チアゴ移籍を巡る謎と答(おそらく)
昨季のCL準決勝でも身を以て経験した通り、一昔前とは違い実質「FCメッシ」といっても過言ではない状態になってきていたバルセロナ。ナポリ戦でのゴールを含め、トップレベルでも未だに1人で違いを生み出せてしまう能力の高さには感服するしかありません。ただ2-8という衝撃的なスコアラインは、少しずつ近づいていた一時代の終焉をついに告げたといって間違いないでしょう。確実に後継者になりえたはずの久保選手を、みすみすレアルに明け渡した昨夏のバルセロナの判断に首を傾げた日本のサッカーファンは多かったと思います。2015年を最後にCL優勝がないことも含め、ピッチ内外で変革待ったなしのクリティカルな時期に来ているようです。
さて、そんなバイエルンとバルセロナの一戦を普段とは違った目線で追っていたリヴァプールファンの方も多かったのではないでしょうか。目当てはもちろん、バイエルンで優勝すれば古巣リヴァプールにさらにお金を運んできてくれるかもしれないコウチーニョの活躍… ではなくチアゴ・アルカンタラ。ドルトムント時代からその巧さを目の当たりにしてきたクロップがファンであることを公言し、今夏のリヴァプール移籍がどんどん現実味を帯びてきています。この1戦に限れば大量得点したチームにあって一番目立つ選手ではなかったかもしれませんが、プレスを受けた時のかわしは世界でもトップオブトップ。そんな選手が7連覇したブンデスリーガを離れることを決め、新たなチャレンジをプレミアに求めている。ともにCLを戦っているチームメートにもすでにさようならを告げているとの報道もあります。来年4月で30歳とはいえ、頭と技術で戦うプレースタイル的にもまだ何年かは十分トップレベルでやれる。契約残り1年のこの年齢の選手に£30Mは通常ならばかなりの出費ですが、それでも欲しいと思わせる能力を持つワールドクラスのスペイン代表です。
さて、素朴な疑問は今本当にこのポジションに補強が必要なのか?ということ。承知の通り、プレーするであろう攻撃的MFにはヘンダーソン、ワイナルドゥム、ケイタ、オクスレイド=チェンバレン、ミルナー、若手ジョーンズと2枠に6人。十分すぎるほどに駒が揃っています。それを分かった上で敢えてテコ入れを図る理由は何か。ここ数回の移籍市場で極端なまでに支出を渋ってきたクロップやエドワーズがゴーサインを出そうとしている背景が、ただ単純に戦力補強なのか、それ以外の何かがあるのか。疑問を持つのも自然なことでしょう。
カギを握るのはワイナルドゥムのようです。あのバルセロナ戦での電光石火の2ゴールで、クラブでのレジェンドとしての地位はもはや確立されたといっていいオランダ代表。プレミア優勝を果たした今季も、多士済々な中盤にあって最も起用されるなどクロップからの信頼は抜群です。宮市選手と一緒にフェイエノールトで戦っていた若手時代を見ていた方も多いと思いますが、元前線の選手ならではの数人を軽々と手駒に取る足元の巧さと、攻守で随所に見せる強靭なフィジカル及びトランジションの速さ。そしてここ一番での得点力。トリッキーさではチアゴに劣るかもしれませんが、総合力では勝るとも劣らない。不可解なのは、そんな万能で重宝しまくっている選手の契約を後1年で切れる状態まで放置していることです。
これほどの選手に、この時期になっても契約延長のオファーが提示されていない。通常であれば、チーム躍進の最大の功労者の1人として、ここ数年だけを考えても何度でも話す機会があったはずです。にもかかわらず来夏のフリー移籍が現実味を帯びる状況にまでなっている。報道によれば給料も週給£75,000と、その働きぶりからすれば安すぎるくらいなのにもかかわらず、賃上げ交渉の話もない。ここまで聞くと何か選手と監督間で関係性に問題があるようにも聞こえますが、上記の通りクロップは全幅の信頼を置いている。ワイナルドゥムも、今季のプレミアリーグ最優秀監督に選ばれたクロップへすぐに祝福のメッセージを送るなど素晴らしい関係を変わらず築いている。こういった状況を鑑みるに、浮かんでくるのは以下のような仮定です。
おそらくワイナルドゥムは、以前からクロップに来夏の契約満了を以ての退団を伝えており、これをクロップも了解している。母国のオランダや降格を経験したニューカッスルに恩を返しに戻りたいのか、他に行きたい国があるのかは分かりませんが。戦力として疑いようはないので、クロップも他の誰よりも使い続ける。本人も継続的に素晴らしい活躍を見せ、クラブも折に触れ契約延長も考えてみたら?という雰囲気は出す。が、双方が当初の契約満了までというプランを知っているので決定的な動きまでは起こさない。同時に、ワイナルドゥムの退団に備えないといけないクロップは後釜探しに乗り出す。するとかねてから目をつけていたチアゴがちょうど契約満了1年前で獲得可能と知る。出費は嵩むものの、フリーで競合が増える来夏より今夏中に獲得しておきたい。そのためならばこれからの1シーズンは多少の戦力ダボつきも仕方ない。
以上はあくまでも予想なので、実際は2人の仲がすごく悪かったり、週給を上げてほしいのにクラブ側が渋ったりしているのかもしれません笑 が、監督選手双方のこれまでの言動や関係性を見るに、その可能性は低いように思われます。結局のところ、ワイナルドゥムがずっと残りたいとさえ言ってしまえばチアゴの移籍そのものがなくなる可能性もあるということですが、この時期まで契約延長がなされてこなかったことを考えると、ワイナルドゥムの意思は固いように思えます。
ロヴレンが抜けたセンターバックの補強などまだまだオフシーズンの動きから目が離せませんが、確実に戦略の幅を広げてくれるであろうチアゴの動向を楽しみに待ちたいと思います。そしてもし仮定が当たっているとすれば、レッズでのラストシーズンを迎えようとしているワイナルドゥム。どんな時も頼りになる背番号5が、赤のユニフォームで躍動するシーンをしっかり目に焼き付ける来季となりそうです。