという。

(4) 財政危機の主張は妥当か?

確かに、交付金が年1%ずつ減少していることは事実だが、現在でも1兆円以上の予算が国立大学に配分されている。また、研究費助成や企業からの資金獲得の道もあり、一概に「財政危機」と断言するのは難しい。

ただし、

  • 大学の固定費の高さ

  • 地方国立大学の苦境

  • 長期的な基礎研究の維持の困難さ

といった問題を考慮すると、単なる「1%削減」と軽視するべきではない点も理解できる。


3. 研究費は減らされていない——2400億円の科学研究費助成事業

もう一つ見逃せないのが、研究資金の配分状況だ。

文部科学省の「科学研究費助成事業(科研費)」では、2023年度に約2,400億円が配布された。この競争的資金は国立大学にも広く分配され、

  • 東京大学:約250億円

  • 京都大学:約200億円

  • 大阪大学:約150億円

といった規模で活用されている。つまり、国立大学が研究資金を確保する手段は十分にあり、「国立大学の財政支援が極端に減っている」とは言えない。

(1)運営費交付金が削減される一方、新たに配布される資金

年間1%の運営費交付金削減が進む一方で、新たに配布されている研究関連の資金もある。例えば、政府は「世界トップレベルの研究大学を支援する」ことを目的とした指定国立大学法人制度大学ファンドを創設し、

  • 指定国立大学法人制度(2017年開始):東京大学、京都大学、東北大学など11大学が指定を受け、競争力強化のための特別支援金を受け取る。

  • 10兆円規模の大学ファンド(2021年創設):2024年度から本格運用され、国際的な研究力強化のために運用益を大学に還元。

また、

  • 「成長分野を重点支援するプログラム」(政府主導の新規補助事業)では、AI・量子技術・再生医療などの分野に対して集中的な資金提供が行われている。

  • 「デジタル人材育成プログラム」では、データサイエンスやIT分野での教育強化のために特別補助金が設定されている。

(2)研究資金の配分の偏りと問題点

これらの新たな研究資金は確かに大学にとって重要な財源となるが、その配分には偏りがある。特に、

  • 指定国立大学(旧帝大・有力国立大)に集中しがちで、地方国立大学にはほとんど恩恵がない。

  • 競争的資金が増えることで、安定的な基盤研究の資金が不足する問題が指摘されている。

例えば、2023年度の科研費の採択率は約25%であり、多くの研究者が研究費を獲得できず苦労している。また、短期的な成果が求められる競争的資金の比重が増すことで、長期的な基礎研究の継続が難しくなっている。


4. 国立大学は経営努力をしてきたのか?

2004年の法人化により、国立大学は独立した経営主体となった。これにより、

  1. 収益を増やす努力

  2. コストを削減する努力

が求められたが、その実態はどうだったのか?

東京大学の決算書を分析してみる

(1)収益向上の努力——授業料収益・寄附金の増加

まず、法人化後、国立大学は収益向上のために授業料収入や寄附金を増やしてきたが、具体的な数字を見るとその努力がどの程度の成果を上げたかが分かる。

  • 授業料収益

    • 2004年度:13,566百万円

    • 2023年度:14,074百万円(+3.74%)

    • → 授業料の標準額は法人化以降も大きく変わらず、ほぼ横ばい。

  • 寄附金収益

    • 2004年度:5,866百万円

    • 2023年度:14,286百万円(+143.54%)

    • → 法人化後に寄附金の獲得努力が進み、約2.4倍に増加。

寄附金の大幅な増加は、東大のような大規模な国立大学では一定の成功を収めたが、地方国立大学では未だに収入の柱とはなり得ていない。

(2)支出の増加——教育研究費・管理費の増加

一方で、国立大学の支出も法人化以降増えている。

  • 教育経費と研究経費

    • 2004年度:33,294百万円

    • 2023年度:58,623百万円(+76.07%)

    • → 研究環境の充実が進められ、支出が大きく増加。

  • 役員人件費と教員人件費と職員人件費

    • 2004年度:79,141百万円

    • 2023年度:107,185百万円(+35.43%)

    • → 組織や人件費の見直しが行われているとは到底考えられない。

  • 一般管理費

    • 2004年度:5,057百万円

    • 2023年度:7,833百万円(+54.89%)

    • → 事務局の管理運営をスリム化する動きは見られない。

(3)収支のバランスは改善されたのか?

これらのデータを総合すると、

  • 寄附金の増加を見ると一定の努力は見られる

  • 支出項目の関しては大学の努力は感じられない。支出項目のメスは入っていない。

つまり、大学の財務規模は拡大したものの、「経営努力が収支バランスの改善に結びついたとは言えない」という現実が見えてくる。

(4)国立大学の経営努力は十分だったのか?

