大好きなテレビドラマについて、そしてMIU404
成人してからずっとテレビ好き、いやドラマ好きです。
まだ大学生の頃、ビデオなんか持っていなくて、観たい番組があったら部屋にオンタイムに帰って観るしかなかった時代。運悪く自分にとってはクソどうでもいい集会なんかが重なって、テレビ番組を観損なった時の悔しさというかやり場のない怒りは今でも鮮明に覚えています。
その時以来、テレビ番組を観ることを何よりも優先するべきだと固く心に誓ったのでした。ちなみにその時観損なったのはウルトラセブンの再放送だったこともよく記憶しています。
時は流れ就職し、ついにビデオデッキを購入した時の嬉しさたるや、ものすごい文明の利器だと感心しかりでした。これでオンタイムの視聴生活から解放されるという希望に満ちた新しい生活様式だったんです。
それを境に、ドラマをビデオに録画しまくる生活が始まりました。ビデオは今のハードディスクレコーダーと違ってシーケンシャルにしか録画できませんから、ドラマタイトル毎にビデオテープを入れ替えて録画するという大変面倒くさい状況になりました。当然1台のビデオデッキでは間に合わず、複数台のビデオデッキを用意してやり繰りするという、ドラマを観るためというよりはただただ録画することが目的となりましたが、ここからコレクター魂が開花してしまい、ひたすらドラマを撮りまくる生活に突っ込んでしまいました。
何が面倒くさいと言ったって、当時はプロ野球中継が延長して30分ほどドラマの開始時間が遅れるなんてことが日常茶飯事で、そうすると頭30分野球中継が入ってしまうので、その場合は一旦別テープに録画したものをダビングするというなかなか面倒なことを行っていました。なので現在のハードディスクレコーダーの有り難みが身に染みてわかります。技術の進歩に感謝ですね。
ようやく本題のドラマ好きについて。別にドラマだけ録画してた訳じゃないんですけど、やっぱりテレビ番組ではドラマが一番面白かったです。バラエティやドキュメンタリーじゃなくて物語として作られたコンテンツが好きだったんです。ただ、映画や単発ドラマでは短すぎて物足りない。その点、連続ドラマというフォーマットが自分には一番ぴったりしていたと思います。
最近のベストドラマはやっぱり「MIU404」です。
脚本は野木亜紀子さん。「アンナチュラル」「逃げるは恥だが役に立つ」「獣になれない私たち」「重版出来!」など挙げたらキリがないくらい大好きなドラマばかり。
ドラマは脚本が命。なので脚本家が誰なのかはとても重要です。原作が面白くても脚本によってさらに面白くなるかつまらなくなるかが決まってしまう。どれだけ役者さんが渾身の演技をしても脚本がダメなら没入できない。脚本によってリアリティが担保されていると思うのです。リアリティがあるからドラマに入り込んで楽しむことができるのです。
野木亜紀子さんの脚本のどこにリアリティを感じるのか?
