見出し画像

時刻表 #シロクマ文芸部

走らない、いや、走れないのよね。
清子さんは急いでいました。あと2分しかないのです。

丘の上に引っ越した清子さんは快適な暮らしを続けています。今日はバスに乗って街まで買い物に行きます。玄関からバス停までは歩いて10分。清子さんは自分をみくびっていますから、15分前には家を出て、のんびり歩き始めました。なのにどうしてこんなことになったのでしょうか。

小走りになりながら、後ろからバスに追い越されないか気が気ではありません。時間がないというのについつい振り返ってしまいます。バス停はもう遠くに見えているのですから、ここで万一バスに追い越されて乗れなかったら喜劇、いえいえ悲劇としか言いようがありません。

清子さんはわかっていました。最大の間違いは、空を見上げたことです。そこには真っ直ぐくっきり飛行機雲が見えていました。あの雲に体をくくりつけて、シューーっと滑ったら気持ちいいだろうななんて考えたのがそもそもの始まりです。くふくふと笑いながら、視線を下げていくと、そこには美味しそうな柿がなっていました。日がよく当たる方の実はすっかり秋色になっています。反対側は夏を惜しむようにグリーンでした。同じ一本の木なのに不思議だわとしげしげと眺めていたら、木の向こうの垣根の上に座っていた三毛猫さんと目が合いました。

あら、こんにちは、といったら「みゃおん」と返事をしてくれて、逃げていかなかったので、気をよくした清子さんはちょっともふもふさせてもらおうと手を伸ばしたんです。あともう一息、というところで、シュッと俊敏な猫パンチをくらいました。イタタタと言いながら、さすが猫だわ、と妙に感心してしまいました。「みゃ」と怒られたので、驚かせてごめんねと謝っておきました。

するとその垣根の下に、ピンクのかたばみの花が咲いているのに目が行きました。ハートの形をした葉っぱがかわいいなあと座り込んで眺めてしまいました。小さな頃、このピンクのかわいらしさに惹かれて、摘んで家に持って帰りましたが、家の中でコップに差しておいたら、あっという間に花はしょんぼりとしてしまいました。この花は家の中が嫌いな花だとあの時に覚えたのです。その時、清子さんは思い出しました。

そうだ!バスの時間!!

時計を見ると、なんと、あと3分しかありません。バス停はまだ見えていないのです。走りたい、でも、走れないのです。なぜなら、この道はなだらかな上り坂なんですから。こんなところを走ったら、バスには乗れるかもしれませんが、今日の体力は、ジ・エンドです。そうなったら、せっかく出かけるのに、帰りたくなってしまいます。というより、バスに乗ったことすら後悔しそうです。

というわけで、清子さんは焦理ながらようやくバス停につきました。さあこいバス!と呟いたのですが、なかなかバスが来ません。なんだか変だなあと思ったのは、5分以上が経ってからでした。恐る恐る時刻表を見たら、どういうことでしょう。今日は日曜ダイヤではありませんか。15分前、すなわち、とっくのとんまにバスはいってしまって、次はあと5分後です。清子さんが猫パンチを受けていた頃には、バスはもう行ってしまっていたことになります。

しょうがないなあもう、と流石の清子さんもしょんぼりと呟きながら、空を見上げるとそこには恐竜のような形の雲がぽっかりと浮かんでいます。思う存分眺めても、もうバス停ですから、心配無用です。清子さんはなんだか得をした気分になって楽しくなってきました。

恐竜と追いかけっこをしたらどうなるかしら、ふふ、走っちゃう。

平和な日曜日が過ぎていきます。


肩の力を抜いて、清子さんの日記を書きました。ちょっとズルです。何にも考えずに書いたからです。なんだか急に忙しくなって、なかなかみなさんのnoteに遊びにいけずにいます。あの方やあの方の小説を読みにいきたいの。月曜日は仕事をおやすみにしようと思っているので、一気読みしたいと思います。

小牧部長、今週もありがとうございました。
秋が急にやってきましたね。温かいお茶をおひとつどうぞ🍵

いいなと思ったら応援しよう!

Marmalade
いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。