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ショートショート「織りなして 灯りがもれて」

心についた傷は
癒しても癒しても
小さな隙間を作って
じわじわと私を変えていく

咲良さくらは傷つきやすい自分があまり好きではない。だから、傷つかないように、してきたつもりだった。なのに、明るい立ち居振る舞いを続けるたびに、まるで、丁寧に張られた縦糸に、でこぼこの不揃いの糸を織っていくようなそんな違和感を感じ続けた。


まるで孤高のライオンみたい

本社から転勤してきた俊太郎を、初めて見た時そう思った。廊下でひとり窓の外をみて立っていた彼の横顔はあまりに印象的だった。

仕事熱心過ぎて、面倒くさい、というのが部署内の評判だったが、咲良にとってはそれが好印象だった。自分の信じるところを周りに惑わされず貫いている彼をひそかに応援しているうちに、俊太郎の視線を感じるようになった。

彼の目が追いかけてくる。遠くにいても、彼がこちらを見ていると感じるのは、まんざら気のせいではないようだった。というのも、彼のアシスタントがふと「咲良さんの声がするとチーフそわそわするんですよね」ともらしたからだ。「気のせいじゃない?」と言いながら、頬が赤くなるのを抑えるのに必死だった。


相思相愛、だったと思う。なのに、ある時を境に、俊太郎が冷たくなっていった。咲良の心に執着心と独占欲が渦巻くようになりはじめ、些細なことで冷たくあしらってしまった。そのあと、時間が流れていくばかりで、気が付けば、俊太郎は転勤していった。

ここから抜け出したかった。何から抜け出したいのかもよくわからないままに、藁にも縋る思いで、いろんな本を読み漁り、ご自愛、という言葉も知った。掘り返してみれば、小さいころいじめにあったことや、家族との関係、いろんなことに傷つき、そしてそれは癒えてもなお傷として心の残っていることを知り、幸せになるためにと半ば強迫観念のようなものに苦しめられている自分が漉けて見えた。


あれから2年、あの頃のことを思いだすと、穴があったら入りたいくらいだ、と咲良は数か月前に買ったランプを眺めながら思いを巡らせていた。何が転機だったかはよくわからない。時間が必要だった。幸せの定義をかえるための。

ふらっと入った雑貨屋で、レースのランプから漏れてくるちらちらとした灯りに見とれていた時に、店主が話しかけてきた。

レースの模様がいいでしょう?
隙間の開いたランプシェードは美しいんです。
中に灯りをともしてさえいれば、なおさらね。

あ、そうかと腑に落ちた。私が編んでいたでこぼこの隙間だらけの布からもきっと灯りがもれだしていく。灯りをともしてさえいれば。迷うことなくそのランプを持ち帰った。

今週もがんばった!と思いながらランプの灯りの中で、ただ幸せだなあと温かな気持ちに満たされていた時だった。ちりんとメッセージが届いたことを告げる音がスマホからなった。

来週月曜、出張で行きます。
一緒に晩飯食いませんか?

(1178文字)

💓

感謝を込めて
冬ピリカグランプリと同じ条件で書いてみました。

改めまして、
冬ピリカグランプリへのたくさんの応募、
本当にありがとうございました。

初めての審査員、しかも、小説やショートショートでは
本当にひよっこなのにと思ったのですが、
わたしなりの視点で拝見させていただきました。

どなたも本当に力のある作品を創作してくださって
本当に感謝しております。

そして何より、主催のピリカさん、お仕事忙しいのに
200%以上の力をこの冬ピリカグランプリに注いで
いらっしゃいました。
みんな大好きピリカさん♪がまとめあげたこの企画は
たくさんの方に愛される素敵な優しい企画として
大団円を迎えることができ、いち審査員として、
ピリカさんをはじめ、小牧さん、shinoさん、カニさん、ゆりさんと
ご一緒できたことを、そっと誇りに思っております。

不束者ですが、みなさん暖かく見守ってくれて
本当にありがとうございました!!