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私だけの楽器をたずさえて #シロクマ文芸部

卒業の朝、空はいつも以上に美しかった。

朝、窓から空を眺めるのははなの日課だ。今朝は水色に一滴ピンクを落としたような色で、街を包んでいる。いつも通り、コーヒーを淹れて、いつも通り気持ちを整える。

卒業は何度も体験してきた。幼稚園、小学校、中学校、高校、そして、ジュリアード音楽院も。卒業式のたびに、希望、夢、未来、ふわふわとしたものだけでできたもので胸がいっぱいになった。この空のような美しい色をした気持ちに包まれていた気がする。いつかカーネギーホールの舞台に一人立って、満席の観客を自分のバイオリンで感動させる、そんな夢で。

後悔はしていなかった。それでも、随分と大きな決断をしてしまったのだと、長年追い続けていた夢からの卒業の日を迎えた。感傷に浸るほどの時間もなく、その日もいつも通り、のはずだった。だって卒業って言ったって、今日、ここを去るのは私一人だもの、そっと静かに去っていこう、そんなふうに華は決めていた。

オケの練習を終え、友人たちとの別れも早々に、恩師のもとに挨拶に行った。白髪が艶々と美しいジル先生はそっと華を抱きしめてこういった。

私は知っているわ。
あなたの努力も。あなたの毎日も。
自分を誇りに思ってね。
そしてどこへ行ってもあなたなら大丈夫。
あなたが楽器を手放したら、
今度はあなたの体があなたの楽器です。
大切にできるのはあなただけよ。

卒業、今は前に進むだけ。
華は涙を払ってにっこりと空を見上げた。

🎻

小牧部長、今月もありがとうございます。

卒業シーズンですね。
卒業を迎えられるご家族のいらっしゃる方に、おめでとうをお届けします。

いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。