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読書アレルギー VS 桜のような僕の恋人

「読む」という行為が昔から嫌いだった。
活字を1文字ずつ目で辿る作業がいかんせん煩わしい。特に読書は大の苦手だ。本に親しむ習慣を持たなかったからだろう、そもそもの文字を追うスピードが遅い。もたついてる間にも目は文字を追おうとするが、今度は理解が間に合わない。仕方がないから同じ箇所に何度も何度も目を滑らせる。そうしているうちに自分のやっていることが全く空虚なものに感じられる。なぜ私が物書きの編む精神世界にわざわざ歩調を合わせてやらなければならないのかとさえ思えてくる。読書を喜んでするような人間たちとは、残念ながらこの先も一生相容れることはないだろう、そうも感じていた。
「読書」という行為が大嫌いなはずだった。


もちろん【桜のような僕の恋人】の存在は以前から知っていた。
中島健人くん(唯一無二の担当であり、ここで彼について脱線してしまうと日が暮れるどころか次のオリンピックが始まってしまうので割愛)が雑誌で紹介していたから。紹介部分はほんの数行であったが、興味が湧かないこともなかった。そうはいってもやはり読書嫌悪症の私である。読まなかった。というか、もし読んで「なんかちがう」などと思ってしまった時のことを考えると、彼の見ている世界を否定してしまうようで恐ろしくて読めなかった。


私と読書との関係に特に進展もないまま1年が過ぎた。相変わらず「読む」のは漫画だけ。活字は雑誌のテキストの分量でもう腹一杯。
そんなある日、とんでもない一報が入った。【桜のような僕の恋人】が実写映画化するらしい。別にそれだけでは特段とんでもないということはなかったのだが、なんと、な、なななななんとその主演を担当が務めるというのだ!!!!!!!!!担当はお芝居の仕事が心から愛している人だ。演じることで彼がキラキラ輝いている姿をみるのは本当に楽しい。もちろん小躍りせずにはいられなかった。しかし担当の活躍を喜んだのも束の間、私は唸った。
「原作を…………………読まなければ………………」


「前門の虎、後門の狼」とはまさにこのことを言うのだろう。
「読む」のは読書嫌いの私が耐えられない。だがしかし、担当が主演を務める映画の原作、しかも担当自身が雑誌で紹介するほど傾倒する作品を「読まない」のはヲタクの私が許さない。悩んだ。自意識の中の虎と狼を何度も何度も闘わせた。











読むことにした。理由は単純。何か知らねぇけど学校の図書室に置いてあったから。現在私の中で大ブレイク中の神漫画、鬼滅の刃(ちなみに担当の影響でハマった)の単行本20巻を探していたところ、タイトル通り“桜のような”淡い雰囲気を纏ったカバーと目が合ってしまった。まぁ無料より高いものはないのでとりあえずお試しのお試しのお試しのお試しのつもりで借りた。
本を「読む」というよりは、例えばカタログを眺めるような気楽な気持ちで仕方なしにページをめくり始めた…………………





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…………ヌォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォおぉおおおォォォォォおおおおおおおぉ!!!!!!!!!破茶滅茶に面白いではないか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!なんなんだ?私がいま手に持っているモノは、その重ささえ心地よく愛おしいそれは、いったい本なのか?あれほど私が忌み嫌った「本」なのか?しかし、そんなことなど今はどうでも良い。目が追いつかない速さで脳が次の文字を、文章を、その先に広がる世界を欲していくから。
読みたい読みたい読みたい!!!!!!!!!!とにかくページをめくってめくって、私のナカに一刻も早くこの300ページをぶち込んでやりたかった。まるで渇きを恐れる動物のように、文字を飲んだ。我を忘れて夢中で活字を貪り食った。これまでの人生でおよそ味わうことのなかった類の充足感だった。ゆえに的を射た例えをすることは叶わないが、とにかく気分が良かった。「読む」という行為に没入し始めてから果たしてどれほどの時間が経ったのだろう。泣いていた。今まで生きてきて、初めて読むことによって涙を流した。抑えても抑えても止まらない。止まるはずがない。とめどなく溢れてくる涙を、歯止めが効かず決壊したダムを、私は持て余した。(【桜のような僕の恋人】を知らないキミは「なぜこいつは急に泣き出したんだ?」と怪訝に思っていることだろう。涙の理由をあますことなく書き連ねたいところだが、私の駄文でこの作品のあらすじを伝えてしまうのはあまりにも憚られる。何より、あなた自身の眼でにまず読んで欲しい。なので詳細は明かさない)
260ページあたりからは、とにかく滴り落ちる涙との闘いだった。読んでは泣き、読んでは泣きを幾度となく繰り返した。泣いているうちに、息をするのも苦しくなってくる。最終的に1ページ読んでから5分かけて息を整えるという、破格級に燃費の悪い読書リズムが完成しまったが、何はともあれ私は読みきった。本を読めた。読書経験の乏しかった私が、初めて涙を流せた本が“桜のような僕の恋人”で本当に良かったと思う。これまで読書に対して抱いていた感情はまったくの空虚な妄想であった。読書の尊さ。それを気づかせてくれた中島健人くんには感謝しかない。今から映画の公開日を待ち焦がれている。おそらく映画を観るときも私は1分観ては5分休むという超悪燃費スタイルを採用するであろうが、彼がどう演技で魅せてくれるのか楽しみで仕方がない。


何はともあれ、ぱいぱーい!!!!!!

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