ホクロ
胸のあいだに黒子がいる。それは胡椒みたい。確か8歳くらいのときに突然現れた。
少しぽっこりしている。初めは嫌だったが、もうこれはわたしの一部、取り除いたら私は私じゃないきがしてしまう。
19歳のとき、映画「スワロウテイル 」を観た。お茶目でセクシーなcharaが魅力的で仕方ない。胸のあいだにアゲハのタトゥーを入れることに憧れた。
黒子を絵柄にうまく取り入れられるかなとか、もし入れたら胸のあいた服をたくさん買おうとか、MRIを受けたら黒子と一緒に焼けてしまいそうだなとかばかなことを考えた。
その黒子を可愛がってくれた人たちは元気かしら。
右の二の腕の内側に、3つの黒子がある。それは線で繋げたら正三角形になるのだ。
二十歳を過ぎると腕の黒子とか、赤いポツポツが顔を出す。膝の裏とか鼻の頭とか、数え切れないほど黒子が増えた。
オリオン座みたいなホクロズは、見つけた瞬間からお気に入り。ロマンチックだもの。
お風呂でホクロズを眺める。規則正しい三角形が見えてくるのが好き。こんなかわいい黒子がいるんだよ、いいでしょ、とみんなに見せびらかしたくなるのだ。
自分のおでこの形が気に入らない、正しく並ばない歯も。夜な夜な泣けば次の日はひどくブサイクだ。妊娠してないのに太腿に妊娠線があるし、この前久しぶりに走ると背中の肉が揺れることに気づいた。
顔にはシミが増え、新たな黒子が顔を出し、目力は失われてゆくだろう。だけどもできる限り私は私がつくる身体の変化を愛して生きたいのだ。
なんてことを、吉本ばななの「体は全部知っている」を読んで思うのである。
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