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「ここでは泣いてもいい」寺子屋は、思春期の私たちの居場所だった。卒業生が企画した「同窓会」から見えたもの
「子どもの貧困に、本質的解決を。」というミッションを掲げる認定NPO法人「Learning for All 」(以下、LFA)は設立10周年を迎えました。それを記念し、歩みを知る人々を招いて、年度ごとに語り合う連載コンテンツをお届けしています。
この日、集まってもらったのは、学生ボランティアを経てLFAに入職し、現在は「子ども支援事業部 葛飾・つくば エリア統括責任者」を務める宇地原栄斗。そして、LFAの学習支援拠点である「寺子屋」に生徒として通っていたSさんとTさんです。宇地原も当時、彼らの学習指導に携わっていました。
2人は中学生時代、LFAが実施していた「やる気塾」という学校内で行われる学習支援教室に参加。それを経て、地域の公民館を利用してLFAが開いていた「寺子屋」にも足を運ぶようになりました。現在は大学生や社会人として新たな一歩を踏み出しています。
そんな彼らが開催したのが、学生ボランティアの「元先生」たちを招いた同窓会。寺子屋卒業生が自ら企画し、主体的に作り上げていきました。LFAでは2018年から「地域協働型子ども包括支援」をスタートさせましたが、まさにその意味を振り返る機会にもなりました。
LFAの支援は、子どもたちにどのような価値をもたらしているのでしょうか。
「話せる場所」を求めて、寺子屋へ
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宇地原:ふたりは寺子屋にどんな気持ちで来ていたの?勉強が目的?それとも、話をしに来てた感じ?
Tさん:私の場合は、話すのが6割くらいだったかな。家では親としか話す機会がなくて......一人っ子だったこともあって、寺子屋は色々な話ができる場所という感覚でした。
Sさん:僕も全く同じですね。もちろん勉強もありましたけど、どちらかというと話す方が楽しみで。
宇地原:確かに、普段は学習をしている拠点の寺子屋なのに、誰も勉強していない日もあったね(笑)。
Sさん:先生たちが良い意味で「放置」してくれたんです。学校の先生だったら「座りなさい」って注意されるような場面でも、危険なことじゃない限りは止めないですよね。それこそ思春期真っ只中の私たちに対して、そういう関わり方をしてくれたのは、むしろ良かったんじゃないかな。もちろん先生たちは苦労したと思いますけど。
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──「寺子屋の思い出」といえば何ですか?
Sさん:一番印象に残っているのは、中学3年生で出場した陸上大会の時のことです。2年生くらいから急に足が速くなったけど、良い結果が出せなくて......。家族の前では絶対に泣かないし、知らない人の前でも泣いたりしないんですけど、寺子屋では大号泣してしまって。教室で全然止まらなくなって。
宇地原:あとは、受験直前の出来事も忘れられないよね。確か受験日の10日前とかだったけど、「お世話になった先生に花を贈りたいんです」って相談されて。
Tさん:受験前に花を買いに行く中学生って、ちょっと面白いですよね(笑)。
宇地原:二人が寺子屋を卒業する日のことをよく覚えている。例年通りに卒業式をして、色紙を渡してみんなを見送ったと思ったら、二人が「言いたいことがある」って戻ってきてくれて。その時にTが「自分は話すのがずっと苦手で、今こうやってみんなの前で話していることがびっくりなんですけど……」と言いながら、自分の思いを話してくれたんだよね。とても嬉しくて感動したの覚えてる。「寺子屋での日々は楽しかった」って言葉に、自分も他の先生も大泣きして。「人生で一番泣いた」くらい。
Tさん:そうそう、先生の涙が印象的でした。あの時はあまりにも感極まってしまって、自分が何を話したかも覚えていないくらいです。
卒業後も続いたつながり、そして同窓会へ
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──二人はその後、高校へ進学してからも何かしらの形でLFAとは関わっていたんですか?