2004年の法人化以降、国立大学は財政の自立を求められたが、その成果には限界がある。

  • 授業料収入の増加はわずか3.74%で、収益の柱としては不十分。

  • 寄附金の増加は大きいが、主に東京大学や京都大学など一部の大学に偏る。

  • 支出(教育研究経費、人件費、一般管理費)は爆増しており、まずは支出の見直しをすべきと考える。

このような状況で「経営努力は十分であった」と言えるだろうか。

(5)授業料値上げは本当に必要なのか?

東京大学の財務データを見る限り、「財政難=授業料を3倍にするしかない」という結論には飛びつけない。

  • 運営費交付金は削減されつつも、依然として国から1兆円以上支給されている。

  • 寄附金収入の増加をさらに促進する余地がある。

  • 大学の経費、管理費など、コスト削減の余地がまだまだ残っていると言わざるを得ない。

したがって、授業料値上げの前に、さらなる経営努力や財務の透明性向上が求められるのではないか。


5. 「日本人には負担増、外国人留学生はVIP待遇」という矛盾

日本の大学における支援制度は、日本人学生と外国人留学生で大きな差がある。国立大学の授業料が3倍に引き上げられる可能性がある中で、日本人学生の負担が増大する一方、外国人留学生には手厚い支援が維持されている。この状況は、本当に公平と言えるのだろうか?

(1)日本人学生の奨学金と負担

日本人学生が大学進学時に受けられる支援の多くは「貸与型奨学金」、つまり実質的には「借金」である。

  • 日本学生支援機構(JASSO)の奨学金

    • 第一種奨学金(無利子)と第二種奨学金(有利子)がある。

    • 2023年度の奨学金利用者は約120万人。

    • 平均貸与額は月額3〜8万円(年間36〜96万円)

    • 卒業後に300万円以上の借金を抱えるケースが多い。

  • 給付型奨学金

    • 返済不要の奨学金もあるが、対象者は家計が厳しい学生に限られる。

    • 2023年度の支給対象は大学生全体の約15%。

(2)外国人留学生への支援制度

一方で、外国人留学生には多くの手厚い支援制度が用意されている。

  • 文部科学省の国費留学生制度

    • 授業料全額免除(年間50万円〜150万円相当)

    • 生活費支給(月額約12万円、年間144万円)

    • 渡航費支給(航空券代の補助)

    • 健康保険補助(医療費の軽減)

  • 地方自治体や大学独自の奨学金制度

    • 一部の自治体では、外国人留学生向けに生活費補助を支給。

    • 例えば東京都は、月額5万円の補助を実施。

  • 民間企業や財団の奨学金

    • 企業や財団が外国人留学生向けに支給する奨学金が多数。

    • 例:ロータリー財団、日本財団などが年間100万円以上を支給。

(3)なぜ外国人留学生は優遇されるのか?

外国人留学生への支援が充実している理由には、以下のような政府の方針がある。

  1. 国際化政策の推進:日本の大学を海外に開放し、国際的な評価を高める。

  2. 日本の労働力確保:留学生を卒業後に日本企業に就職させ、少子化対策の一環とする。

  3. 外交戦略:特定国の学生を優遇することで国際関係を強化する。

(4)不遇な扱いを受ける日本人学生

しかし、日本人学生にとっては「自分たちは高額な学費を払い、借金を背負うのに、外国人留学生は無料で学べる」という現状は不公平に映る。

  • 日本人学生は学費を3倍負担する可能性がある。

  • 外国人留学生の支援は継続され、実質的な学費ゼロが維持される。

この状況は、日本人学生の大学進学へのハードルを上げ、結果的に「学歴格差」「経済格差」の拡大につながる可能性がある。


6. まとめ——授業料値上げの前にすべきことがある

国立大学の授業料3倍案は、「財政難」が主な理由として挙げられている。しかし、これまで見てきたように、国立大学の財務状況にはまだ見直すべき点が多く、学生に負担を押し付ける前にやるべきことがある。

  • 大学財務の支出項目を十分精査してコストカットをすべき

  • 収益の多角化を推進し、寄付金・産学連携・国際資金調達を強化する。

  • 日本人学生の負担軽減策(給付型奨学金の拡充・学費分割制度の整備)を優先する。

  • 外国人留学生支援の見直しを行い、日本人学生との公平性を保つ。

このような改革を進めた上で、それでも財政難が続く場合に初めて「授業料値上げ」を議論するのが本来あるべき姿ではないだろうか。

学生の負担を最小限に抑えつつ、持続可能な大学経営を実現するために、今こそ根本的な改革が求められている。

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では、またの記事でお会いしましょう!
本当にありがとうね〜!

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