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「明日も来れる場所」を結ぶ、繋ぐ、育てる──葛飾でLFAが取り組む、子ども支援の10年物語
「子どもの貧困に、本質的解決を。」というミッションを掲げる認定NPO法人「Learning for All 」(以下、LFA)は設立10周年を迎えました。それを記念し、歩みを知る人々を招いて、年度ごとに語り合う連載コンテンツをお届けします。
今回は、葛飾区で展開している地域協働型子ども包括支援について、その黎明期から携わる3名が集まり、これまでの歩みを振り返りました。NPO法人ハーフタイムの元理事長である石原啓子さん、地域で子ども食堂を運営するNPO法人レインボーリボンの緒方美穂子さん、そして現在LFAの葛飾・戸田・つくばエリア統括責任者を務める宇地原栄斗が、2014年から続き10年以上に及ぶ連携の歴史を語り合いました。
寺子屋から始まった地域との連携
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宇地原:そもそもお二人は、いつ頃から子ども支援に関わっていらっしゃるんですか。
石原:私がスタッフを務めているNPO法人ハーフタイムは、2010年から任意団体として活動をはじめ、2017年4月からは法人格も取得しています。さまざまな生きづらさを抱えた子どもたちに寄り添い、主に葛飾区・墨田区内の地域の施設を利用して、拠点型の居場所作りを中心に各種の支援を行っています。
緒方:NPO法人レインボーリボンは葛飾区のとある公立小学校PTAで出会ったお母さんたちで立ち上げました。法人格を取得したのは2014年です。「いじめ防止」の対策や「こども食堂」の運営、経済的困難を抱える子育て家庭を支援する「フードパントリー」の開催もしています。
宇地原:僕自身は2016年からLFAに関わり始めたんですが、元々、出身地である沖縄の子どもの貧困問題に関心があって。当時、沖縄は全国平均の倍近い貧困率で、4人に1人くらいの子どもが貧困状態にあったんです。大学で東京へ来て、でもここでも同じように支援を必要としている子どもたちがいることを知ったのは、活動の大きな原動力になりましたね。LFAが葛飾で活動を始めたのは、僕がまだ加わる前の2014年頃でした。その頃、お二人のサポートもいただいたと聞いています。
緒方:私は以前、ウィメンズパルという区の施設で非常勤職員として働いていました。窓口で貸し館業務を担当していて。そこにLFAの学生さんが、子どもの学習支援のために会議室を借りに来たんです。
石原:そうそう。そのことをきっかけに、私たちが子どもを募集して、LFAの学生さんに教えてもらうという形で連携が始まったんです。
宇地原:お二人がLFAの活動に共感してくださった理由は何だったんでしょうか。
石原:私は福祉事務所で長くケースワーカーをやってまして、生活保護の困窮世帯の子どもたちの状況は本当に大変です。例えば極端な話、自宅はごみ屋敷のようで、親は精神障害だったり色々な事情があって働けなかったり。教育力もなく、勉強するような環境なんか一切ない。そんな中で、子どもにただ「勉強しようね」と言っても全然響かないんです。
それで、居場所になるところが必要だよねって。子どもたちが自立するのに、そういう場があって、そこで勉強もできる。そういうサポートができないかと考えていたんです。
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緒方:当時はPTAの活動をしている中で、夜に一人で小学生が朝までお留守番していたり、シングルマザーで働き詰めで学校のことなんか手が回らない親御さんがいたり……さらに「6人に1人は相対的貧困状態にある」(※当時。現在は9人に1人)という、子どもの貧困の現実が目の前にあったんです。一人の「お節介おばさん」として、共生できる子育て環境を作ろうと勝手に活動を始めたところがあり、アプローチは違っても、LFAの活動はもっと必要なものだと思えました。
地域の力で広がる子どもの居場所
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宇地原:そうして始まった連携が、LFAの学習支援と子ども食堂をつなげる、という展開になったんですよね。
緒方:レインボーリボンは2014年に法人化して、2016年から子ども食堂を始めました。ウィメンズパルの調理室を使って、まずは月に1回から。でも、どうやって子どもへ声をかけたらいいのかもわからなくて……。
石原:その時に「LFAがウィメンズパルの会議室で学習支援をやってるから、その子たちに勉強が終わったら食べに来てもらえばいいんじゃない?」とアイデアを出してね。チラシも渡して、たくさん来てくれましたよね。
