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福島ユナイテッド2024備忘録②【初見の驚き】
開幕
衝撃。
あまりにも衝撃的だった。
例年の我々は今年こそはと期待し、毎年シーズン序盤で打ち砕かれてきた。
今年は違うのかもと期待させておいて終盤あっけなく失速することも使い古され見飽きたパターンだ。
だが、今年は本当に違った。
自陣に押し込まれ敵からプレスを受け続けてもゴールキーパー(GK)吉丸絢梓は決してセーフティーにボールを蹴りだしたりしなかった。
DF陣は追い詰められ、すでにディフェンシブサードに追い込まれている時でさえ頑なにボールを繋いでいく。
私はそれを初めて見た瞬間、この比較的保守的な土地柄の福島で世界でも一握りの、リスクを負う覚悟のある者だけが挑戦するポゼッションサッカーをしようという固い決意を寺田監督から受け取る事が出来た。
胸が躍った。
世界を見渡してもこの戦術を採用するクラブはそう多くはない。それは極めて熟成に時間のかかるスタイルだからだ。今すぐ結果が欲しいクラブが採るにはリスクが大きすぎるのである。
その難しさゆえにビッグクラブでも諦める事すらある。
最近のJリーグならイニエスタを切ってフィジカルサッカーに舵を切った神戸のように。
繊細なポジショニングと高いテクニックが要求され選手間の練度が重要になるそのスタイルは、
ゆえに長く選手を引き留める事ができ選りすぐりの人材を集められるそんな資金力に余裕のあるクラブが採用することが多いスタイルだ。
クライフイズムを継承した戦術であり、
リヌス・ミケルスのアヤックスから始まり、
バルサに受け継がれ、
スペイン代表のスタイルにさえなったそれは近年グラルディオラが戦術の言語化を押し進め、
スペイン国外のクラブ-バイエルン、マンチェスターシティでそれが一部の限られたフィロソフィーを持つクラブでしかできないものではない事を証明する。
だが全てビッグクラブだ。
Jリーグで採用するクラブに目を向けても、完成まで紆余曲折あったとはいえ川崎も体力のあるクラブだったし、新潟はやはりJ2では上位カテゴリーのクラブでスタイルを熟成する土壌はあった。
思い通りに選手を集められないスモールクラブではそれを実現するのは気が遠くなるほど困難なミッションだ。実際世界的に見ても資金力のないクラブでポゼッションサッカーを花開かせた例は希だ。
大きな躍進を遂げたチームとしては
最近ではデ・ゼルビのブライトンが好例だろう。
それ以前となるとモストヴォイとカルピンのいた2000年頃、V・フェルナンデスのセルタまで私の中では遡ってしまうのだが、
とにかく見る者を魅了し、結果を残せるレベルにまで仕上がったチームは数えるほどだ。
大半のクラブは横パスを回すだけでゴール前での怖さのないサッカーに終始したり、それ以前に形を成す前に監督が飛ばされる。
カテゴリーを限定するならチャンピオンズリーグというスーパークラブが集まるなかファンハール率いるアヤックスが優勝した1994-95年のチームを入れてもいいかもしれない。
アヤックスはオランダ国内ではビッグクラブだが欧州の舞台では搾取される側、育てて売るクラブだからだ。
そして例に漏れずタイトル獲得後は次々と選手を搾取され、その栄華は長く続かなかった。
そんな困難な道のりをリーグ戦で中位から下位が定位置の福島は選んだ。
当然序盤は負けが込みサポーターにも忍耐を強いる事になる。
ただでさえ積年の失望と不満がサポーターから忍耐力を奪っている。
それをこれからが楽しいからと説得するのは、例えれば
長編小説のラストが素晴らしいことを知っていた人間が序盤の展開の苦しさで読破を諦めようとしているのを見て
「いやちょっと待ってくれ、面白いのはここからだ」
と諭すようなものだろうか。
だがそれは相手が実体験を得ていなければなかなか伝わらないものだ。
だから私の脳裏に最初に浮かんだのはいったいどれほどの数のサポーターがそれを容認できるだろうかという心配だった。
最悪なのは産みの苦しみにあえぐ寺田監督をサポーターが見限り、ロッカールームからも信頼が失われてしまう事だ。
そして序盤の福島は実際勝ち点を思うように上げられない展開が続いた。