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工務店がこれから向き合わないといけない制度改正「4号特例縮小」をきっかけに考える、日本の建物価値向上の方法とは【前編】

みなさんこんにちは。
リブ・コンサルティングの篠原です。

本日は、2025年4月から始まる「4号特例縮小」が与える住宅業界への影響をきっかけに、日本の建築価値の低さとそれを改善していくための方法について解説していきたいと思います。
今回は、前後編の2部シリーズでお送りしたいと考えております。
 
前編に当たる今回では、日本の建物価値の現状とその改変に着手している取り組みを取り上げながら、日本の建築物の目指すべき方向性について触れていき、後編ではその方向性を実現していくために構築しなければいけない土台の部分について触れていきたいと思います。
 
これから大きく住宅業界に影響を与える「4号特例縮小」にまつわる内容になりますので、住宅・不動産業界テックの企業の方々には参考になる情報になっているかと思います。

日本の建物価値の現状について


まずは、現状の日本における建物価値の考え方について整理していきます。
日本では、一般的に建築する戸建ての建物価値は20年程度と言われており、20年以降には建物価値がほぼゼロになると言われております。
これは、実際の現場での感覚や一般的な経験則に基づいて広まっているものですが、この20年という期間に関しては、以下のような根拠から現場での査定算出方法として根付いていった事がそもそもの始まりになります。
 

①    戦後の日本の高度経済成長を支えた量供給の住宅建築


まず、日本の建築歴史の下支えとなる背景として抑えておかないといけない事は、日本は戦後の高度経済成長期には急速な都市化とともに新しい住宅が大量に必要とされたため、住宅の質以上に数を建築していかなければいけないという状態からの再編となった過去が存在します。
建築物の伝統や質を求める以上に、何よりも雨風をしのぐための居住空間の確保を必要とした時代が存在したことで短命な住宅が増加したところから日本の住宅文化がリスタートしています。
 

②    建築後の品質を担保する方法の欠如


以前の日本では、大工が手掛ける住宅の1邸1邸の品質を評価する基準もなければ方法もありませんでした。故に既存で建築されている建物の価値を推し量る方法が存在していませんでしたので、建物価値を算定する1つの基準として、 固定資産税の計算における償却期間を参考にしたといわれています。木造の住宅の場合、税制上の減価償却の期間は約20年~22年とされています。これが「20年」という期間の一因と言われています。
 

③    日本人に多い「新しいものを好む」という傾向の影響


日本には新しいものを好む文化が根付いています。古い住宅は、劣化しているため安全ではない。人が使っていたものに対する心理的な反発により受け付けないと言った考え方での中古品という物に対する文化が根付いていませんでした。親の代から受け継いできた家屋や品をメンテナンスしながら後世に受け継いでいく事を美学としている米国や欧州とは少し考え方に差があり、このあたりで中古流通やDIY文化の根付き方に差が出てしまったために、新築信仰が根深くなってしまったと言われています。
 
これらの要因から、日本における建物の価値は「20年」程度であるという考え方が蔓延し、欧米諸国に比べて、短命かつ低価値の住宅文化である「スクラップ&ビルド」を助長してしまったと言われております。
 

大手ハウスメーカーが取り組んでいる建物価値向上施策「スムストック」とは


ただし、このような短命かつ低価値の住宅文化を変えるべく動き出しているのが、日本の大手ハウスメーカーです。
特に、日本の大手ハウスメーカーの建築物は、地方工務店の建築物に比べると建築コストが高く、通常2,000~3,000万円台で地方工務店が建築できるところを、3,000~4,000万円台での建築予算での住宅を商品として扱っており、1ランクや2ランク上質な建築物を提供しているのが、ビジネスモデルとしての特徴です。その多くが、30年以上の初期保証と最大60年以上にわたる長期保証システムを用いた「安心感」を前面に推し出した営業手法を取り入れての差別化を図って、住宅販売をしております。
 
しかし、このような建築コストの高い建物を建てようと、今までの日本の住宅価格査定の考え方では、木造であれば20年前後。鉄骨住宅であれば30年前後で建築物の価値はゼロになってしまうという考え方の為、高額な建築コストを掛ければかけるほど、資産として残りにくくなり、後々に住宅の売却を行おうとしても、土地と建物を合わせた金額で組んでいた住宅ローンに対して、土地の価値しか残っていないという割に合わない売却査定となってしまい、一度、マイホームを建築してしまうと身動きが取れなくなってしまうような事態に陥っておりました。
 
