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2021年新作映画ベスト10ランキング
2021年に鑑賞した新作映画の年間ベストと抱負についてまとめます。
■概要
今年は新作56本見ました。
ぶっちゃけ映画のモチベは仕事の激務ぶりやメンタル不調で2021年頭から停滞気味でいました。
けれども、Twitterでシネフィルを多くフォローした事、Twitterのスペースで自分よりも遥かに博識なシネフィル達の情報発信を聞けた事、東京国際映画祭&東京フィルメックスで魅力的な映画・映画館・映画に関する小話を聞けた事で映画のモチベーションが盛り返しました。
映画は扱うテーマによって生きる糧になる事が多いけど、今年の新作映画は
・昔の思い出に浸れる映画
・人生の中で重要な要因に効く映画
・単純に技術的/映像的に魅入る映画
が多かった。何よりも今年は邦画の勢いが凄い!
様々な作品の様々な切り口で唸らされる映画ばかりで、そんな中で日本の映画の底力を見ることが出来て良かった。
そんな今年ですが例年よりも見る本数が少なかったため、映画館で見た映画だけでなく映画祭で見た映画も合わせて発表します。
ベスト映画TOP10、ランキング外だけど意義のある作品/印象的な作品を特別賞として4本…合計14本の映画を紹介します。
第1位:濱口竜介「ドライブ・マイ・カー」
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2021年で最も素晴らしい映画は「ドライブ・マイ・カー」でした。
妻の喪失と妻が抱えた真実を追えない夫と寡黙なドライバーのやり取りを描いた映画で、この映画は私にとって引き込まれる要素の塊のような作品でした。
玉ボケの画調、Driveのような夜景、日本特有の景色と古風あふれる造形、内に込められたものが段々堪えきれなくなる演技、BGM…とそのどれも素晴らしかった。
好きなBGM↓
その中でも、この映画は残酷な現実に向き合うのを恐れて逃げたまま喪失感に蝕まれる絶望、その絶望に対する終わりなき忍耐、強くあるべきと演じ続けて弱さを表に出し辛い姿、社会の顔として演じる姿(
≒キャストとして演じる)を多面的に描く姿に心打たれました。
こういったテーマはイングマール・ベルイマン「仮面/ペルソナ」の前衛的な作品に含む主題、男性らしさを描いたジェーン・カンピオン「パワー・オブ・ザ・ドッグ」に通ずるものはあるかもしれない。
けれども「ドライブ・マイ・カー」はテーマが現代的で、主題に対する救いに小さな光の温もりがあり、主題以外の映像・カメラワーク・演技・ストーリーラインのどれを取っても没入できる要素ばかりで個人的にはオールタイム・ベスト級の作品に出会えました。
来年の頭には名古屋シネマテークにて「ドライブ・マイ・カー」の再上映があるので、もう一度鑑賞してこの映画に浸りたいと思います。
P.S.
ワーニャ伯父さんのこのセリフを発するシーンで泣いてしまった。時間が経ったらどうなることやら…?
ソーニャ「仕方ないわ。生きていかなくちゃ…。長い長い昼と夜をどこまでも生きていきましょう。そしていつかその時が来たら、おとなしく死んでいきましょう。あちらの世界に行ったら、苦しかったこと、泣いたこと、つらかったことを神様に申し上げましょう。そうしたら神様はわたしたちを憐れんで下さって、その時こそ明るく、美しい暮らしができるんだわ。そしてわたしたち、ほっと一息つけるのよ。わたし、信じてるの。おじさん、泣いてるのね。でももう少しよ。わたしたち一息つけるんだわ…」
第2位:松本壮史「サマーフィルムにのって」
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映画を製作する高校生たちを描いた「映画の」映画。
元々は第33回東京国際映画祭(2020)で上映された映画で、熱狂的なファンの多い作品だなーという印象があったけど実際に観てみると懐かしさに心打たれました。
青春、SF、恋愛、デイミアン・チャゼル「セッション」的な勝負映画…と様々なジャンルに変化する作品だけど、高校生活の質感だとか所謂「ファスト映画」「YouTube/ニコニコ動画→Twitter/TikTokなど短時間の動画コンテンツの受容/需要」の逆境に立ち向かう映画人の奮闘劇が好きです。
ラストのシーンで個人差が分かれる作品だけど、個人的には「映画作り」をフィルムから地続きに延長して未来に繋ぐ…な質感を与えてくれた熱い映画で素晴らしかったです。
第3位:アレクサンドレ・コベリゼ「見上げた空に何が見える?」
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いわゆるボーイ・ミーツ・ガールものの恋愛映画。
超常現象で一目惚れした男女一組のルックスが変わってしまうが…なお話。
東京フィルメックス(2021)で一番期待していた作品です。
予告編でも分かるけど、この映画は男女の出会いをドラマティックに映さずに足元のみを映す…というのがこの映画ならではの特徴だと思う。
これはルックスが変わった男女だけでなく、街の人々でも同様であったり、夜に出会う男女をもの凄く引いたロングショットで映す…など、この映画はカメラワークに特徴がありました。
けれどもそれは逆張り的なものではなくて、この映画を通じた社会の人々の営み・関心そのものを半ばメタ的に表現していて面白かった。
そんなリアリティある作品でありながらも、「必然」と「偶然」の映画らしい面白さ・ジョージアのカラッとした画作りも相まって見応えある熱い映画でした。
第3位:春本雄二郎「由宇子の天秤」
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女子高生自殺事件を追うディレクターが取材を通じて様々な事実に出会うお話。
いわゆる疑似ドキュメンタリー映画なジャンルの話だけど、ドキュメンタリー映画を作る工程そのものをメタ的に組み込まれていてサスペンス要素として緊張感を与える面白さに繋がっていました。社会派なんだけど映画に仕掛けられたギミックに面白さと緊迫感が共存するような作品。
第3位は「由宇子の天秤」「見上げた空に何が見える?」が同率(というかベクトル違いすぎて甲乙つけれなかった)になりました。
どっちもオススメです!
