オフィス賃貸仲介経験者が語る現場のペインとテック企業の介在余地とは?
みなさんこんにちは。
リブコンサルティングの篠原です。
本日は、オフィス賃貸仲介営業の経験者が語る、現場のペインとテック企業の介在について話したいと思います。
BtoBのマーケットでもプレーヤーが限られ、なかなか閉鎖的な業界の実務やどういったペインを抱えているかなどを具体的にお伝えいたしますので、住宅・不動産業界テックの企業の方々には参考になる情報になるかと思います。
1.オフィス賃貸仲介業とは
オフィスを移転したい企業(以下、テナント)とオフィスビルや商業施設などの物件の空き区画を貸したい貸主(以下、ビルオーナー)とを仲介する仕事です。物件の賃貸借契約を締結した際に、仲介手数料として1ヶ月分消費税を受領します。
商慣行として、片手取引、両手取引といわれる手数料のいただき方があり、どちらか一方からのみ手数料をいただく際は片手取引、テナント、オーナーの両方からそれぞれ手数料をいただく際は、両手取引といいます。
宅建業法上、賃貸仲介の仲介手数料の上限は1ヶ月+消費税との規定があるため、その範囲内で仲介手数料を契約時に請求します。
ただ厳密にいうと賃借の媒介契約とは関係のない名目で、オーナー側にご請求するケースもあります。その際は実務の伴った範囲で、広告宣伝費や業務委託料などの名目で賃料の1ヶ月分+消費税をいただきます。
・登場人物
テナント:
業種は問わず、オフィスビルを利用される企業の社長、担当役員、総務部長、個人事業主(士業関連)など
ビルオーナー:
デベロッパーやオフィス事業を行っている不動産部門
○○ビル管理、△ビルマネジメントなど管理系のリーシング担当
物件の管理委託を受けている地元の不動産会社など
・仲介営業の業務内容
仲介営業にとっては、テナント側もビル側もどちらもお客様にあたります。状況に応じてどのような業務が発生するかを簡単に触れていきます。
―テナント側への業務
テナント側へは検討状況に応じて打ち出していく内容を変えて接点を取っていきます。
検討そもそもしていない時期から検討初期までは、関係性構築と顧客理解を主にした活動となり3ヶ月に1回くらいの頻度で状況確認の訪問を行います。
検討中期については、具体的に物件の提案を行い、内見をし始めている時期をさしています。どの物件を見に行こうかなどを検討する時期になるため、競合排除の意味合いで、内見の予定を取得することが短期的なゴールとなります。オフィス仲介業の商慣行として、その企業を内見に連れてきた仲介会社がその物件との交渉権を得るということがあるため、できる限り、検討初期~中期にかけて、競合排除の意味合いもかねて、検討の可能性がある物件を抑えに行く(内見を取得する)ということが強くなってきます。
検討後期は具体的に候補物件も決まってからの時期で、その物件に対しての諸条件の交渉や契約書文言の調整などの時期をさしています。テナント側とビル側との諸条件の調整や、契約までのスケジュール調整、契約書の法務チェック、社内稟議のスケジュールの確認など、契約締結に向けて仲介営業としての動きは調整業務を行っていきます。
―ビルオーナー側への業務
仲介の武器は情報の鮮度であるため、物件情報の取得のためにビル側へも日々関係性構築を行います。月1回の定例を基本として、ビル側の募集物件情報の更新、こちらが抱えている個別テナントの案件相談を行い、ギブとして他社の移転情報や賃料相場などの情報を交換します。またテナント側の具体的な検討案件が出た際には、物件の魅力を教えていただいたり、懸念点などを事前に相談することで条件面での折り合いを見つけたりと、一緒にこのテナントを誘致するためには何が必要かのディスカッションを行います。
契約実績があり、関係性が良好なビルオーナーからは、そういったディスカッションを通じて、誰がどの物件を検討しているかによっては一般的に公開している条件よりも踏み込んだ条件提示をもらえるケースもあります。
・オフィス移転の検討スケジュール
多くのビルは半年前の解約予告であるため、移転を検討し始めるのは、必要な面積にもよりますが、解約の10~12ヶ月程度前から動き始めることが多いです。
・オフィス賃貸仲介業界の強い会社
成長している会社や安定して売り上げを上げている強い会社は、テナント側の意思決定者に適切につながるルートがあるか、ビル側との関係性から、物件情報を取得できているかの特徴があります。例で挙げると下記のような内容です。
・ルート:
業界:ITベンチャー界隈での集まりに顔を出し、社長間で紹介がもらえる
業種:全国に複数拠点があり一定人員配置が必要な業種の本社とのコネクションがある
海外:海外展開をしており日本法人の立ち上げの際に依頼される
・物件情報
エリア:全国要都市のオフィス物件の情報を取得するルートがある
種別:商圏にある、オフィス、商業、住居などすべての種別の情報を取得している
特定情報:オフィスや店舗などの居ぬき物件情報に特化している
・オフィス賃貸仲介業界のペイン