それは主に会話のシーンにあると思うのです。映画と比べるとテレビドラマは会話のシーンが多いですよね。なので会話の質がドラマの面白さに直結すると思います。何気ない会話にどれだけ脚本家の意図や思いを込められるか。このシーンでこういう言葉を言うのかと感心させて欲しいのです。
例えば、逃げ恥でのみくり(新垣結衣さん)と風見(大谷亮平さん)の会話。
みくり「家事代行のいる生活どうでした?」
風見「楽ではあったけど一人でもいいかな…」
みくり「風見さんは結婚願望がない女性と付き合ったらいいんじゃないですか?」
風見「そんな人いるかな?」
みくり「ほら、ゆりちゃんだって、昔はともかく今はもう他人と暮らすなんて考えられないって言ってます。そういう人を探せば?」
風見「探してまで誰かと付き合おうとは…」
みくり「それはまあ」
風見「今いるんですよ、ガンガン誘ってくる攻めの女性。人のこと知りもしないのに何を見ているのか…」
みくり「風見さんてロマンチストですよね?」
風見「えっ?」
みくり「心で繋がりたいんじゃないですか?見た目でなく自分自身を見て欲しい。じゃあ自分はそのガンガン来る女性の内面を見ることができているのかどうか。一度覗いてみたらどうですか?」
風見「うーん…」
会話の展開の仕方が心地いい上になんか深くて考えさせられる。これが橋田壽賀子さんの脚本だったら、どうしても嫁姑の間のちくちくした棘のある会話になっちゃいますよね。それはそれでリアリティはありますが…。
もう一つ忘れちゃいけないドラマの命は音楽。当然過ぎますが、映画も映画音楽というジャンルがあるように映像と音楽は切っても切り離せないと思います。そしてドラマと言えば、主題歌をエンディングやオープニングに効果的に使ってドラマを印象付けるのが定番。その主題歌を聞けばドラマのシーンが浮かび上がるというのが成功の方程式かと。
MIU404の主題歌は、「感電/米津弦師」。最初に聞いた時、星野源さんが主演だっただけに星野源さんの声かと勘違いしてしまいましたが、ここは安易に出演者と主題歌をタイアップさせないところにこのドラマへの力の入れ方が伺えます。しかもエンディングでもオープニングでもなく、毎回ここぞというクライマックスシーンに主題歌を当てているところが感電のオープニングのかっこよさと相まって最高です。
特に印象的なのは第9回の感電が流れるシーン。シリーズを通してずっと追いかけていた黒幕のエトリの逃走した車のナンバーを隊長の桔梗さん(麻生久美子)が緊急配備の指示をコールするシーン。「逃走車両ナンバーにあっては、品川二文字、数字331、新聞のし、てんてんの32!!!」
麻生久美子さんが男前でめっちゃカッコよく激を飛ばすシーンのバックで感電が流れていて、まさしく雷に打たれて感電してしまったような感覚になります。ハムちゃんが自らの死を覚悟する状況の中でようやく掴んだエトリの手がかり。ハムちゃんと一緒に戦ってきた桔梗隊長が興奮しつつも冷静に指示を飛ばすシーンは、このドラマ全体の最大の見せ場だったと思います。
MIU404が秀逸なドラマだと思うのは、テーマがしかっりとしていて毎回それをぶれることなく観ている側に問うてくること、それがシリーズを通してずっと繋がっているから第9回のクライマックスシーンがより強烈なカタルシスをもたらすことに成功していると思います。さて、そのテーマとは?
「機捜っていいな、誰かが最悪な事態になる前に止められるんだよ」
初回のエンディングでの伊吹役の綾野剛さんのセリフ。このセリフは第9回でも回想シーンとして出てきます。それだけ脚本の野木亜紀子さんの思いがこもっているのは間違いありません。
そう、このドラマは刑事ものですけど、事件が起きる前に焦点を当てたドラマです。殺人もなく、事件後の謎解きもない。だから暗くならないし従来の刑事ドラマとも一線を画しています。事件になる前に、誰かが過ちを犯す前に、それを正しい方向に軌道修正したい。誰かが事件に巻き込まれる前に助けたい。その思いで毎回奮闘する志摩(星野源さん)と伊吹(綾野剛さん)。でも間に合わず助けることができない。その繰り返しの先に第9回がある。いたずらをした高校生グループの一人成川を捕り逃がした結果、悪の道に引きずり込まれてしまった成川の更生と、その成川に騙されてエトリに捕まってしまったハムちゃんの救出に間に合うかどうか。「絶対間に合わせるぞ!」志摩の感情を押し殺したセリフ。激昂する伊吹。いや~痺れるシーンが続いていきます。そして…。主題歌の感電が流れるシーンへ。
やっぱりドラマはハッピーエンドが一番。MIU404のエンディングは実は最終回ではなく、この第9回だったのではないかと思いたい。間に合って助けることができて、一人の少年の更生もできて、プライドの高かった新米刑事の人間的な成長にも繋がって。
MIU404、いいドラマだったと思います。今後の野木亜紀子さんの脚本に期待。また「ドラマのTBS」と言われるだけあるTBSにも期待します。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?