春が来て(2) #シロクマ文芸部
風車には忘れられない思い出がある。
あれはまだ宗佑が五歳の頃のことだった。宗佑の記憶の中ではもしかしたら一番古い記憶かもしれない。
幼稚園の春休み、宗佑は隣町に住む祖父母の家に毎日預けられていた。町医者をする祖父の手伝いを、看護師だった母がしていたためだ。
あの日は祖母に作ってもらったストローと折り紙でできた黄緑色の風車を手に持って、すぐ近くの山神社のてっぺんに向かっていた。桜の季節だった。はらはらと風にのる桜の花びらをうけながら自然に回る風車がなんだか嬉しくて、宗佑も踊るように石段を登って行った。
神社の境内に入ると、桜の花びらを捕まえようと追いかけている一人の女の子がいた。くるくると走り回るその子はまるでティンカーベルみたいで目が離せなかった。花びらを捕まえた!と思った瞬間、すてんと転んだから、宗佑は「わ!」と大きな声を出してしまった。その瞬間、その声におどろいた女の子がシクシクと泣き出した。
もちろん宗佑はティンカーベルを助けに行った。「ほら、ふーって吹いてみて」と風車を渡すと、ほっぺに涙をつけたままその子はふーっと吹いて、にっこりと笑った。その瞬間、宗佑は降ってくる桜の花びらをこの子のために全部集めてもいいと思ったような気がする。そして、その子はこういった。
「わたし、若葉、あなたはだあれ?」
次の日も、次の日も、宗佑は神社に行った。夏休みも冬休みも。でもそれっきり若葉と会えることはなかった。たった一日だけの初恋だった。
(続く)
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小牧部長、今週もありがとうございました♪
先週発作的に始めたものの、全然どうしていいか分からず、七転八倒、四苦八苦、暗中模索、並べればいいってものじゃない四文字熟語な気分で書きました。支離滅裂。
と言うわけで、来週はどうなるのだろう。
いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。