このような事態を変えようと、大手ハウスメーカーの10社がグループで設立した一般社団法人 優良ストック住宅推進協議会では、「スムストック」という独自の査定方法による中古流通市場を作り上げる事で、高品質な新築住宅として建築された建物の価値を50年まで残すことができるという査定システムを作り上げる事に成功しています。
 
 
 

参照:優良ストック住宅推進協議会 HP   
参照:優良ストック住宅推進協議会 HP   


参照:優良ストック住宅推進協議会活動報告


「スムストック」とは、”一般社団法人 優良ストック住宅推進協議会”が展開している独自の中古流通市場を構築するための売却査定システムです。この協議会に参画する事に対して、一定の条件を設け、その条件をクリアする事により参画メーカーの「建物の品質」を第三者的に担保する事を1つの基軸にしています。
さらに、スムストックの認定を受けて、査定・売却を行う建物には、再保証を付け加えて売却を行います。こうする事で、第三者的な証明と保証という形で”安全性”を可視化する事で、一般的な建築物と比較した時に、長期の建物価値を有する住宅であると差別化し、市場における50年にも及ぶ長い建物価値を実現するという考え方になっています。
 
この協議会に参画するには、以下の3つの要件を満たす事が条件とされています。

①    住宅履歴データベースの保有
②    50年以上のメンテンナンスプログラムの構築
③    新耐震基準レベルの耐震性の保持

参照:優良ストック住宅推進協議会 HP


 
つまり、これら3つの要素を満たすことができれば、地場の工務店であっても大手ハウスメーカーと同様に50年以上の建物価値を実現する事ができる事に繋がりますが、ここに至るまではなかなか実現できていなかったのが実情になります。
 

地場工務店が手掛ける建物の価値を向上させることへのきっかけとなる「4号特例縮小」とは


しかし、ここにきて地場の工務店が建築する建築物に大きな影響を与える制度改定である「4号特例縮小」が、2025年4月より行われることが決まりました。
この制度を解説する上で、まず抑えておきたいのが従来の日本の建築基準法の基本です。
日本における建物の建築時には、建築基準に満たされている建物であるかを”構造関係規定”と呼ばれる仕様規定をまとめた図書として提出し、第三者機関の”建築確認・検査”を通じて判断し、許可を受けられれば建築が可能になるという制度が基本となっています。
しかし、”木造2階建ての建物”と”木造平屋建ての建物”に関してはこれに限らずで、これらは「4号建築物」と呼ばれており、「4号建築物」に関しては、”建築確認・検査”を行わずに、書類の提出のみで建築が許可されるという審査省略制度の対象となっていました。
つまり第三者のチェックなくして、書類の提出のみで建築をすることが可能であるという制度になっていたのです。これを通称「4号特例」と言います。
もちろん考え方の基本としては、あくまでも、「各会社の建築士が仕様規定を計算して、問題ないと確認している」という事が前提となっている制度であり、そこで品質を担保するという事が考え方のベースになっておりましたが、この「4号特例」による第三者チェックが入らない事が招いている現実としては、建築基準の仕様規定を満たしていない建物が数多く存在し、耐震診断時などにその実態が明るみに出ている建築物が後を絶たないというのが実状として存在します。
これらの事から、従来の地方工務店の建築物では、スムストックの認定基準にあるような「新耐震基準レベルの耐震性の保持」を満たしている事の証明ができない1つの原因であったと言えます。
 
しかし、今後はこれらの内容が是正される事となります。それが今回皆様にお伝えしたい「4号特例縮小」という制度改正です。
 


参照:国土交通省 住宅局 建築指導課


具体的には、4号建築物という区分・名称自体がなくなり、木造2階建て建築と木造平屋(延べ床面積200㎡以上)は「新2号建築物」とされ、全ての地域での「新2号建築物」の建築時には”建築確認・検査”が必要になり、構造規定の審査省略制度の対象外となる制度です。
 
つまり、2025年4月以降は仕様規定を満たすことを証明する書類を提出し、“建築確認・検査”といった第三者からの審査を受ける必要があるという事です。
これによって、2025年4月以降に建築される木造2階建てと木造平屋建て(延床面積200㎡超)に関しては、日本の新耐震基準の水準であるかどうかを第三者機関の確認を経て、建築されることになり、住宅性能の担保が行われるのです。
 
この制度改変については、見方を変えると、地場工務店の建築物がスムストックの条件の1つと呼ばれる「新耐震基準レベルの耐震性の保持」は満たされる事に繋がる、大きな変化と言えるでしょう。
 

