星紙のくちづけ #シロクマ文芸部
手紙には丁寧に折った鶴を一羽入れることにしました。それを作る折紙は特別にあつらえる星紙です。
さああ さあああ
今宵も星々の煌めく音に紛れて紙漉きの音が聞こえてきます。
天の川では彦星と織姫ばかりが有名ですが、之彦と香美姫もおりました。二人も禁じられた仲で一年に一度の逢瀬を指折り数えて過ごします。之彦も初めは彦星のようにウリを作っていましたが、腕を買われて、今はシマのついた西洋瓜を作るようになりました。香美姫は天の川の紙漉き職人として、空の上の神々のために透き通るような美しい紙を漉いています。
紙といっても神々にはそれぞれの好みがあります。それに合わせてカスタマイズされた紙を使っているのです。何に使うのかといえば、いわゆる通達のようなものに使います。あの二人を結びつけよ、とか、意地悪なあの人にバチを当てよ、とか、そんな感じです。その通達は、紙飛行機になってすいっと地上に向かって飛んでいきます。すると、ふわりと溶けて実現していくのです。香美姫が作る紙は、空気に乗って遠くまで飛ぶことができ、そして、跡形もなく美しく溶けることができるものだったので、神々にとても愛されていました。そのおかげで、香美姫は一年に一度しか会うことのできない之彦に、ひと月に一度は手紙を送ることを許されていました。
さあできました。この紙は特別です。天の川を流れてくる星々の中でも特別気に入った形のかけらを少しづつ散りばめて作りました。丁寧に鶴を折り、そっと封筒の中に入れました。
毎年7月8日が一番辛いのです。一年に一度の逢瀬を終えた翌朝が。この手紙は今宵之彦に手渡します。明日の朝読んでね、と伝えるつもりです。この紙は特製ですから、鶴はふわりと羽ばたいて、彼にそっとくちづけして溶けていくことでしょう。逢瀬の名残を残しながら。
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小牧部長、今週も提出いたします。
七夕ですね。笹の葉さらさら。今夜は冷やし中華です。意味はありません。
さっきトラオさんから「Happy Tanabata」というメッセージが届きました。みなさんにも、ハッピー七夕。
明日はトラオさんのお誕生日なので、香美姫さんの特製折り紙を私も特別ルートから注文しました。