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GXやDX、まちづくりのキーワードは「掛け算」(田辺一城・古賀市長インタビュー)

市長の考えに共鳴する市職員や民間プレーヤーによる共創のまちづくり

 『首長マガジン』第4号はDXGXを特集しています。トップダウンとボトムアップの手法を巧みに組み合わせた意思決定で、革新的な施策を次々に実現している田辺一城福岡県古賀市長。県議会議員時代には全世帯を3周して地域の声に耳を傾けたご経験も。GXやDX、まちづくりに対するそのアプローチや、多様なステークホルダーとの共創プロセスについて、田辺市長の考えを深掘りしました。

旅館からワークスペースへ生まれ変わった「快生館」

-まずインタビューをさせていただいている、ここ「快生館」について教えていただけますでしょうか。

田辺一城古賀市長(以下「田辺」) 古賀市の山里である薬王寺という地域に位置し、元々天然温泉を有する旅館が運営されていました。しかし、新型コロナウイルス禍の影響を受けてオーナーが営業を止めるということでしたので、市としてお借りして大幅にリノベーションし、サテライトオフィス、コワーキングスペース、シェアオフィス等を備えた場として、「快く働く」をキーワードに新たにスタートしました。県内外からオフィスを構えたり、企業合宿やワーケーションをしたりする人たちが増えています。福岡都市圏の中で天然温泉がある地域は珍しいので、こうした地域資源を新しい時代に生かし、ピンチをチャンスに変えた場と言えます。

ワーケーションも可能な快生館の温泉とフリースペース

市長就任までに全世帯を3周した訪問活動から見えてきた市長像

-新しい時代に対応して変えてきたということですね。そもそもなぜ市長になろうと思ったのですか?

田辺 2011年から約8年間、県議会議員を務めていましたが、市民の声を政治に生かすための提案権はありますが、決められない。政策や予算を最初に決める権限がある市長への関心や指向性に気づいたことからです。今はDXやGXもそうですが、社会の価値観が変容し、技術革新がすごいスピードで進んでいますので、行政運営やまちづくりも迅速に対応していく必要性を感じていました。また、様々なものをシェアして、効率化を図って持続可能性を高めるという概念とその実装の必要性は、わかっていても実装するのは大変なことです。DXやGX、公民連携、シェアリングで共創するといった価値観をしっかりとまちづくりに繋げていきたいという思いがありました。

-その実現のためにどのように市長を目指されたのですか

田辺 古賀市選出の県議は1人区ですので地域を回る活動は市長と変わりません。全世帯2万6千戸ありますが、1軒1軒回り、県議の8年間で3周しました。地域行事はいつでもどこでも行きますし、夜の街も回りました。政治家は民主主義における「道具」だと思っています。その道具も手元にないと使えない。市民の目の前に政治家がいるべきだということで活動していました。当時は民主党所属でしたが、自民党が強い社会の中で、民主党としての不利をどうするか、自民党支持者とも仲良くなればいいと、とにかく市民に入り込んでいくことで支持が広がり、県議選では2回勝たせていただき、自民党から共産党の支持者まで幅広く応援してもらいました。あれ、考えてみるとこれって首長と一緒だよ、ということに気づき、自信を持って市長の道を目指そうと決めました。今は無所属ですが、「全ての市民のためのたった一人の代表」というベースは一緒かなと。やることが変わったという感じですね。

-最初の市長選は4つ巴でしたが戦後処理はどうされましたか?

田辺 特にはないですね。他の候補者3人とはみんな知り合いでした。選挙は11月でしたが、夏前からすでに動きが始まっていました。しかし、地域を回る中で市民から選挙に対する高揚感が感じられなかったことや、私自身のマネジメントへの関心も高まり、首長に対する意識を頭の片隅に持ち始めていましたので8月末には決断して後援会長に伝えていました。9月県議会で決算審査まで務め上げ、10月中旬に出馬会見をして、1ヶ月ちょっとで選挙という状況でした。ただ、それまでの地域をくまなく回ってきた政治活動があったから、出れば絶対勝つと思っていました。結果として私の票と3人を足した票が同じぐらいとなりました。

根回しも段取りも丁寧に議会対策を進めている

-なるほど。結果としてある程度安定して市政に臨めるような形ですね。

田辺 政争に巻き込まれないようにしながら、選挙で他の政治家に強く依存してはこなかったので、議会とも特に大きな問題もなくやっています。元議員として、二元代表制を重視しながら議員の皆さんとしっかりと市政を進めていくという姿勢は基本的に持っていますので、5年余りすべての議案が否決や修正なしで通過していることから、根回し段取りも含めてやっていることが結果として安定運営に繋がっていると思います。

古賀市が推進するGXに向けた政策と戦略

-1期目の政策の肝は何でしたか。

田辺 1期目は大きく「産業力を強化すること」、「チルドレンファースト(子ども子育て、教育)」、「誰もが生きやすい社会(福祉)」という3つの柱を立てました。

-産業の振興についてはどうですか?

田辺 産業振興では私の就任後、大きく6ヶ所の開発を進めています。5ヶ所は工業、物流団地の形成です。就任後に都市計画を打って、ものづくりのまちなので工業系の基盤をしっかり作らないと、まちの持続性がなくなってしまうという危機感があります。既存企業の工場の移転や新たな企業の誘致の基盤整備を5年余りでかなり進められています。

-工業が振興されると、炭素をたくさん出す可能性にも繋がってきます。脱炭素と産業振興との関係性はどのように考えて進めてこられましたか?

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