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工務店がこれから向き合わないといけない制度改正「4号特例縮小」をきっかけに考える、日本の建物価値向上の方法とは【後編】


みなさんこんにちは。

リブ・コンサルティングの篠原です。
前回に引き続き、2025年4月から始まる「4号特例縮小」が与える住宅業界への影響をきっかけに、日本の建築価値の低さとそれを改善していくための方法について解説する前後編シリーズの【後編】としてお送りしたいと考えております。
(前編をまだ見ていない方はこちらをご確認ください:工務店がこれから向き合わないといけない制度改正「4号特例縮小」をきっかけに考える、日本の建物価値向上の方法とは【前編】)

前編では、日本の建物価値の現状とその改変に着手している取り組み。そして、日本の建築物の目指すべき方向性をお伝えしました。

後編では、その方向性を実現していくために構築しなければいけない「土台」の部分について触れていきたいと思います。

日本の建物価値を上げるために取り組むべき”目先の課題”について触れていきますので、住宅・不動産業界テックの企業の方々には参考になる情報になっているかと思います。

4号特例が導入された背景について


欧米に比べると建物の価値が群を抜いて低い日本の建築物。
では、このスクラップ&ビルド文化を助長し、日本の建物の価値を下げてしまう流れの元凶になったとも言える「4号特例」は、そもそも何故導入される事となったのか。

日本の建築物の建物価値を向上させていくという大きな変革を行うためにも、この流れの始まりを知るところから今回は整理していきます。

「4号特例」とは、木造2階建てと木造平屋建ての2つの建築物を指し、これらを「4号建築物」と総じて呼びます。

この「4号建築物」に該当する建物に関しては、本来建築時には必ず必要である、建築確認と検査を「書類」の提出のみで省略し、建築の許可を卸すという仕組みの事を「4号特例」と言います。
(4号特例についての詳細は、「工務店がこれから向き合わないといけない制度改正「4号特例縮小」をきっかけに考える、日本の建物価値向上の方法とは【前編】」にてご確認ください)

4号特例制度が始まったのは、1983年(昭和58年)になります
この当時の日本は、バブル経済の始まる前の時期であり、経済的には安定した成長を続けていた事もあり、新築の戸建てやマンションを購入する事をステータスとしながら、低金利を活かして持家を保有する消費行動が非常に盛んに行われている時代でした。

実際にバブルが崩れる1990年(平成2年)代の初頭にかけてまでは、住宅の新築着工数は高い水準を保ち続けており、建築業界全体を見ても、とても大きな利益を生む事の出来るタイミングとして多くの建築会社が大量の住宅供給を行った時代だったと言えます。

参考:不動産流通近代化センター「中小不動産業の今後の事業展開のあり方報告書(2012)」

しかし、建築数が多くなるという事は、それだけ建築許可を下ろす行政側の負担が大きくなる事にも繋がります。

大量の建築の確認申請数に対して、監査をする側である建築行政職員の体制が限られており、人員が不足していたのが当時の状況になります。

そして、建築確認や完了検査が十分に実施できなかったことなどを背景に1983年に「4号特例制度」が導入されたというのが背景になります。

その後、1998年の建築基準法改正による建築確認・検査の民間開放等によって、建築確認・検査の実施率が格段に向上し続ける一方で、同制度を活用した多数の住宅において不適切な設計・工事監理が行われ、構造強度不足が明らかになる事案が断続的に発生したことなどを受け、制度の見直しが検討されてきました。

そして、今回、その制度の改正としてついに、「4号特例縮小」が行われる事になったのです。

つまり、この仕組みを導入した当時の日本では、とにかく建築需要が多かったために、「質」以上に「量」を確保する仕組みを優先する制度として導入したのが「4号特例」です。

この制度によって、住宅の「量」としては十分な供給を実現できましたが、その裏側としては、耐震性の欠如された「質」を欠いた住宅が大量に供給されてしまったという背景も存在しており、昨今の大型地震の頻発や当時に建てられた建築物の老朽化によって、それらの品質が問題となってきているのが現在の日本の実状であり、それらが日本の建物価値を低くしている根柢の原因として存在しています。

4号特例縮小で改善される日本の建物の質とは

それでは、「4号特例縮小」が導入される事で、改善される日本の建物の「質」とはどのようなものなのかについて触れていきたいと思います。

日本の建築物の基準として用いられるものとしては、「耐震基準」が存在します。この耐震基準は、大きく2つ存在しておりまして、「旧耐震基準」と「新耐震基準」が存在します。

基準の違いとしては、耐震を考える地震の大きさとして、中型地震(震度5程度)までを想定するか、大型地震(震度6強~7程度)までを想定するかの差であり、旧耐震基準では、大型地震までを想定せずに建築を進めていた実状があります。その基準を引き上げたのが、新耐震基準になります。

昨今の日本を考えても、「東日本大震災」「熊本地震」では最大震度7を記録しておりますので、それらの背景を考えても、大規模地震を想定し、倒壊しないレベルの建築物を建築していかないといけないため、設定された耐震の基準ですが、そもそもこの新耐震の基準が守られているか不透明なまま建築確認が降りてしまっていたのが、ここまでの日本という事です。

「量」を追求した結果、ずさんな管理となり「質」が落ちてしまっていたのですが、今回の建築基準法の改正に伴い、是正されていく事になります。

旧耐震基準

1950年~1981年5月31日までの建築確認実施の建築物

新耐震基準

1981年6月以降の建築確認実施の建築物

参考:国土交通省「住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題 関係」


4号特例縮小による現場(業務)への影響とは

今回の改正は、日本の建築物の耐震レベルの底上げに繋がるため、とてもいい改正だと思います。

日本の建築物の耐震性が上がっていく事で、長持ちする住宅になる。その活動の先には、前編でお伝えしたような、50年を超えていくような価値を維持する高耐久・高価値な日本の建築物になる未来が待っています。

