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くまちゃん。ウルティマオンライン戦士編

寒いところにいる、白いクマの姿をしたぬいぐるみは、幼馴染が、家を出る時くれた。
赤いハートを抱えた、かわいいクマはふんわりとしていて、夜にぎゅっとして眠ると、悪夢を見ない。

でも…。最近、このぬいぐるみを見るたびに、家に帰りたくなる。
さらさらの粉雪が降る、ムーングロウが懐かしくてたまらなくなるのだ。
かといって、クマなしで寝たら、悪夢を見て、目が覚めやすい。
ダンジョンで怖い思いをした日なんか、特に。

「どうしたんです?」
朝食の席で先生に訊かれた。

「眠れなかったんですか」

うっ。先生鋭い。その通りです。
「何があったか知りませんが、ひとりで内に持っておくのは体に良くないですよ、こういうことは話してしまったほうがいいんです」

そっと先生の方をうかがってみる。
これはだめだな、本気っぽい。
こういう時の先生に逆らうのは難しい。大体迫力がありすぎ。

クマのぬいぐるみの話を打ち明けたら、絶対笑われると思ったのに、先生は意外と笑わずに言った。
「白くないやつが、どっかにあった気がしますよ、探して部屋に届けときます」
先生と、ぬいぐるみ…。なんだか無理がある組み合わせのような気がしたけれども、お金持ちというのは、いろんなものを持っているだろうから…その一つにあってもおかしくは、ないか。

***
そんなわけで、夜帰ったら、茶色い、ずんぐりしたクマがベッドの上に座っていた。ふかふかした、結構毛足の長いクマちゃんで、ちょっとシロクマより大きめだったけれど、ぎゅっとして眠ったら、朝までぐっすり、悪夢は見なかった。

「ニュービー! 見てくれが悪いな!」
なにごと!!!
目が覚めた。今の声、誰??

「外に出んなよ」

えええ!クマのぬいぐるみがしゃべった!!

「せんせーー!!!これ、生きて、しゃべっ」
先生は、動揺した私を手で止めて、
「大丈夫、それはオートマタの一種ですからね、生きてるんじゃないですよ」
「だって、先生これ、私のことニュービー!って!見てくれが悪いって!」

「おや、意外と人を見てるんですね、あっはっはっは!
で、眠れたんですか?」

「あ…それは、はい」
「ならよかった」

先生は、もう一度、これは、そういう装置が入っている人形で、誰にでも同じセリフをいくつか話すのだと教えてくれた。
「ニュービー脱却に、午後からダンジョンですかねえ」

はぁい…っていうことは、水汲みと薪割りは午前中に終わらせないといけない。
せっせと作業するしかないな。
****
夕食の席で、先生が、あのクマには背中にスイッチがあって、それを押すとしゃべらなくなると教えてくれた。

いつか…ここを離れる時。私はこのクマをみて、この部屋を懐かしく思い出すのだろうか。
「外に出んなよ!」
「ニュービー!」
今は、まだ、ここが私の場所。

もこもこ、ふわふわで、毛足の長いくまちゃん。
抱きしめるとラベンダーの香りがした。

**************
注:
クマのセリフの直訳、それから意味を取っての訳はこう。
It smells in here
(なんか臭いな(暗にお前、臭いぞ、と)

Any chance you can wrap me back and we could try this again with someone else?
包み直して送り返してくれない?(お前のところには居たくないから送り返せ)

you should stay inside today. It is for the better.
外に出ない方がいい(世のため、人のため、外に出てくるな)

Noob
ニュービー(おまえ雑魚だな)
you do not look very good
見かけがよくないな(ひどい見てくれだ)

このクマの英語名はinsulting doll、罵倒人形。
つまり、意地悪というより罵倒なんですね。

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