緒方:2016年4月30日に初めて開いたこども食堂は大盛況でした。実は目の前に「6人に1人」は必ずいたんですけど、その「子どもの貧困」という言葉も、社会課題も知らない段階。見えていなかった現状が、調理室ではっきりと見えました。その子たちが来てくれて、一緒にご飯を食べる中で、初めて具体的な出会いがありました。
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宇地原:僕は2016年、大学2年生の時にLFAの学習支援に関わり始めて、その後、子ども食堂との連携も経験しました。毎週土曜日の第4週は、授業が終わったらみんなで一緒にご飯を食べる。その時間が子どもたちにとってすごく大切な時間になっていきましたね。
緒方:そうそう!LFAの先生が言ってくれて嬉しかったのが、「子ども食堂でこうやってご飯を食べたり、喋ったりしていると、子どもたちがすごく笑顔で話してくれる。寺子屋(※LFAの学習支援教室)で勉強を教えているだけだと、これほどコミュニケーションは取れない」と。子ども食堂をやっていて本当に良かったって思いました。
地域と若者が出会い、育ち合う場所に
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石原:食べることって、人にとってすごく基本ですよね。私たちハームタイムも個別対応で勉強を教えてる子がいるんですが、ただ「勉強しよう」だけじゃ続かない。でも、終わった後に食事をして、雑談したり。そういうことが、実は大事なんじゃないかなって思います。
宇地原:確かに、授業中だと少し緊張感があったり、勉強へのモチベーションが出ない子どもでも、一緒にご飯を食べるだけでリラックスして過ごせるようになるんですよね。。そういう何気ない時間の中で、子どもたちの新しい一面に出会えたりしましたね。
緒方:でも、私たちは本当に素人のお母さんたちで始めたから、最初は何も分からなくて。子どもを傷つけてしまうようなことを言ってしまって、LFAの学生さんに指摘されることもありました。
ある時、受験が終わった子たちに「どこの高校に決まったのかな?みんなでお祝いしよう!」って言っちゃったんです。そしたら、まだ進路が決まってない子がいて……その子の担当だったLFAの先生に「なんてことを言うんですか!」と。すごく反省しましたし、でもそうやって私たち自身も学びながら活動していったんですよね。
宇地原:そういう経験の中で、LFAとしても学習支援だけではなく、子どもたちの生活全体を支えていく必要性を感じるようになっていきました。地域の方々との連携を通じて、より包括的な支援の形を模索するようになったんです。
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石原:高校に入れたからそれで終わり、というわけにはいきませんからね。その後の就職や自立に向けて、継続的な支援が必要なケースも多い。そういう意味で、地域のネットワークの中で子どもたちを支えていく仕組みが必要だと感じていました。
緒方:地域のボランティアと学生さんが一緒に活動する中で、お互いに学び合えることも多かったですね。私たちは子育ての経験から気づくことがあるし、学生さんたちは若い感性で子どもたちと向き合う。その両方が必要なんだと思います。
石原:LFAの良いところの一つは、子どもたちに「来てくれてありがとう」という姿勢で向き合うところ。ボランティアの学生さんたちが、教えることは「自分たちの勉強にもなる」と考えている。学校だと、テストの点が悪かったら「あなたのせい」と捉えられてしまいがち。でも、LFAには「この子にはこういう言い方をすれば理解できたかもしれない」といった反省をする。その姿勢が素晴らしいと思います。
宇地原:ありがとうございます。実際に僕としても、地域の方々から学ばせていただくことは本当に多いんです。例えば、地域の人たちが何を大事にして活動しているのか、どういう思いで子どもたちと向き合っているのか。そういうことを、口で言うんじゃなくて、姿勢と行動で示していくことの大切さを教えていただきました。
地域とともに育む包括的支援へ
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宇地原:2018年の終わりごろから、LFAの活動は大きく広がっていきました。中高生向けの新しい居場所となる拠点ができて、学習支援から一気に活動の幅が広がった時期でしたね。
緒方:その頃、私たちも「かつしか子ども食堂・居場所づくりネットワーク」というのを作ったんです。2018年の4月でした。本当は葛飾区や社会福祉協議会あたりがやるべきことを、しょうがなく、民間のちっちゃな団体の私が「ネットワークを作ります」って言って。
石原:そういった拠点やネットワークができると、自分たちが手一杯なときに紹介できる場所が増えて、とてもよかったです。いろいろなところで、いろいろな活動が進んでいて、それらが連携できていることは、やはり望ましいんだと思います。