Sさん:そうですね。ある時、「寺子屋の高校生版もやるよ」ってメールが来たんです。
宇地原:ちょうど2019年くらいに、受け入れる学生の幅が広がった時期だったね。
Tさん:私は高校在学時は来てなかったんです。卒業後に就職して、その前職で色々とあって......。その時、寺子屋の卒業式の時にもらった色紙を見返していたら、「何かあったら連絡してもいいよ」と書いてあったんです。高校は卒業しちゃってたけど、「時効かな」と連絡させてもらって。
宇地原:そうだよね。連絡してくれて本当に良かった。あの日のことをよく覚えているよ。真冬で、元気がなさそうだったから「ちょっとコンビニ行こう」って。コーヒーを勧めたら「飲めない」って言うからエクレアを買って。公園で話し始めたけれど寒いから、場所を移動しようと拠点に来たら、Tが近くに住んでいるSに連絡してくれて。
Sさん:そうそう。本当に近所で、2〜3分くらいのところに住んでたから、連絡もらってすぐに駆けつけたんです。久しぶりの再会でしたね。今回の同窓会のアイデアも、Tが「やったらいいよね」って言ってくれたのがきっかけで。それを聞いて「あ、確かにやりたいな」と今年の5月くらいに本格的に動き始めて、緒形さんのところにも相談に行って。
宇地原:緒方さんは別のNPOで子ども支援をされている方で、2016年から寺子屋が終わった後の時間に合わせて、同じ建物で子ども食堂をやってくださっていたんです。毎月みんなで一緒にご飯を食べるっていうのが恒例だったんですよ。
Sさん:その思い出の場所でもう一度集まろうって。同じ公民館の調理室を使うことにしたんです。
先生たちに「この活動をしていて良かった」と思ってほしかった
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──同窓会にはどんな人が集まりましたか?
宇地原:元学生ボランティアの先生方が5〜6人、オガタさんや子ども食堂を手伝っているボランティアの方も交えて、全部で15人くらいでしたね。オガタさんから恒例の「今日のメニュー解説」もはさみつつ、あの頃みたいにみんなで食事をして。これも毎回の決め事だった、一人ずつ食事の後に感想を伝える時間も取りましたね。そこで近況報告もしたり。
Sさん:それこそ僕は気づいたら30分くらい話し続けていたんです。「あの時があったから今こうなれました」って。一人ひとりがちゃんと向き合って聞いてくれて。来られなかった先生方にも手紙を書き、その時の気持ちを伝えました。
やっぱり、こういう機会って本当に少ないと思うんです。普通の卒業式なら「お世話になりました」で終わってしまうところですが、僕は先生たちに「この活動をしていて良かった」と思ってほしかった。僕は今、陸上競技の大会に出たりしているんですけど、そこでも色々と苦労して。努力する意味とか、深く考えることもあって。だからこそ改めて、先生たちがやってくれたことの意味を伝えたいと思ったんです。
Tさん:私も、本当に辛かった時に連絡して助けてもらったときのことを思い出して、感謝の気持ちを伝えないと後悔すると思ったんです。言わなかったら未練になる、それくらいの思いでした。
Sさん:特にLFAの先生たちって、当時は大学生で、今では海外で仕事をしていたり、日本国内でも遠くに行ってしまったり。社会人になるともう時間が取れなくなるから、「今回しかない」という気持ちもありました。
宇地原:この10年間、やっとこういう年齢の卒業生が増えてきて。私自身も、ここ2年くらい、同窓会の必要性を強く感じていたところだったんです。指導を始めた頃の中学生たちが、大学を出たり、就職したり。だから今後は同窓会のようなものを、みんなでやっていこうって話をしているところです。
同窓会を超えて、新しい居場所づくりへ
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──同窓会の開催を経て、他にも実施してみたいアイデアなど、ありますか?
Tさん:これまでLFAと関わってきた高校生や大学生、それから社会人になっても、気軽に来られる場所があってもいいんじゃないかなって。
宇地原:「気軽に来られる」ってのは、具体的にどんなイメージ?
Tさん:「会社でこんなことがあったんだよ」みたいな話ができる場所。なんか、すごい頑張って「ちゃんと大人になりました」みたいに見せなくても良くて。今、何をしているのかを共有できる機会があればいいなって。いくつになっても来られる......まあ、さすがに年齢制限はあるかもしれないですけど。
宇地原:そんな場所あってもいいね。年齢制限は別に無くてもいいんじゃない?
Tさん:寺子屋のように毎週じゃなくても、何かあった時に。「1年前はこんなこと言ってたよね」って振り返れる場所があれば。全員が集まれなくても、半年に1回とか1年に1回でも。「普通の居場所」には行きづらい人もいるじゃないですか。だったら、お互いのことを知っている人たちだけでも、定期的に集まれる場所で、少しでも近況を話すことができるだけでも救われる気持ちもあるかもしれないから。
宇地原:確かに、大人にも「居場所」は必要だもんね。つながりが切れちゃうことも多いし。こんなふうに、かつての教え子が新しいアイデアをくれたり、実際に運営側に回ったりしてくれるのも、LFAが10年続けてこられたことの証だし、続けて良かったと思えるよ。
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(構成・文・写真:長谷川賢人)