うちのカフェは朝8時からオープンしている。
そんな朝早くに来る人いるの、っと思われるかもしれないけれど、この世の中には朝早くからちゃんと、活動してる人が案外多い。

昨日も朝8時にオーニングを出して、オープンの看板を設置して、コーヒーでも飲みながらのんびり開店準備をしていたら、
「あの、開いてますか?」と、一人の男性がやってきた。

「はい! 開店してます。ご注文はこちらでお願いします。」

「あーよかった。朝から引越しで、電気がうまくきてなくて、それであせっちゃってバタバタして、あーまあ電気は業者さんが来て、それでどうにかなりそうなんですけど、朝早くからずっとだし、お腹もすいてるから、なにか買ってきてやるよって。 あ、弟なんですけど、引越し。 すぐそこにね。 引越しで。いやーほんと大変で。
あ、なんだかいろいろ話しちゃって、すみません。 オーダーしなくちゃ。 なにがいいかな。どうしようかな。うーん。」

このあたりには、コンビニが1軒あるくらいで、表通りにはほとんどなんのお店もない。なじみのない人では、朝ごはん買いたくても、買うところが見つからなくて焦っちゃったのかな。

「お腹空いてるなら、ランチのローストチキンはもうお出しできますよ。 あと、クロックムッシュ、ホットサンドイッチみたいなものですけど、そちらもあります。 もっと軽いものがよければ、スコーンにベーコンメープルとか?」

「ああ、じゃあローストチキンにしようかな。 あそれと足りないかもしれないから、そのクロックムッシュもお願いします。 あー持ち帰りで。なんせ引越しなんで、電気もないし、いろいろと大変で。」
「ありがとうございます。 じゃあ、ランチとクロックムッシュあたためますね。 お飲み物はどうなさいますか?」
「あーそっか、飲み物か。 そうですよね。 えーっとじゃあ、うーん、冷たいほうがいいかもしれないし、えーっとざくろソーダっていうのと、あ僕は普通にコーヒーでいいか。」

お会計をすませ、準備ができるまで手持ち無沙汰に椅子に腰掛けていた男性だったが、ぼんやりケーキのショーケースを見ているなっと思っていると、突然キッチンにいた私に声をかけた。

「あのーすみません!オーダー終わってんのに、ほんとすみません、でもバナナケーキっていうのも、きっと一つ欲しいかなって。ケーキ今からでも注文できますか? あーなんだかいろいろね。すみません、なんせ引越しなんで。」

慣れない引越しと、早くもどらなくちゃとあせる気持ちで、入り口のケーキのショーケースも目にはいってなかったんだ。 
もちろん注文できますよ。 ローストチキンとクロックムッシュをあたためて、ドリンク用意して、バナナケーキを1切れ包む。

「はい、お待たせしました。使い捨てのフォークもいれておきますね。」

「あ、ありがとうございます。 そうなんです。 何にもなくて。 引越しなんで。 いや、弟なんですけどね。 僕は2年生で、弟がね。 なんだか、僕まで新入生みたいな気持ちになっちゃって。 
いいですよね。新入生。 1年生だもんな。 あ、弟、東大なんですけど。 でもね。 なんだか、僕も新入生いいなあってすごくうれしくなちゃって。
あ、急いでもどらなくちゃ。 ありがとうございました!」

そう恥ずかしそうに言うと、あたたかいローストチキンとクロックムッシュとデザートのバナナケーキ、それにドリンクを入れた紙袋を手に、弟くんが待つアパートへむかって足早に帰っていった。

弟の引越しを手伝うなんて、きっと兄弟とっても仲がいいんだろうな。
去年自分が大学に入学したときのワクワクした気持ちを、今また思いだしてるんだね。
大好きな弟が難しい志望校に見事合格して、大学生になって、春からは新一年生としての生活を始める。そう考えただけで、お兄さんまでこれからはじまる新しい生活にドキドキしてきたんだね。
そんな、ワクワクとドキドキが一緒になって、気持ちがめちゃくちゃうれしくなちゃったんだ。

そうですよね。新入生っていいもんです。

引越し頑張って! そして、これかれも兄弟仲良く、大学生活を楽しんでください。

ちょっと、私まで嬉しくなるような春な出来事。

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