李琴峰の2023年振り返り
2023年も終わりを迎えようとしていますね。皆さんは元気に生きていらっしゃいますか?
2023年は色々なことが大きく動いた1年だったと思います。悲しいこともあれば、嬉しいこともあります。絶望に浸るような理不尽なことも起きたが、曇り空の向こうから一筋の光明が見えるような希望を抱いた瞬間もありました。
社会的には、LGBT理解増進法が改悪に次ぐ改悪の末、与党の賛成多数で通りました。この法律は当事者不在どころか、議論の最中には差別主義者が国会に招かれて堂々と差別発言をまき散らすような最悪な事態まで起きました。その過程で傷つき、絶望にまみれた方々もたくさんいたと思いますが、しかし何がどうであれ、「性的指向」と「ジェンダーアイデンティティ」という2語が、初めて日本の法律に刻み込まれました。このことを希望に取ってもいいのではないでしょうか。
LGBT理解増進法をめぐる希望と絶望を、私は長編エッセイ「虹に彩られる季節(前編+後編)」(来年単行本化するかもしれません)の中で記録しました。少しだけ引用しましょう。
まるでこの文章に呼応するかのように、今年も後半になると最高裁から「性同一性障害特例法」に関する違憲判断が出ました。これは日本の人権史に刻まれる重要な判断に違いありません。
そう、私たちが人権と平等と民主主義といった基本理念を共有し、堅持し続ける限り、時代の向かうべき方向はおおむね定まっています。
何も恐れる必要はない。私たちは歴史の正しい側に立っているのです。
もちろん、作用と反作用の法則により、バックラッシュはより一層激化したのでしょう。2018年に端を発した、日本における反トランス・反LGBTのバックラッシュはいよいよネット上に留まらなくなりました。国会での差別発言もさることながら、街中のヘイトデモや、大手出版社のヘイト本出版計画(のちに中止)、保守系メディアによるみっともない差別擁護記事など、その一つひとつが耐えがたく当事者の胸を刺したのでしょう。
しかし、絶望に飲まれる時に、その裏にある希望も見続けましょう。
バックラッシュが激しくなったのは、差別主義者どもが焦っているからです。差別主義者は、弱者を踏みつけて差別する自由を奪われるのを、何よりも恐れているのです。だから激しく反発するのです。あの手この手で、愚かで非科学的で非論理的な屁理屈を必死にこねくり回してまで、彼らは自分たちの「差別する自由」を何とか守ろうとしています。彼らの言説と主張の変化を何年も観察し続けると、それがはっきりと、手に取るように分かるのです。
ヘイトデモは、差別主義者の断末魔なのです。
私たちにできることは、今起きていることをしっかり記憶し、記録することです。すべてが過ぎ去った後に、誰が差別に加担し、弱者を蹂躙していたのか、誰が人権を守ろうとして立ち上がっていたのか、誰がアニタ・ブライアントの役で、誰がハーヴェイ・ミルクの役だったのか――それらを記憶し、記録し、後世に伝えることで、歴史の法廷にしかるべき裁きを下させる。これこそが同時代に生きる我々にできることだと思います。
2023年の終盤は、自民党安倍派の裏金問題が大きな波紋を呼びました。統一教会問題、歴史的円安、物価上昇、増税、そして裏金問題――安倍自民党と安倍長期政権がどれだけ日本の政治と経済を壊していたのか、ここに来て如実に表れていると思います。保守派と差別主義者どもはよく「在日特権」やら「LGBT利権」やらとありもしない空想上の利権をでっちあげて騒ぎまわるが、この国で最大の特権と利権を握っているのは自民党保守派のような権力者であることが、裏金問題からでもよく分かります。
こうした社会的な出来事とは別に、個人的なレベルで、2023年は私にとって実り豊かな1年でした。2月には久しぶりの海外旅行で、シドニーのマルディ・グラ(ワールド・プライド)に参加しました。5月には『星月夜』の中国語版のプロモーションで、台湾に行きました。さらには8月から10月までは「International Writing Program」というライター・イン・レジデンスのプログラムに参加し、アメリカに滞在していました。
前述の通り、「シドニー・マルディ・グラ紀行」はすでに作品化しました。「International Writing Program」の経験や見聞は、来年ゆっくり作品化していきたいと考えております。
もちろん、いいことばかりではありません。私は2021年以来、ネット上で各方面から下劣な連中から耐えがたい誹謗中傷・名誉毀損を受けております。最初こそ我慢しようとしましたが、しかし放っておくと、連中はどんどんエスカレートしていきました。それで熟考の末、提訴に踏み切りました。訴訟費用や弁護士費用は膨大な額になりますが、そのためのカンパも行っております。
今日(12月26日)は私の誕生日です。例年はバースデー・ドネーションをやっていますが、今年はそれをやりません。バースデー・ドネーションの代わりに、今年は裁判カンパを引き続き募ります。どうか力になってください。
裁判はとにかく時間がかかりますので、現在でも進行中です。卑劣な誹謗中傷者どもによってつけられた心の傷は決して完全には癒えないでしょうが、せめて司法による正義が欲しいところです。
どれだけ時間がかかっても、私は自分の手で正義を取り戻します。作家の執念をなめないことです。
そのために、どうか、力になってください。
長くなりましたが、ともかく2023年、お世話になりました&お疲れさまでした。
来年も何とぞ引き続き、李琴峰を応援していただければ幸いです。
以下、李琴峰の2023年の仕事一覧です。
【出版した書籍】
【連載中のもの】
エッセイ『日本語からの祝福、日本語への祝福』(『一冊の本』2022年5月号から連載中)
エッセイ「思索のノート:虹の筆で彩って」(『信濃毎日新聞』2023年4月から連載中)
エッセイ「李琴峰の忘憂清楽」(日本棋院『月刊碁ワールド』2024年12月号から連載中)
【発表したエッセイ・書評・評論など】
※連載を除く
「成長物語、喪失と祝福と」(共同通信、『君たちはどう生きるか』映画評)
「清らかで危うい関係性」(共同通信、王谷晶『君の六月は凍る』書評))