私たちも最近は「社会的自立」ということを考えているんです。例えば、障害手帳を持っていて一般企業では働きにくくても、自分ができる仕事をして、足りないところは年金や生活保護で補いながら、地域で孤立せずに生活できる。いろんな人とネットワークで結びついて生活できること。辛い時に「助けて」と言える関係性があることが大事ですよね。
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宇地原:僕は2019年に職員になったんですが、その時期にはもう、LFAとしても確かに学習支援だけでは足りないという課題が見えてきていました。例えば、中学3年生までだった学習支援を、大学受験まで応援してほしいという声があったり。あと、学習支援の前に居場所的な関わりが必要なケースもあって。学校との連携ももっと必要かもしれない。
緒方:そうなんですよ。最近、一つ印象的だった出来事で、区の「子ども・若者総合計画」のパブリックコメントで子どもの意見を聞く機会があって。7歳の男の子から「権利って何?」と聞かれて、区の担当者はうまく説明できなかったんです。
私は「権利は生まれながらにして持っているもので、生きていくために必要なことだよ」と口をはさんで、その男の子に「生きていくために必要なことって何だろう?」と聞いてみると、一番に「ご飯を食べること」を挙げたんです。それだけでも素敵な回答でしたけど、そこから「ご飯を食べる、寝ること、それから成長することだ」と。
石原:あぁ、それはすごい。7歳からなかなか出る言葉じゃないですね。私が子どもの居場所を運営していて思うことなんですけど、ご飯を食べたり、安心できたりする場所で楽しく過ごせることで、子どものなかに「エネルギー」みたいなものが育つと感じるんです。そういうエネルギーは、将来のことや未来を考えるためにも必要ですから、子どもの頃から楽しい思いをたくさん持つことは確かに「成長」にとっても欠かせません。
子どもたちが「明日も来れる場所」を作り続けたい
宇地原:LFAでは「地域協働型子ども包括支援」と呼んで、地域の中で子どもたちを支える資源を作り、包括的にサポートしていこうと、この葛飾エリアを中心に取り組んでいます。今後、お二人を始めとした外部パートナーから見て、LFAにはどういった役割を期待されますか?
緒方:LFAには、葛飾区全体の子ども支援で、リーダーのような役割を期待していますね。日々、子どもに関することはアップデートがとても速いじゃないですか。国際的な動きもある。そういうところで、地域を作っていく「知的な」リーダーシップを取ってほしいんです。
石原:そうですね。具体的な政策提言も含めて、知識が多く、法律にも明るい存在として、そういった役割を果たしてくれるのであれば、ぜひお願いしたい気持ちがあります。
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宇地原:期待に添えるように頑張ります!それこそ、地域や区との関わり合いのなかで、僕らが言いづらそうにしてることがあったら、みなさんも一緒に大きな声で訴えかけてくれると嬉しいですね。僕からは、それこそみんなで「一つの居場所」を作れないかと考えているんです。たとえば、一軒家を借りた「子どもの家」のような形で。
緒方:それ、いいアイデアですね!児童養護施設はきちんと全国にあるけど、入所するには基準があって対象が限られる。でも民間の、誰でも来られる「ふわっとした」子どもの家って、ポツンポツンとしかない。それを葛飾でも作れたら。
石原:そうですね。かつて実際に私の家にも、定期的に泊まりに来る子がいたんです。発達障害があって、特性が強くて。でも、そういう柔軟な受け入れができる場所って、本当に必要なんです。
緒方:それこそ、子どもの家の全国ネットワークができたら素晴らしいですよね。
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宇地原:僕らが関わっている子どもたちって、虐待で保護されたり、急に学校に行かなくなったり。日常の生活が急に途切れる経験をすごくしているんです。でも、そういった地域の居場所があることで、「来週もここで同じようにみんなとご飯が食べられる」と信じられることで得る安心感は、なかなか他では担保できないものだと思います。
石原:連携とネットワークの重要性を、ケースワーカー時代から痛感してきました。これからも居場所的な活動がもっと増えてほしい。子どもの居場所も増えてほしい。そういう連携は、それこそ地域でこそできることだと思います。
宇地原:ありがとうございます。お二人からいただいた期待に応えられるよう、これからも地域に根差した活動を続けていきたいと思います。そして、子どもたちにとっての「明日も来れる場所」を、みなさんと一緒に作っていけたらと思います。
(構成・文・写真:長谷川賢人)