第5位:濱口竜介「偶然と想像」
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思わぬ出来事に翻弄される3人の女性を描いた短編集。
東京フィルメックス/第34回東京国際映画祭(2021)の一番最初に鑑賞した作品で、凄く面白かった!
「偶然」と「こんな事がリアルに起きたら面白くね?」的な「想像」が交差する作品だけど、それがアンジャッシュみたいな話で映画館でお腹抱えて笑いました(笑)
2021年の濱口竜介作品ならばこちら推しの人も結構多いのではないでしょうか?
「ドライブ・マイ・カー」と比べて、さっぱり見れる作品だけど描かれたテーマは「ドライブ・マイ・カー」に通ずるものがあると思う。
それ故に、この映画で登場する人物たちはシアターと映画を見る観客と地続きになってるというか…この映画に登場する人物は「私達」でもあるから共感ポイントが多くて没入感が凄かったです。
あと1話「魔法(よりもっと不確か)」に登場する古川琴音さんが最高に可愛い!タクシーの中で恋バナしてる時とかもう可愛すぎて悶絶してた。
今でも絶賛上映中なので、まだ観てない人は是非鑑賞してみてください!
第6位:今泉力哉「街の上で」
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複数の男女たちのやり取りを描いた群像劇。
今泉監督作品は地に足ついた話が多くて「愛がなんだ」も好きな映画です。
会話だけ聞いてても飽きが来ないような内容・やり取りの演技が好きで、それが本作にも活かされていました。
本作は見慣れた街が時を経て再開発されて街並みが変わる…な社会の見え方を群像劇に封じ込めた作品で、やり取りが面白かったです!
あと古川琴音さん、中田青渚さんがすんごい可愛い。
第7位:エリザ・ヒットマン「17歳の瞳に映る世界」
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子供を身ごもってしまった女子高生が中絶しに友人と一緒にニューヨークへ向かうお話。
この映画は「恐怖」「不安」「自由になりたい願い」を「目」で表現するところに面白さが詰まった作品でした。
「本人にしか分からない事」は他人からすると内容も深刻度合いが見えないように…本作は「目に見えない不安、距離感」をバス/電車で鏡みたいに反射する窓やカウンセリングで見事に描いてそこが素晴らしかった。
特にカウンセリングシーンは現役で実務されてる方を起用するだけあって、言葉のやり取りや間合いにグッとくるものがあって良かったです。
本人が抱える問題は色々回り道をするけど、最後の最後は本人じゃないと前へ進めない話…と言われればそれまでではあるけど、そこに至る葛藤・苦しさ・痛み・悲しさがひしひしと伝わる傑作でした。
第8位:アピチャートポン・ウィーラセータクン「MEMORIA メモリア」
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アピチャッポン監督が患っていた「頭内爆発音症候群」という心理的ストレスに起因する原因不明・治療法のない病気から着想を得たお話。
第34回東京国際映画祭ではチケット争奪戦の超激戦区で見るのにめちゃ苦労しました…
この映画は「音」を使ってどこまで映画で表現できるか?を捉えたアバンギャルドな映画だと感じました。
随所に光るソリッドな画作りも魅力的だけど、爆発する「音」で始まり自然「音」で終わるように「音」に印象が詰まってる。
「音」で思考を追ったり…生と死を追ったり…過去と未来を紐付けたり…とスピリチュアルな現象を表現した所に面白さが詰まっていると思います。
とはいえアピチャッポン作品は難しく、来年3月くらいに日本でも上映される作品なので世界観に没入するためにも二度目も鑑賞してパンフレットで深堀りしていきます!
