「誰ひとり取り残さない~罪を犯した少年のリ・スタートを支援する輪を横浜から」プロジェクト
【写真説明】少年が生まれたばかりの妹の世話をしながら、実母・義父と野宿をしていた横浜市港北区の公園
”居所不明児童”だった受刑者の心に届く音楽をつくりたい!
2014年3月26日、埼玉県川口市で当時17歳の少年が祖父母を殺害してキャッシュカードなどを奪って逃走する強盗殺人事件が発生しました。1カ月後、埼玉県警に逮捕された少年は、裁判の過程で、浪費する実母と義父にネグレクトや虐待を受け、横浜を含む関東地方各地を転々とする中で、学校にもほとんど通えなかった状況下で育ってきたことが判明。社会に大きな反響を呼びました。
本プロジェクトは、彼が事件直前に路上で偶然耳にして、心を打たれた歌「あかり」(作詞・作曲ワカバ)創作者の1人・松井亮太さんと元・少年がコラボレーションして1つの曲をつくること、そしてその創作を通して更生を後押しする目的で企画しました。また、行政が居場所を把握できない「居所不明児童」という社会から途絶した場所にいる「見えない」子どもたちに、「見逃してしまった私たち」が何ができるのかを同時に問いかけるプロジェクトです。
「誰一人取り残さない世界の実現」というビジョンを掲げる国連の「持続可能な開発目標(SDGs)実現を目指す」と横浜市は宣言しています。けれども、今も児童虐待は繰り返されています。「最も弱く、見えていない子どもたち」の現実を知り、見つめ直すことから始めてみませんか?
「出所後には自分と同様の境遇に置かれている子どもたちに役立つことができたら」と、学びを深めている彼への「支援の輪」を横浜から広げるプロジェクトにぜひご協力ください。
プロジェクト実施概要
このプロジェクトは、元少年を含む、罪を償っているすべての受刑者の皆さんを対象に刑務所内で「慰問コンサート」を開催するための資金調達を実現し、あわせて私たちが同様の境遇に置かれている子どもたちに「何ができるのか」を考える機会をつくるプロジェクトです。
プロジェクトメンバーは、NPO法人I Love つづき(横浜市都筑区)の岩室晶子、社会福祉法人親愛会(埼玉県川越市)の横山雅左子、NPO法人シャーロック・ホームズ(横浜市西区)の宮島真希子が呼びかけ人となっています。
また、プロジェクトサポーターとしてミュージシャンの松井亮太さん、毎日新聞記者でこの事件のルポルタージュ「誰もボクを見ていない〜なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか」(ポプラ社)を著した山寺香さんが応援してくださっています。(以下、少年についての記述は山寺さんの著作をもとに構成しています。「少年」とあるのは未成年当時を示します)
少年と「あかり」との出会い
小学生時代から実母と義父の2人から身体的・経済的虐待などを受け続けてきた少年。その日も祖父母から金を取ってくるようにと、実母から責め立てられていました。
彼は母親の声を聞きつつも、この大型ビジョンを通して街に流れた「泣きたくて でも泣けなくて 今 ひとりぼっちのあなたへ」という歌詞を心に留めていましたが、その翌日、犯行に及んでしまったのでした。
彼は、罪を犯してしまった直後に滞在したホテルで歌詞を検索し、その曲が「あかり」という名前であることを知ります。「もっとこの曲に早く出会いたかった」と、非常に深い印象を彼の中に残したこの曲は、松井さんが当時活動していた「ワカバ」というバンドのオリジナル楽曲でした。
2014年3月の自殺対策強化月間に内閣府「いのち支える(自殺対策)プロジェクト」キャンペーンソングに選ばれ、当時全国あちこちのメディアにこの曲が露出し始めており、北千住駅前の大型ビジョンに映し出されたのも、その一環だったようです。
刑が確定し、服役する身になってから、取材で少年とやりとりをしていた山寺さん、事件を知って支援をしていた本プロジェクトメンバーの横山さん、横山さんと横浜市内のひとり親支援のテレワーク事業をともに進めていた岩室さんがつながりました。
そして2018年。音楽家でアレンジャーでもある岩室さんが、松井さんとも仕事をしていた縁でつながりは広がります。松井さんは4年越しで、服役している彼の存在を知り、「あかり」が深く影響を与えたことを知ったのです。
現在、松井さんは受刑者となった元少年が思いを綴った詩に、新しい曲をつけています。松井さんは少年と、山寺さんを介してやりとりを重ねました。
松井さんは「携わるからには曲を一緒に作る事の楽しさや、でき上がった時の達成感を一緒に味わったり、創造する喜びを共有したりすることで、この先少年が生きていく際のひとつの活力になれたらいい」とメッセージを寄せています。
横浜と少年の接点