仲介業界のペインは先ほど挙げた強会社の特徴の半面で、テナント側との適切なルートを築けるか、ビル側から独自性の高い情報を取得できるかのどちらかになります。組織として推進している会社もありますが、関係性に基づいたルートや情報源になるため、基本的に属人性が高く、売れる営業は常に売れ続けられるし、売れない営業はずっとくすぶっているという状況が発生します。短期的には大きな案件を扱い、契約するケースもありますが、中長期的に見るとどちらかの強みに張ってく必要があります。
① 顧客の探索(リード獲得)
―新規企業の接点創出
接点の創出方法のメインがアウトバウンドコールに頼っています。1社ずつ調べてどのような企業か、誰に架電をするのが適当かなどを地道に行っていきます。営業が自らする場合と外注や代行、コールセンターのように機能を切り出して行うケースもあります。自社で不動産サイトを作成しインバウンドでの反響獲得も行いますが、なかなか狙って一定規模以上のお客様からの問い合わせを獲得することができていないことが多いです。
―決裁者との接触
アウトバウンドコールで接点を作っていきますが、よほど受付突破力が強い人か、秀逸なトークスクリプトが組み込まれている以外は、意思決定者に直接接点が取れるわけではなく、テナント側での担当者レイヤーと接触を行いうことがほとんどです。後に決裁者まで上っていくために、提案方法の工夫や、紹介ルートがいないかなど新規での決裁者アプローチは常に検討しています。
② 物件情報の取得・整理
―ビルオーナーからの物件情報の取得
ビルオーナーとの関係性構築が非常にハードルで、過去の実績がある仲介会社であれば、関係性の中で定例MTGなどを行い、情報をもらえることがありますが、そうでない仲介会社だと具体的な案件を出して情報提供を行うメリットを感じてもらうことが必要です。ビル側としては、入居時期やテナント属性により賃料が変わるため入居テナントへの情報逆流を嫌い、情報を出していく先は信頼できる先に限られているケースがあります。少しでも他社と違う情報を取得できるかという点で、ビル側に伝えるメリットがあるかまたその情報を伝えても逆流の心配がないかという観点をクリアしていく必要があります。
―取得した物件情報の管理と資料化
取得した情報の形式は多種にわたり、リスト化されてデータとして取得できた際にはそこまで困りませんが、紙、FAX、チラシなど色々な形式で取得するケースがあります。またその情報をテナント側へ提案する際に使える形で取り出せるようにする必要があります。一般的には自社でシステムを構築しているケースなどはありますが、少なくとも下記の情報は網羅的に押さえておきたいです。
(ア) 物件自体の情報(築年数、EV台数、空調システム、グリッド天井、OAフロア、入居テナントなど)
(イ) 募集区画の情報(区画図、賃貸面積、賃貸条件、過去の募集条件など)
(ウ) 周辺環境の情報(交通情報、ランチ事情など)
大手仲介会社であれば、自社の物件管理ツールが機能しており、各営業が情報を取得した際の共有ルールや自社ツールへの取り込みの方法などが決まっていますが、中小や起業間際の会社の場合、基本的にそういったツールはないため、物件をリスト化して提案ではなく、テナント側に合わせて、特定のビルオーナーからの情報を頼りに、数物件だけを取り上げて資料を作成し提案を行っています。
2.テック企業の介在について
①リード(テナント)の発掘手段がアナログ
手作業で対象企業ピックアップし、その企業詳細を調べている現状があります。中期経営計画や決算書、ニュースリリースなどから事業計画の伸びや人員計画、資金調達などの情報を取得し、そこからアウトバウンドで実施しています。アタック先企業のリスト化や事前情報の収集、リード発掘のためのマーケティング施策など、まだまだ未着手な部分が多いです。
②物件情報のオープン化・シームレスな流通網の構築
募集物件の情報開示はビルオーナーと仲介会社とで対面して行うクローズドな状態で、入居中のテナントに募集賃料を逆流させたくないという心理から、なかなか公開が進んでいない領域です。テナントとしては情報がオープンになり、シームレスな流通網が構築されることで、閉じられた関係性の中での情報の非対称性から生まれる情報格差でしか価値発揮できない企業は価値発揮領域を変える必要が出てきます。
③マッチング機能
物件情報の提案は物件情報を網羅的に出したり、1つの物件だけで提案したりと属人的ではありますが、提案する方法は詰まる所、エリア×建物×金額のうち、どの変数を変えるかだと考えます。この変数のバランスをもとに、どのような課題を解決できるか、どのような働き方ができるかなどのストーリーを組み立てていきます。実際対象となる物件もピックアップでも時間がかかるものなので、そういったマッチング機能や、テナントとビル側をつなぐプラットフォーム構築に介在余地がありそうです。
おわりに
いかがでいたでしょうか。
今回は、オフィス賃貸仲介業にフォーカスして、仲介業者の実務と抱えているペインについて話をしてみました。
自社のサービスを差別化していく上で、業界の経営者が気になっているが、対応に手が回らなそうなポイントを抑えておくのはかなり有効な手法です。
皆様のサービス改善がこの記事によって、少しでもいい方向に進んでいくことができればと思います。
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