地場工務店が手掛ける建築物の建物価値を向上させるためにテック企業ができることとは


では、「新耐震基準レベルの耐震性の保持」の証明ができるようになる地場工務店の建築物をスムストックと同じような制度を用いながら、50年以上の建物価値に繋げていくためには、さらに何をしていけばいいかを不動産テック企業の目線に合わせていきながら考えていきたいと思います。


①    住宅履歴データベースの保有に貢献する


スムストックの認定条件を参考にすると、今までどのような修繕をしてきたのか。それが分かる事でメンテナンスの計画などにも役立つため、新築時の図書・これまでのリフォーム、メンテナンス情報などが管理・蓄積されていることを条件としています。
地場の工務店の建築物やリフォーム時の情報も同様に管理ができていればいいのですが、日本最大のアナログマーケットと言われている建築業界ではそれが難しいのが現状です。ITリテラシーの低さや自社での環境整備コストの捻出が難しい等の様々な弊害があり、普及されていなかった取り組みですが、自社で開発コストを捻出することなく、部分的なDX化を行うことのできるSaaSサービスの介入がある事で、変革を行うことができるポイントになります。
 

②    50年以上のメンテナンスプログラムの構築のために貢献する


長く住み続ける事ができる住宅である事こそ、長い建物価値を維持するためには必要不可欠です。それを支える建築後の50年以上の長期点検制度・メンテナンスプログラムがあり、計画通りの点検・修繕を実施している事や査定時点健を実施し、基準を超える劣化事象がないことを確認していることがスムストックにおける条件の1つとなっております。これを参考にすると、この制度を地場の工務店で行う上で、最も障壁となり得るのは、建築後の50年の建物保証をするための会社としての企業体力の証明かと思います。
長期間の建物保証を行うという事は、少なくとも保証期間以上の期間は、工務店が存続していないと成り立ちません。もしくは万が一の時にその工務店に変わって建物の保証を引き継いで切れる環境が整っていないと、メンテナンスプログラムを作成しても、絵にかいた餅になってしまいます。
地場工務店では、大手ハウスメーカーと比較すると、企業体力として50年以上の企業の存続を証明する事が難しく、そこが大手のハウスメーカーとの一番の差になります。しかし、1社単体では難しいかもしれないですが、複数社いればどうでしょうか。
地場のネットワークを駆使して、同県内での工務店同士が手を取り合い、支え合う事で、万が一が起きた際にお互いにフォローし合える体制作りをしていく事ができれば、地方工務店でも長期の保証システムを実現していくことができます。
DX化の波や地方工務店が生き抜くための協業姿勢の普及が少しずつ根付き始めてきている住宅業界の中では、システムや新しい取り組みを受け入れる考え方も少しずつ浸透され始めていると言っても過言ではありません。
テックの事業者がサポートしながら、システムを通じて各工務店間でお互いを支え合うために、”新築”や”リフォーム”のデータの保存や共有といった正確な建築データの情報連携とが行われている事を形にしていく事で、これらの取り組みは十分実現していくことができると言えます。


このように、工務店にとって、大変革となる制度改定を逆手にとりながら、不動産テック企業が工務店をサポートする事で、日本の多くの工務店が手掛ける建物の価値を向上していく事が実現する事もできます。
工務店単体ではなかなかプラスに転換することが難しい施策も、不動産テックサービスとしての介入や、そのサービスを介しながらの工務店同士の連携強化といった、点を線に結んでいくような流れを構築していく事で、工務店や住宅会社の経営者から喜ばれる業界特化型のバーティカルSaasとしての存在感を増していく事ができると思います。
 

おわりに


 
いかがでいたでしょうか。
今回は、「4号特例縮小」という住宅業界にこれから影響を及ぼしてくるキーワードをきっかけに、日本の建物価値を上げていくための方向性を【前編】としてまとめさせていただきました。
自社のサービスを差別化していく上で、業界の変化をいち早く抑え、その変化の先に待ち受けている課題に目を向けておく事はかなり有効な手法です。
 
 
【後編】では、この方向性を実現していくために行っていかないといけない土台となる取り組みやそれに向けて不動産テック事業者が何をしていく事ができるかについてまとめていきたいと思います。
 
皆様のサービス改善がこの記事によって、少しでもいい方向に進んでいくことができればと思います。
 
 
株式会社リブ・コンサルティング
住宅・不動産クロスイノベーション事業部
ディレクター
篠原健太


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