第9位:フレデリック・ワイズマン「ボストン市庁舎」
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ボストンを舞台にマーティン・ウォルシュ市長の奮闘劇を捉えたドキュメンタリー映画。
この映画は4時間30分かけて市長・職員たちと市民の対話を描いた作品で、真摯に熱意もって仕事に取り組む姿が印象的でした。
ドキュメンタリー映画だとセルゲイ・ロズニツァ「粛清裁判」「国葬」のような対比描写(仕事風景⇔ボストン街並み)が印象的でそういった緩急や仕事のやり取りが爽快感あってスピーディに映していると感じました。
多様な人種が共存する世界で、トップの思考で社会が醸成して…その思考が市民に伝播するサイクルが心地良くてドキュメンタリー映画の授業感とは違う満足感を得た作品でした。
第10位:キウィ・チョウ「夢の向こうに」
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元・統合失調症の男性の恋愛映画。
香港映画祭2021の作品で監督目的で鑑賞しました。
あるきっかけで出会った女性を脳内で別人格に作り上げて、その女性を愛するが…な話でそこから地続きのような演出がファンタジーさがあって良い。
コインの表裏みたいな関係や人格ごとの演技の切り分けも凄くて、魅力的な作品でした。
特別賞1:キウィ・チョウ「時代革命」
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2019年「逃亡犯条例」改正案が提出されて以降の香港市民の抵抗運動を描いたドキュメンタリー映画。
多くの危険を掻い潜って出来た本作は「現状を世界中に公開したい」必死さが伝わる悲痛の映画でした。
ドキュメンタリー映画は色々観てきて、様々な語り口・テーマを観てきたけど「時代革命」にしかない要素に徹底的な匿名性と世界に拡散しようとする「必死な悲痛」がある。
無形の圧力は今年見た作品だとアレクサンダー・ナナウ「コレクティブ 国家の嘘」が挙げられるけど、本作はその要素が極めて強い中で抗う人々の有志を捉えていて観終わったあとの不毛感が凄かった。
全世界に発信する事で香港の活動家たちの刑期を短くする事が出来た…という話を耳にした事がある。なので、この映画でも多くの人に観てもらう事で力になれる可能性が高いと実感した。改めてこの映画を見ることが出来て良かったです。
特別賞2:堀貴秀「JUNK HEAD」
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1人でほぼ全ての作品を仕上げたストップモーションアニメ映画。
「これ1人で作ったの凄い…」が似合う映画で、独自の世界線を構築した意味で一度は観て損はないレベルの映画だと思う。
特別賞3:マーク・コリン「ショック・ドゥ・フューチャー」
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女性ミュージシャンが音楽で成功しようと奮闘するお話。
音楽ユニット「ヌーヴェル・ヴァーグ」の人が監督した作品で、エレクトロなBGMが好きな自分にとって至福の時間でした。
この映画は音楽を題材にした映画で、音楽を制作する過程のパズルを組み立てる面白さや音楽自体に奥行きや空間をもたせるようなクラブハウスのライブ感をも感じる作りが面白い。
特別賞4:エルザ・クレムザー「犬は歌わない」
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スプートニク計画で宇宙に飛び立った世界初の動物である犬・ライカに関するドキュメンタリー映画。
野良犬目線でライカ亡き後のモスクワの世界を見る映画で、動物目線で見る映画は他にビクトル・コサコフスキー「GUNDA/グンダ」、アンドレア・アーノルド「牛」が挙げられる。
「GUNDA/グンダ」「牛」にない要素として、学術的好奇心で動物実験する科学者たち⇔野性的に殺し合う動物たち⇔人間都合で排除する様 が本質的に同じである「残酷さ」にあると思う。
想像の3倍はグロテスクな映画であるけど、ディストピア/ドライさを与える天才的な作りと主題は嫌いになれない魅力がありました。
2022年の抱負:「死ぬまでに観たい映画1001本」の走破
2022年も魅力的な新作や2021年より前の国際映画祭のコンペティション部門作品が日本上映されると思います。
そんな中で映画に関する知見があると見え方が広がる話を東京国際映画祭にて聞き、「死ぬまでに観たい映画1001本」を走破しようと決意しました。
数をこなすことで今よりも更に新作映画の理解を深める事が出来ると思うので、1年かけてどれだけ走れるか頑張ります。
映画について深堀り出来たのは何よりもフォロワーのシネフィルたちの活動あってのものなので、その想いを汲み取って飛躍していきたいなーと思います。
一年間ありがとうございました。来年もがんばります。
番外編:2022年の映画特集、新作で気になる映画
ここからは順不同で2022年以降に上映・特集される映画を紹介します。
気になる作品があれば私と一緒に鑑賞しちゃいましょう!
(1)アッバス・キアロスタミ特集「そしてキアロスタミは続く」
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目玉作品「風が吹くまま」
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(2)カール・テオドア・ドライヤー 特集「奇跡の映画カール・テオドア・ドライヤー セレクション」
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目玉作品
「希望」
![](https://assets.st-note.com/img/1640534069081-M7mNaEg2CO.jpg)
「ガートルード/ゲアトルーズ」
![](https://assets.st-note.com/img/1640534084917-e2mJUGzCvS.jpg?width=1200)
(3)タル・ベーラ特集「タル・ベーラ 伝説前夜」
![](https://assets.st-note.com/img/1640534004605-f56n1H7G8U.jpg)
目玉作品「ダムネーション」
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(4)杉田協士「春原さんのうた」
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(5)ブリュノ・デュモン「ジャネット」「ジャンヌ」
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