【#白4企画】桃の正しい食べ方
台風一過の朝、小桃がやってきた。
風雨にさらされた夜を超えてみれば、朝は洗い立てのシーツのように爽やかでちょっとよそよそしい。台風5号は渦を巻いて日本列島になつくように近寄ってきた。この台風の名前はpheasantと名付けられた。日本語にしたらキジってところだ。おかげで、昨日来るはずだった小桃は来られなくなり、今目の前にいる。
「あのね、おまけがついてきた」
到着するなり、なんのことかと思ったら、玄関口から
「犬塚くーん」
と声をあげる。
すると、玄関の影から、もっさりとピレネー犬のような男の子が現れたからびっくりだ。思わず、言ってしまった。
「どちら様でしたっけ?」
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小桃が好きだからと用意してあった桃はパックにかろうじて二個入っていた。だから、二人の前にひとつづつ丸ごと出した。
瑞々しい桃にガブリと歯を立てる小桃をみて、目を丸くするピレネー君はオドオドとこういった。
「小桃ちゃん、皮むかないの?ちくちくしないの?」
口の周りをベタベタにしながら、小桃はにっこりと笑う。
「これが一番美味しい食べ方なんだよ」
逡巡した挙句、他に方法はないと思ったのか、ピレネー君もそうやって食べ出した。案外気に入ったらしく、ベタベタになりながらも、うまいうまいと食べている。
「ところで、私は皮むいて切って食べるけどね」
と伝えておいた。山川家の伝統だと思われたら困るから。
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手と顔を拭いて、ひと心地ついたお二人が、神妙な顔をして座っている。薄々嫌な予感はしていたが、小桃がこう切り出した。
「ねえ、お母さん」
こう来る時は碌なことがない、というのはこの子を育てて25年の哲学だ。いきなり、両手で耳を塞いだ。
「お母さん、何それ?」
沈黙を貫くしかない。山川家代々続く習わし「困ったときは三猿」だ。正直言って、この場を立ち去りたい。借金の申し込みも嫌だけど、もっと嫌なのはあれだ。
小桃は鞄からゴソゴソと何か紙を出そうとしている。わわわ、これはもしかしたら、婚姻届いきなり出して来るの????
「みたくない」
目を瞑った。小桃はやんややんやと騒いでいるし、目をこじ開けようとさえしてくる。小桃じゃなくて小鬼って名前にすればよかった。山川小鬼、こういう名前は市役所で受理してくれないんだっけ。
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散々すったもんだしたが、ずっとやっているわけにもいかないと思い始めた頃だった。
「ただいま〜」
団五郎さんが帰ってきた。やれやれ助かった。ここは団五郎さんにキッパリと「まだ若い!」と言ってもらおう。
「お父さん、お母さんひどいの」
ほらきた。団五郎さんはこう見えて、やる時はやる男だ。大丈夫、きっと大丈夫、そう信じて、そおっと席を外した。
台所で、団五郎さんように、冷茶を入れる。大きなグラスに氷をたっぷりと入れて、緑茶を注ぎ入れる。熱で氷が少し溶けいい具合だ。からんからんとかき混ぜていると、リビングから、団五郎さんの笑い声が聞こえてきた。
え?ミイラ取りがミイラになった?
がっかりして、お茶を投げ捨てようとしたところで、台所に団五郎さんが入ってきた。
「何?」
「おっかないな。鬼の形相でどうしたの?」
私は唇を噛んで、キッと団五郎さんを睨みつけた。
「吉美ちゃん、泣いてるの?なんか勘違いしてない?」
団五郎さんは本名のよしみではなくあだ名で私を呼ぶ。二人合わせてキビ団子だと出会った時から嬉しそうだったけど、今も嬉しそうだ。
「ねえねえ、小桃はこの紙を持ってきたんだよ。プレゼントだって」
それは、二泊三日岡山の旅、と書かれたチラシだった。
「僕らの銀婚式のお祝いだって」
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お母さんが勘違いしてくるくると踊るのは毎度のことだ。
だからとうとう言い出せなかった。
犬塚君の名前が太郎だってこと。
まあそのうちね。
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白鉛筆さんの企画に参加させていただきます。
白鉛筆さん、4周年おめでとうございます!ぱふぱふ🎺
今朝早くに、noteを開けたら、白4の文字が縦に並んでいてびっくり。みんな早い!とても盛り上がっていますね。中でもKaoRuさんの墨絵にいたく感動しました。
数日前より、参加させていただこうと思って、出だしの二行だけ書いてあったんですが、おとといから急激に仕事が忙しく、諦めかけていました。
諦めきれず、今、食後のお茶を飲みながら、思いつくままに書きました。当初は怖い話にしようと思っていたのですが、いつもの調子で、登場人物を並べただけになったような気が、いやはや、出すのがちょっと躊躇われるけど、お祭りだから、いいよね😊というわけで、エイヤーと出してみます。
今月いっぱい忙しくしております。みなさんの桃太郎を読めるのはゆっくりペースになりますが、とっても楽しみにしています♪
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さあさあ、鬼退治に行ってきます。