しかし、目先の課題に目を向けていくと、このたびの「4号特例縮小」によって、建築現場やそれに精通する行政側の現場
への影響が少なからず発生します。

特に、影響が生じるポイントについてをまとめてみたいと思います。

行政の現場に及ぼす影響

行政の目線で考えていくと、建築確認や検査を行う数が単純に増えるというポイントを抑えておく必要があります。

4号特例を設定した1983年に比べると、建築の需要も落ちているという背景は存在しますが、ここに至るまで4号特例によって、確認や検査を行う必要のなかった建築物の全てに対して、確認や検査を行っていかないといけません。

増える作業に対して、どれだけの人を確保する事ができるのか。もしくは、どれだけ業務の効率化が図れるかといったところが今後の考えるべき課題になってきます。

工務店の現場に及ぼす影響

工務店の目線で考えると、今まで以上に厳格な構造チェック体制を敷く必要があります。今までは、書類をまとめ、提出するだけでよかった審査が厳しくなるため、審査を通過するための基準が正しく守れている建物であるかを早期に判定を出しながら業務を回していく必要があります。

例えば、社内で設計担当者が計算や書類をまとめている会社であれば、その計算精度を高め、必要書類をまとめなければいけないので、何も対策をとらないと、単純に設計の労働量が増してしまう事に繋がります。

また、構造計算を外部に委託している会社であれば、他社からも外注先への依頼が増える可能性が考えられるため、計算作業が今まで以上に込み合ってしまったりすることで、想定した期間内での構造計算が行えず、着工をずらさないといけなくなる等の経営に打撃を与える状況を招く可能性もあります。

このような状況に対応していくためには、効率的に構造計算ができる仕組みを構築したり、外注先に頼らずとも、内部で構造計算の体制を構築するなどが目先の課題として必要となってきます。


テック事業者ができること

それでは、このような状況に対して、テック事業者ができる事についてまとめていきたいと思います。

行政側を支援する

この4号特例縮小をきっかけに、日本の建物価値を向上する為にテック事業者ができることとしては、人手の足りない行政側の”人”に変わるリソースを”システムでの効率化”を用いて提供していく事です。

①工務店側から提出された書類の確認作業を効率化する

例えば、建築確認や検査を行うにあたっての、工務店側から”提出された”書類のチェックをAIを用いる事での自動確認機能を持たせるなどで人の代わりにシステムで対応する仕組みを提供する等が考えられます。人の手や頭を動かさずの内容の成否を判断する事ができれば、少ない人員でも多くの確認・検査を行う事ができます。

②工務店側とのデータ連携により、書類の確認作業を簡略化する

もしくは、”提出”という形で一度、アウトプット物として吐き出さずに、工務店側がまとめるデータと、行政側がチェックするデータを同一のデータベースにまとめる事で、自動確認ができる仕組みが構築できたりすると、さらに効率的な建築体制を構築する事ができるようになります。

工務店側を支援する

工務店側での支援を検討するのであれば、特に「設計」の作業担当者の目線で作業が簡略化できる仕組みの構築を検討していく必要があります。

ただでさえ、多忙とされている設計担当者にとって、特に会社の業績に直結する着工棟数の確保に影響を出すことができません。

ですので、今までの業績を維持しながら、今回の改正に対応するためには、「今までよりも長く働く」か「今までと作業量を変えずに、増えた業務に対応する」のどちらかしかありません。

時代背景を考えると増えた作業を労働時間でカバーするという考え方は通用しません。

そうすると、必然的に求められてくることはシステムを用いて、増えた業務量をカバーする仕組みづくりこそが最適だと言えます。

普段通りにプラン作成を進めれば、行政に提出するための構造計算を同時に行えたり、そのデータを引き継いで行政に申請を簡単に上げるなどの取り組みを行うことができれば、工務店に喜んで頂けるサポートツールとして選んで頂けるのではないでしょうか。

このように、建築業界にはとても大きな変化の波が訪れています。

その波を利用しながら、業界変革を起こしていく事で、新しいビジネスの商流を生み出していく事ができます。

波の特性や流れ方を、誰よりも早くつかみ、その流れに乗っていく事で目先の課題解決としても求めてもらいながら、その後の大きく変化する流れの中でも、存在感を増していくようなポジションを取る事ができるようになります。

例えば今回の4号特例縮小をきっかけとしながら、日本の建物価値を上げていくという大きな業界変革を起こしていく事の一翼を担うようなサポートが自社のサービスを通じて提供できたのであれば、今後の建築業界から求め続けられるサービスになる事ができるのです。


おわりに

いかがでいたでしょうか。

今回は、「4号特例縮小」という住宅業界にこれから影響を及ぼしてくるキーワードをきっかけに、日本の建物価値を上げていくための方向性を構築するための土台を【後編】としてまとめさせていただきました。

土台を構築する為に、解決していかないといけない課題はまだまだ山積みです。

しかし、この1つ1つの取り組みによる変化が、日本の建築価値を上げたり、その先に様々な不動産活用の未来が開けるようになってきます。

それらの未来を切り開くための目先の課題解決をしていくためにも、不動産テック事業者だからこそできる切口で、工務店や行政をサポートしていくことができると、自社のサービスの存在感が業界でもより大きな存在になっていくと思います。

皆様のサービス改善がこの記事によって、少しでもいい方向に進んでいくことができればと思います。

株式会社リブ・コンサルティング

住宅・不動産クロスイノベーション事業部

ディレクター

篠原健太


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