読書記録『私たちの世代は』
「一万円選書」で選んでいただいた10冊のうちの1冊。
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作品について
構成について
2人の主人公「冴」と「心晴」の子ども時代と就活生時代をランダムに(もしかして何か法則があった?)行ったり来たりしながら語られるので、状況が繋がらなくなり「今どっちの話??」「いつの話??」と初めは混乱しました。後半になってくると、前半に散りばめられた欠片がちょっとずつはまってきて、一続きの物語として一気に動き出しました。
あらすじ紹介に載っている「明日が怖いものではなく楽しみになったのは、あの日からだよ」というセリフ。
気にしながら読み進めていましたが、誰がどんなシチュエーションで発した言葉なのかが分かったときは、胸がぎゅっとなりました。
もしあの日々がなかったら
パンデミックによっていろんな物事が制限され、息苦しかったあの日々。
日常生活すらままならなくなり、大変な思いをされた方々は多かったと思います。大人でさえ身動き取れずに苦しい状況に追いやられていたのに、そんななか子どもたちに与えた影響はいかばかりか。
テレビでは毎日悲しいニュースが流れ、出口の見えないトンネルかもしくは未踏の洞窟に迷い込んだかのような不安感がありました。
しかしそんな状況だったからこそ、人々は策を練り技術は進歩し、新たなサービスがたくさん生み出されました。
あの日々がなければ生まれなかったかもしれない技術。出逢えなかったかもしれない人たち。
感染症がなかったら、冴は清塚君に出逢えなかったし、清塚君も苦しい生活に光を見出せなかったかもしれません。
心晴にとっても分散投稿の期間の「手紙ちゃん」とのやりとりは、平常の生活の中では起こり得なかったかけがえのない時間です。ですが心晴は、感染症にまつわる出来事がきっかけで不登校になってしまいます。
どっちが良くてどっちが悪かったか、決めることはとても難しい気がします。
魅力的な登場人物
MVPは冴のお母さんでした。
児童養護施設で育ち、冴が1歳の時に夫を亡くし、「夜の仕事」をしながら懸命に冴を育てる。どれだけ大変だったか想像に難くありません。それでも冴がいることでとても幸せだと、人生って最高だと常に前向きで、ご近所さんにも親切にし、誰もやりたがらない面倒なことを率先して行う。
なんて素晴らしい人間なんだとすぐにファンになりました。
それから蒼葉。いいやつ過ぎました。聡明で情に熱く優しい。「ずっと冴を守ってくれてありがとう」と、親でもないのに感謝したくなります。
あんな境遇に生まれていなかったら、何にでもなれてどこへでも行けたはずなのにと、社会を恨んでしまったりもしました。
主人公の冴と心晴もとても魅力的です。
冴は、蒼葉やご近所さんの助けも借りて暗闇の中から抜け出し、お母さん譲りの前向きさで人生を切り開いていきます。冴の夢は小学校の先生になることですが、冴みたいな人が担任だったら、私の人生も大きく違っていただろうと思います。
心晴は、長い引きこもり生活だったにも関わらず、賢く洞察力があり、物怖じせずに自分の意見を述べられる強さがある。でも繊細で、不登校になるきっかけのシーンでは彼女の無念さが伝わってきました。
良くも悪くも思った通りにはいかない
慣れは怖くもあり、一方で生きていく上では大切なもの。絶望的に思えても、慣れることによって何とか乗り越えていけるのではないでしょうか。
何度も繰り返し見るほど好きなドラマのなかで「どんなに失敗しても、なりたいものになれなくても、人生はそこで終わりじゃない。どこからでもまた始めることができる。」というセリフがあります。
この作品を読んでいてこのセリフがはまりました。
冴も心晴もほかの人たちも、とても苦しんで光を見失ったかもしれません。でもそこで人生が終わることはなく、暗闇に落ちたからこそ出逢えた人、得られたものは確かにあった。そしてそこからまた始めることができたのです。
おわりに
人の弱さや強さ、温かさや残酷さ、もどかしさ、人間らしいさまざまな面が優しく鮮やかに描かれていて、あの頃について思い出したこと、今になって考えさせられたことがたくさんありました。
またひとつ、すてきな作品に出逢うことができました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。