飛べないけれど
「そこの君」
塾の帰り際、アムンゼン先生に呼び止められた。
この塾はコウテイペンギン界では有名だ。難関大学に何人も合格者を出している。僕は成績も中くらいで、目立たない存在だった。
先生はうちの塾で評判の名講師。少人数制のクラスで、なかなか入れないという。
アムンゼン先生は、ゆっくりと話し始めた。
「志望校は、地元のロンネ大学か。君の実力なら合格するだろう」
先生は続ける。
「もっと広い世界に羽ばたいてみないか」
いや、飛べませんって。僕たちペンギンですから。
「ウェッデル大学を受けてみないか」
南極中のエリート達が集結する大学だ。そんな冒険をするなら、地元でのんびりしていたい。
先生は僕の心を見透かしたようだった。
「地元を見ただけで、世界を見た気になるな」
この一言にグサッときた。
僕は今、アムンゼン先生のクラスで学んでいる。
狭い世界しか見てなかったと、後悔しないために。
*田丸雅智先生イベント「オンライン研究室」の作品です。
お題「プレッシャーをかけるペンギン」