わたしたちプロジェクトメンバーが、なぜ埼玉で発生したこの事件の受刑者を支援するのでしょうか?その理由は「少年と横浜に接点があった」からでした。
2010年・中学2年生だった少年は、埼玉県から家族とともに横浜に移ってきました。横浜公園(中区)や菊名駅(港北区)近くの公園で野宿を繰り返していたそうです。当時、生まれたばかりの妹の世話をしたり、食料を(時には盗むなどしながら)調達するのは少年の役目。山寺さんの取材によると彼は「横浜で野宿生活をしていた頃、路上にいるとすれ違う人たちからの痛々しいものを見るような、冷たい視線を感じることがあった」と当時を振り返っています。
その後、生活保護の受給やフリースクールにも通うなど、つかの間支援とつながった少年でしたが、その後再び、「行政の管理下の暮らし」に嫌気がさした親とともに横浜から埼玉へ移動してしまい、居所の定まらない生活に逆戻り。横浜から離れた彼は再び「居所不明児童」となり、そのまま事件をおこすまで、行政が存在を確認できる状況にはなりませんでした。
児童相談所・区役所・ケースワーカー・フリースクールを運営するNPO法人…。それぞれ何かしら彼と接点があった人たちはいましたが、彼と妹を虐待・支配する親と引き離して支援するところにまでは至りませんでした。
2017年6月に山寺香さんの本が出版され、同年7月に横浜・関内で山寺さんを招いたトークイベントを開いた、本プロジェクトメンバーである宮島は「数十年も関内駅周辺で仕事をしていて、横浜公園を何度となく通っています。子育て支援のNPOにもメディアにも関わっていました。街を知っているように思っていましたが、居所不明児童をどうすればいいのか、できることがわからずショックでした。コミュニティにできることはないのか。山寺さんの著作を通してこの課題をまず考えてみたかった」と、トークイベントを振り返ります。
「誰もボクを見ていない:なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか」著者・山寺香さんを招きトークイベント(ヨコハマ経済新聞)
このイベントには40人近くが参加。彼が通ったフリースクールの関係者や専門家らも足を運び、悔いをにじませながら「これからできることがあれば何かしらやりたい」と感想を残していました。また、当日参加できなかった市内の子育て支援団体のメンバーからも同様のコメントが寄せられ、関心の高さがうかがえました。
居所不明児童については、虐待などが深刻なケースが多く、法制度や情報共有システムの改善などが必要で市民・コミュニティレベルでどのようなことが可能なのか手探り状態です。今回のクラウドファンディング期間中に、対話の機会を設け、まずは知り、話をするところから始めていきたいと考えています。
プロジェクトの目的/課題認識
「少年の願いと問いかけ」にこたえる一歩を
山寺香さんは、2019年3月16日にシェアリーカフェ(横浜市都筑区中川)で行われた「トーク&ライブ」での講演で、成人となった「元少年」が社会に望むこと、彼自身がありたい姿について話をしました。
著書の中にもあったように、彼は社会に対し「一歩踏み出すこと」を願っているといいます。山寺さんが取材を受ける理由についてたずねた際「自分の事件が報道されることで、そういう子どもを見かけた時に『もしかしたらあの事件のような背景があるのかもしれない』と想像し、気にかける人が出てきてほしい」(「誰もボクを見ていない」P213より引用)と、彼は手記を寄せています。
また、服役を終えた将来、彼はかつての自分のような「社会との接点を失い、見えなくなっている子ども」に対して「自分ができることをやりたいという気持ちを持っている」と山寺さん。そのためには様々な支援者との交流などを通して「信じられること、信じられないこと、失敗も含めて人間関係、コミュニケーションを学んでいくことも、大切な気がします」と話しています。
今回のクラウドファンディングでは、わずかに縁のあった横浜から少年に対する「踏み出す一歩」を意識しながら、私たちは準備を進めています。このアクションを通じて、少年のような「居所不明児童」への関心を喚起し、かかわる方々に「踏み出す一歩」を意識してもらえるように、そして元・少年に信頼してもらえるように、チャレンジを進めていきます。
「参加」「協力」をお待ちしています。
プロジェクトの達成目標/創出効果/成果物
▽児童虐待防止にむけての対話の機会の創出
▽地域のセーフティネットの構築
▽犯罪加害者の更生支援
プロジェクト構成メンバー/経歴
岩室晶子(NPO法人I Love つづき)
横山雅左子(社会福祉法人親愛会)
宮島真希子(NPO法人シャーロック・ホームズ)
▽プロジェクト応援団
松井亮太(ミュージシャン)
山寺香(毎日新聞記者)